空自F-35戦闘機はこうして北朝鮮弾道ミサイルを撃墜する?:米MDR報告書

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  • ブースト段階でのミサイル迎撃 
  • F-35戦闘機のミサイル迎撃投入

MDR報告:極超音速兵器の脅威

トランプ米大統領(1月17日):
我々の目標はシンプルだ。いつ、いかなる場所から米国に向けて発射されたミサイルも確実に検知し、破壊することだ。

MDR:ミサイル防衛見直し報告

今回発表された、“MDR:ミサイル防衛見直し報告”。2010年に発表された報告書は「BMDR:弾道ミサイル防衛見直し」で、あくまでも弾道ミサイル脅威に主眼を置いたものだったが、今回の報告書は弾道ミサイルのみならず、巡航ミサイル、そして極超音速ミサイル脅威に対応することにも目を向けている。

MiG-31から発射されるキンジャール

トランプ大統領が自ら演説を行ったのは、昨年3月にロシアのプーチン大統領が、MiG-31戦闘機の改造機から発射する極超音速ミサイル「キンジャール」、核弾頭搭載原子力魚雷「ポセイドン」、極超音速滑空弾頭を大陸間弾道ミサイル(ICBM)に搭載する「アバンガルド計画」等、米国はじめ西側に同様の計画がない新兵器計画を発表し、12月にはプーチン大統領自ら、アバンガルド計画の試射を視察し、2019年からの配備を発表したことを意識したのかもしれない。

アバンガルド

来るべき米露首脳会談では、彼我の兵器について首脳自らが、どれだけの知識をもって相手と向き合えるかで、その後の実務者レベルでの戦略兵器についての交渉の明暗を分けることになりかねない。

プーチン大統領は昨年、ロシアの新兵器だけでなく、イージスアショアなど、米兵器システムについても立て板に水で語る自らの能力を、世界に見せつけた。

MDR報告でのトランプ大統領の演説は、兵器の詳細には踏み切んでいなかったが、米トランプ政権としても、プーチン大統領とテーブルにつくことになる米大統領本人が、新兵器について語れることを示唆したかったのかもしれない。ロシアだけでなく中国もまた、極超音速滑空弾頭の開発を行っているとされる。

予測しがたい極超音速滑空弾頭の飛翔

米国が懸念する極超音速兵器のうち、ICBMの弾頭を極超音速滑空体に変更すると、どんなことが起きるのか。従来のICBMなら、核弾頭はロケット部分から切り離された後、慣性の力で上昇し、大気圏外に飛び出すが、やがて重力に引かれて減速し下降。その後、大気圏に再突入し、標的の上で爆発する。

ただ、ロケットから切り離された後の核弾頭は、ほぼ単純な放物線を描いて飛ぶことになるため、どのような飛翔コースになるか計算できたため、弾道ミサイル防衛は、それを前提としていたのだ。

従来のICBMと極超音速滑空体の飛翔コースイメージ

しかし極超音速滑空体は、ロケット部分から切り離された後、地球の外周に沿う形で、いわゆる大気圏の外周ギリギリを石切りの石のように滑空。さらに、向きを変えることができるため、防御する側からは、極超音速滑空体を捕捉し、飛翔コースの予想が難しくなる。従って、これまでの弾道ミサイル防衛では、防御も難しくなることが予想される。

ブースト段階での迎撃

このためMDRでは、宇宙にセンサーを配置して、ICBM弾頭よりはるかに低空を飛ぶ、極超音速滑空体の飛翔をリアルタイムで捕捉する宇宙センサーや無人機へのレーザー搭載等を提言している。

北朝鮮など、周辺諸国の弾道ミサイルに悩まされている日本として、無視できないのが、新たに打ち出されたブースト段階での迎撃だ。

ブースト段階とは、弾道ミサイルや極超音速滑空体兵器が、ロケットを噴射して上昇している段階を指す。弾頭は、まだ分離していない。過去には、ジャンボジェットにレーザー砲を搭載して、弾道ミサイルが空気の薄いところまで上昇したら、レーザーで撃墜するというABL計画が立てられ、ジャンボジェットが改造もされたが結局、実用化はしなかった。

育つ/育てる戦闘機、F-35によるブースト段階での弾道ミサイル迎撃

今回、MDRが注目したのは、航空自衛隊も採用しているF-35戦闘機だ。

(以下、MDR p.55より引用):
米国防省の最新の戦術機であるF-35ライトニングIIには、ブースト段階のミサイルの赤外線を検出できるセンサー・システムがあり、そのコンピュータは、脅威のミサイルの位置を特定できる。今日、F-35は巡航ミサイルを追尾し、破壊できる。そして将来的には、敵の弾道ミサイルをブースト段階で撃墜できる全く新しい、もしくは改造された迎撃ミサイルを搭載する。

1300km先の弾道ミサイルを捕捉「EO-DASセンサー」

米空軍・航空自衛隊用のF-35ステルスA戦闘機、米海兵隊用で改造「いずも」搭載候補でもあるF-35Bステルス戦闘機は共通して、機体の周りを球体状に感知する光学・赤外線センサー、EO-DASを装備している。

2014年、EO-DASは開発段階で、約1300km離れたところを飛翔するロケットの映像をとらえていた。ただ、この際は爾後、ロケットの飛翔を録画していただけであり、リアルタイムでロケットや弾道ミサイルの飛翔に対応する仕組みがあったわけではない。

だが、1300kmという距離は例えば、米海兵隊のF-35Bが配備されている山口県・岩国基地から、北朝鮮の大部分がカバーできる距離だ。つまり、日本の領空またはその周囲からでも、航空自衛隊のF-35A、将来のF-35BのEO-DASセンサーは、コンピュータ・プログラムが開発されれば、弾道ミサイルやロケットをリアルタイムで捕捉できるのかもしれない。

上述の「ブースト段階のミサイルの赤外線を検出できる」とは、このEO-DASの能力を指しているのだろう。

弾道ミサイルを撃墜するNCADEミサイル計画

では、ブースト段階のロケットやミサイルを撃墜する手段はあり得るのだろうか。

かつて米国防省は、イラクのスカッド弾道ミサイルの対応に追われた91年の湾岸戦争の経験から、ブースト段階の弾道ミサイルを撃墜するため、F-16戦闘機やF-15戦闘機などに搭載されるAMRAAM空対空ミサイルを改造する。

AMRAAMを18発搭載したF-15(模型)

特に、弾道ミサイルやロケットの赤外線を捕捉する特別なセンサーを搭載する研究を行い、2007年12月には、そのセンサーを搭載したAIM-9X改造空対空ミサイルが、上昇中の模擬弾道ミサイルを撃墜した。このセンサーを、AIM-9Xより射程の長いAMRAAM空対空ミサイルを改造して搭載。ブースト段階の弾道ミサイルを撃墜するNCADE空対空ミサイルを開発するはずであった。

しかし、噴射中の射程1000kmを超える弾道ミサイルは、高度30kmを超えると、その加速から迎撃は難しくなる。このため、NCADEミサイルを発射する母機となる戦闘機は標的まで50km以内に近づくことが必要との分析が2012年に出た。これでは、地上の敵の対空ミサイル網に接近しすぎることになりかねない。

日本も導入したF-35A

しかしF-35戦闘機は、敵のレーダーに捕捉されにくいステルス機だという前提に立てば、条件は変わるだろう。敵の地対空ミサイル網を掻い潜って、ミサイルの発射機やブーストフェーズの弾道ミサイル、ロケットに接近できるのではないか。

また、F-35に内蔵する新型空対空ミサイルがNCADEより速く、射程が長いなら、さらに状況は違ってくるかもしれない。

繰り返しになるかもしれないが、弾道ミサイルも極超音速滑空体を搭載したミサイルも、NCADEを上回る性能の空対空ミサイルを搭載したF-35A・F-35Bには、同じような標的になるかもしれない。
なおNCADEの現在の開発状況は不詳だ。

米国やF-35の共同開発国が、MDRに記されたような方向に、F-35と搭載ミサイルを発展させるなら、日本の安全保障という観点からは見過ごせないことになるのではないだろうか。このプロジェクトに日本はどうかかわるのか、かかわらないのか。気にかかる点ではある。

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