イギリスのEU離脱をめぐる大混乱をすっきり読む方法

カテゴリ:ワールド

  • 『妥協は損。批判がお得』なら混迷は不可避
  • 国民投票“再び”は民主主義の自滅行為
  • 妥協の鍵は大混乱の犯人にされたくない議員心理

イギリスのEU離脱(Brexit)をめぐり、混迷が深まっている。離脱の日は3月29日に迫っているが、メイ首相とEU側がまとめた離脱協定案を15日に議会下院が大差で否決した。メイ首相の与党・保守党から118人が造反した。一方で野党・労働党が出した内閣不信任案については、保守党は結束して否決した。

一体、イギリスはどうなっているのか? もやもやした疑問にお答えしよう。

責任回避を続けるイギリス議会

ーーなぜこんな状況になってしまったのか

与党・保守党も野党・労働党も党内は四分五裂している。議員はイギリスを救うために協力するより、特定の支持層にアピールすることに余念がない。下手に妥協づくりに動いて批判を浴びるのは損。メイ首相や対立する党派や政党を悪者にしたてて批判する側に立つのが上策だ。イギリス議会(下院)が責任回避を続ける限り、「こんな状況」が続く。

ーーメイ首相、退陣の可能性はあるのか

メイ首相とEU側がまとめた離脱協定案は大差で否決され、与党から多数の造反者が出た。メイ首相の指導力・求心力は大いに傷ついた。一方で野党・労働党が出した内閣不信任案は否決し、メイ首相続投を決めた。ということは、与党・保守党が示した意思は、メイ首相の離脱案には反対だが、EU離脱をめぐる損な役回りはメイ氏にやり続けてもらおうということ。万一、総選挙なんてことになったら、自身の議員の地位が危うい。そんな事態には至ってほしくないという議員心理もうかがえる。

もともとメイ氏は保守党内の離脱反対派だ。しかし、「離脱」が国民の意思として示された以上、できるだけスムーズに「離脱」を実現させるのが国益だとして首相に就任した経緯がある。その考えが変わったとは思えない。自分から「退陣」はないだろう。

ーーすぐに離脱協定代替案は出てくるのか

出ます。議会がそう決めたからメイ首相は従います。しかし、否決された離脱協定案と大きく違うものにはなり得ない。代替案を詰める時間的余裕はないし、政党内・議会内が四分五裂している状況では、どんな代替案もすんなり認められるとは考えられない。それに、ほんの数日で素晴らしい代替案が出てイギリス議会で認められたとしても、それをEU側も受け入れてくれるとは考えにくい。最終的にはすべてのEU加盟国が個々に承認しなければならず、ハードルはとても高い。

3月29日期限延長の可能性も

ーーEUとの再交渉という可能性は?

EUから加盟国が離脱するのは初めてのケース。前例はない。ということは、イギリスにとってもEUにとっても何でもありだ。
双方にとって「合意なき離脱」は悪影響が大きい。どれだけ大きく長引く影響がでるのか、その全てを予測できているわけではない。事前にしっかり予測して準備も行っていれば、その影響を最小に抑え込むことも可能だろう。民間企業だって対策の取りようもあるというものだ。

しかし、3月29日に「合意なき離脱」がドーンとやってくると、必要な対策は不十分で、逆に不要な対策に拘泥したりして混乱が深まったりする。個人レベルでも必要な商品やサービスを得るのに想像を超える時間と手間と対価がかかったりしかねない。今、最も大きな障害とされている、北アイルランドとアイルランドの間の国境管理、通関の問題にしても、経済的コストだけではない。政治的コスト、地域社会が背負うコストも計り知れない。人は往々にして、実際に不都合や不利益に直面して初めて考えを変える。したがって3月29日以降も「再交渉」の可能性は常にある。よりあり得るのは、3月29日の期限の延期だろう。

ーー再び国民投票ということはあるのか

ありません。最初の国民投票の結果が具合が悪いのでやり直し‥ということになると、2度目の結果が具合が悪いので3度目を‥という声が上がるのは間違いない。そうなると「国民投票」は何度やっても信頼と安定を欠き、民主主義のツールとして使えないものになってしまう。一つ注意しなければならないこと。それは、まさかの「離脱」という結果が出たときに、「国民は考えなしだから、大事な判断は政治家に任せるべきなのだ」という議論があったが、それは違う。

国民投票に委ねたのは政治家だ。「離脱」を問う国民投票は議会が法律を作ってその結果は法的拘束力があるものにした。議会(議員)がこうすると決めて、その諾否を国民に問うたのではない。国民に丸投げしたのだ。この経緯を踏まえれば「議員は国民より考えが深い」という類の議論がいかに根拠レスか分かろうというもの。議会制民主主義の母国イギリスは「国民投票」を守るためにも「再投票」はしないと信じる。

反対している議員を賛成に変える秘策

ーーいい解決策はあるのか

いい解決策だという確信はないが、メイ首相が秘めている解決策は想像がつく。それは、離脱協定代替案を抱えて3月29日に向けてまっしぐらにダッシュすることだ。そもそも政治基盤が弱いメイ首相には、これ以上の案を用意することはできない。でも、「合意なき離脱」になるよりずっとましだと考えているだろう。要は今は反対している議員が賛成に変わればいいのだ。

そのために必要なのは時間と期限だ。今は反対している議員も、3月29日の期限が目前に迫ってくれば、「合意なき離脱」の大混乱を招いた犯人にされたくはないという判断から渋々賛成に回ると読み、期待する。それしかないというのがメイ首相の本音だろう。もしもその読みが外れたら、「合意なき離脱」に突入し、未曾有の混乱にイギリスが落ち込んでみて初めて、打開策の模索が始まることになる。

【執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋】
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