「春節商戦」爆買いから“顏値”へ!? SNS普及がもたらした中国人旅行者の変化

カテゴリ:ワールド

  • 訪日外国人旅行者数と旅行消費額が過去最高を記録
  • 「お茶をたてたい」「握手会に参加したい」などニーズが細分化
  • 中国人旅行者を呼び込むには「顔値」が重要!? 

訪日外国人旅行者の数は毎年増え、日本政府観光局によると、2018年は過去最高となる約3,119万人が日本に訪れた。国土交通省観光庁の消費動向調査(速報)では、訪日外国人旅行者の2018年の旅行消費額は4兆5,064億円にのぼり、こちらも過去最高を記録。今後の日本の成長戦略の一つの柱となっている。

日本政府観光局の訪日外国人旅行者数、国土交通省観光庁の訪日外国人消費動向調査を基に作成

この旅行消費を支えるのがアジア圏の国々だ。2018年の旅行消費額を国・地域別に見ると、トップ3は中国の1兆5,370億円、韓国の5,842億円、台湾の5,839億円となり、これらの消費額で全体の過半数を超えている。インバウンド戦略において、重視すべき存在と言えるだろう。

こうした中、アジア圏では旧正月の「春節」が近づいており(2019年は2月5日)、一部の地域では休暇シーズンに入る。
中国では年間最大の行事に当たり、関連する休暇期間(2019年は2月4日~2月10日)を利用して海外渡航する人も多い。
日本は中国人の旅行先として1、2を争う人気があるため、2019年も大勢の中国人旅行者が訪れることが期待される“商機”でもある。ただ、数年前に話題になっていた“爆買い”から、近年は訪日中国人旅行者の旅行消費に変化が出ているという。

「お茶をたてたい」「握手会に参加したい」体験型行動

中国関連のマーケティングウェブメディア「中国トレンドExpress」を運営する「株式会社トレンドExpress」は、中国最大のSNS「微博」(ウェイボー)の書き込みなどを集計し、企業などにマーケティング情報を提供している。

このうち、中国人が「日本に訪れたらしたいこと」を集計したランキングの近年の結果がこちらだ。

集計された「日本に訪れたらしたいこと」のランキング(2014~2018年)

ランキングの回答結果は、2014~18年を通じて「買い物したい」が不動の1位。その後は「温泉に入りたい」など、外国人全般に人気を集める回答が続いた。
やはり“爆買い”に通ずる買い物にいまだ人気があるのかと、その先のランキングを見てみると、近年は、2018年6位の「お茶をたてたい」、16位の「紙漉きをしたい」、30位の「漁に出たい」など、日本の文化や産業を肌で感じられる“体験型”の行動も上位に食い込んでいる。株式会社トレンドExpressによると、この傾向はここ数年で顕著になっているという。

「春節」などで訪れる中国人旅行者の考え方はどう変わっているのだろうか。株式会社トレンドExpressの森下智史編集長に話を聞いた。

「日本でしたいこと」のニーズが細分化された

――「日本に訪れたらしたいこと」ランキングの傾向は?

中国人旅行者の“爆買い”が有名になった2014年、ランキングは寺院や桜の観光など、純日本的なイメージの行動が上位を占めていました。これが、2016年ごろから多様化してきています。2018年はサブカルチャー関連の回答も多く、9位に「握手会に行きたい」がランクインしたほか、下位には「ミニ四駆大会に出たい」「プロレスを見たい」という回答もあります。「日本でしたいこと」のニーズが細分化されているのではないでしょうか。


――これらが変化した理由は?

日本関連の情報に触れる機会が増えたことが要因です。中国で普及している通信アプリ「微信」(ウィーチャットの公式アカウントでは、日本企業の情報が次々と発信され、中国のインフルエンサーに当たる「KOL」(キーオピニオンリーダー)はSNSで、日本のニュース番組や流行商品などを紹介しています。日本に関する情報が身近となったことで、訪日した際に「体験したい」と思える選択肢が増えているのではないでしょうか。

「日本慣れ」したリピーターが増えていることも要因です。ランキングを見ると、2014、15年は「日本料理を食べたい」が上位ですが、2016年以降は「日本料理を作りたい」もランクインするようになっています。複数回訪日している旅行者が、新たな体験を求めていることがわかります。

「今の中国人旅行者は情報収集して日本に来る。来てからのアピールでは遅い」と話す、森下編集長

――中国人旅行者の消費行動は変わった?

メディアでは「モノ消費」から「コト消費」への移行が取りざたされますが、中国人旅行者の「買い物をしたい」というニーズは今も高く、日本で買い物をしなくなることはないでしょう。ただ近年では、商品よりも“日本での買い物に付随する体験”に魅力を感じる人が増えていると思います。
言葉で表すとすれば「モノ消費+コト消費」でしょうか。

※「モノ消費」(商品の購入に価値を見出すこと)、「コト消費」(体験や出来事に価値を見出すこと)


――「モノ消費+コト消費」とは?

2014年ごろの“爆買い”では家電製品が売れましたが、日本の家電が選ばれた理由は「信頼性があり簡単に壊れない」から。一度購入すればしばらくは買い替える必要がありません。しかし、買い物自体に魅力を感じている場合は別です。例えば、日本では化粧品を選ぶ際、販売員が肌のカウンセリングをして自分に適した商品を勧めてくれます。中国では珍しい体験らしく、このカウンセリングを受けたくて“デパ地下”に行く旅行者もいるくらいです。

中国語の「顔値」が高いかどうか

――中国人旅行者に受けが良い施設やサービスの例は?

当社の調査では、中国人旅行者の多くが小売店の「ドン・キホーテ」に足を運んでいます。人気の理由は売場自体に魅力や希少性があるからです。商品の品ぞろえも豊富ですが、陳列された商品をみるだけで面白く、SNSを介した情報発信に活用しても目を引きます。このほか、鹿への餌やりが体験できる「奈良公園」や、ウイスキーが製造されるまでの過程を学べ、原酒の試飲を楽しめる蒸留所なども人気があります。

「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」の売場(提供:パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)

――人気を集める施設に共通していることは?

SNSにおける情報発信で注目を集めやすく、なおかつその場所でしかできない体験があることでしょうか。中国ではSNS発信の話になると、撮影対象の「顔値」が高いか低いかということが話題となります。この「顔値」は見栄えの良さを表した中国語です。日本でいう「フォトジェニック」ですね。

今は移転しましたが、築地市場が良い例です。あの施設は業種の分類では、魚介類を販売する卸売業ですが、店主との何気ない会話や狭い通路での試食など、あの場所でしかできない体験が数多くあります。大勢の外国人旅行者が訪れ、SNSで楽しむ様子などを発信しています。


――消費行動を刺激するため、企業や店舗はどんな取り組みが必要?

各企業は中国向けのインバウンド戦略を進めていますが、ただ取り組むだけでは結果にはつながらないでしょう。近年の中国人旅行者は「KOL」の投稿から生活に必要な情報を入手し、SNSの口コミで購買するか、利用するかを決めています。良い評判も悪評もすぐに広がるので、注意が必要です。

中国国内でも現在、百貨店に人が集まらないことが問題となっています。限られた時間で訪日する中国人旅行者に利用してもらうためには、買い物を楽しむ方法や空間を演出する努力をして、「顔値」がある場所とならなければならないでしょう。

中国のポテンシャルはまだまだ大きい

中国人海外出国者数の推移

――今後はどのような変化が想定される?

現在、中国でパスポートを所持する方は約1億人いますが、国民全体から見れば14分の1程度で、日本にはこのうち800万人しか来ていません。旅行者自体はこれからも増えると思いますが、この方々が日本に来てくれるかどうかは分かりません。ビザの発行条件も緩和され、欧米を旅行する方も多いです。中国人旅行者にとって日本の魅力とは何か、求めているものは何かを把握して、他国と差別化を図らなければならないでしょう。

中国人旅行者の多くは、日本人が「普段買っているもの」や「普段受けているサービス」を求める心理があります。「中国人旅行者はこう思っているはず」ではなく、日本に住む中国人に求めるものを聞くなど、相手の立場で物事を考えると良いかもしれません。

日本式の体験でビジネスチャンスを広げる企業

こうした中国人旅行者のニーズを掴み、ビジネスチャンスを広げる企業もある。

中国向け日本美容情報サイト「Beauty Park玩美花园(ビューティーパーク ガンビカエン)」などを展開する、東京都の株式会社オーエスもその一つ。
上海の旅行会社と業務提携を結ぶなどして、自社と提携する日本国内の美容サロン約40店舗の体験を、中国国内で予約できるシステムを構築した。

中国人旅行者は髪型やカラーの希望などを予約段階で伝えることができ、日本では指定された日時に店舗に向かうだけで美容体験を受けることができる。
店舗側には、言語翻訳アプリを搭載したタブレット端末などが整備され、店舗側のサービスと旅行者側のミスマッチを防ぐ仕組みだ。

「“HENSHIN(R)”メニュー」を体験する中国人利用者

美容体験には、日本式のヘッドスパ、トリートメント、フルメイク・ヘアアレンジを提供する「“HENSHIN(R)”メニュー」もあり、一定の需要があるという。
担当者は「客層における中国人旅行者の比率はまだ数%だが、今後伸びていくポテンシャルがある。中国の美容関係者が訪れることもある」と話す。

近年では、東京や京都、大阪など「ゴールデンルート」と呼ばれる定番の観光地ではなく、地方に向かう中国人旅行者も多いという。
地域や分野ごとに異なる魅力を把握して、日本ならではの魅力を発信することが、中国人旅行者の満足度向上やリピーター獲得など、他国との差別化につながるのかもしれない。

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