30秒で歯磨き完了! 口にくわえるだけの「全自動歯ブラシ」開発者に聞いた

カテゴリ:ビジネス

  • 早稲田大学の准教授らが開発 30秒で手磨きと同等の歯垢除去効果
  • 電動歯ブラシとは違う「低速のストローク」
  • 「要介護者の口腔ケアが効果的に行われていなかった」

日常生活で、多くの方が毎日行うことが歯磨きだ。自身の健康やエチケットに関わるため、朝と夜はもちろん、昼食後に欠かさない方もいるだろう。
だがこの歯磨きという行為、面倒と感じる部分も多い。最近では電動歯ブラシを使う人もいると思うが、手がふさがってしまうため、他の作業と並行して行うことは難しく、「誰か代わりに磨いてほしい!」と考えた経験を持つ人も多いのではないだろうか。

そんな方々必見の製品が誕生した。
早稲田大学の石井裕之准教授と「株式会社Genics」が共同開発した、その名も「全自動歯ブラシ」だ。

わずか30秒で口腔内を洗浄

全自動歯ブラシは、複数のモーターを搭載した機器本体に、マウスピースタイプの歯ブラシを取り付けて使用する。
口にくわえてスイッチを入れるだけで、歯の上下表裏に接した歯ブラシが上下左右に連動して動き、約30秒で口腔内を洗浄する仕組みだ。

歯ブラシ(左) 機器本体(右)

機器本体の大きさは、縦横、奥行きがそれぞれ6cmという手のひらサイズ。重量は約150グラムで、歯磨き中に手を離すことも可能、日用品として持ち運ぶのにも問題はない。
歯磨きに煩わしさを感じる人にとっては、「夢の装置」といっても過言ではないガジェットだ。

くわえるだけで手磨きと同等の効果があるという全自動歯ブラシは、電動歯ブラシとどう違うのか。そしてなぜ歯ブラシに着目したのか。石井准教授と「株式会社Genics」の栄田源代表取締役に話を聞いた。

日常生活の「面倒なこと」のリストを作った

――全自動歯ブラシを開発した経緯は?

石井准教授:
私と栄田は4年ほど前、早稲田大学の高西淳夫教授の研究室に所属してロボット工学などを研究していました。当時は私が若手研究者、栄田は在学中の研究員という立場でしたが、「ロボット技術で日常生活をもっと豊かに、便利にしたい」という同じ思いを持っていました。

そんな折、JST(科学技術振興機構)の支援プログラム「SCORE」の募集があり、採択されたことがきっかけで、全自動歯ブラシの開発に着手しました。
開発は現在、栄田が起業した「株式会社Genics」が主導していて、私は技術指導などに関するアドバイスをしています。

JST(科学技術振興機構)の支援プログラム「SCORE」
研究者や起業志望者を対象とした支援プログラム。ベンチャービジネスの事業内容などを提案し、採択されると研修環境の整備など支援が受けられる。

全自動歯ブラシの使用例。画像では機器本体にグリップ部分を接続して使用

――なぜ歯磨きに着目した?

石井准教授:
JETの支援プログラムに応募する際、提案する内容の参考とするため、日常生活における「面倒なこと」のリストを作りました。
当初は洗濯物や風呂掃除の手間を解決する機器を開発しようと考えましたが、これらの分野では既に技術革新が進んでいました。
その点、歯磨きは未開拓な部分が多く、自分たちの技術で開発できる「現実性」と技術の「革新性」を両立できる研究課題としてぴったりでした。

栄田代表取締役:
口腔ケアは高齢者の健康に深い関わりがありますが、介護現場では介護士不足や教育の不徹底から、要介護者の口腔ケアが効果的に行われていませんでした。
中でも歯磨きという動作は、介護側と要介護側それぞれへの肉体的・精神的負担が大きく、水や唾液を誤飲する危険性もありました。
口腔ケアに関連した補助機器を開発することで、これら問題の解決につながるのではと考えました。


電動歯ブラシとは違う「低速のストローク」

――全自動歯ブラシの仕組みは?

栄田代表取締役:
ロボット制御用のモーター「Pololu」を使い、機器本体の機構部に取り付けた歯ブラシを上下左右に動かしています。
歯ブラシは歯の全ての面に接するように設計しているため、約30秒の使用で全ての歯を同時に磨くことができます。


――既製品の電動歯ブラシと異なる点は?

栄田代表取締役:
既製品の電動歯ブラシは、超音波振動などの高速振動でヘッド部分を動かしています。
振動は早いですが動作自体は小さく、歯ブラシを動かしながら使用するケースも多いのではないでしょうか。

一方、私たちが開発した全自動歯ブラシは、人間が手磨きする動作に近い「低速のストローク」を特徴としています。
歯ブラシの動きをモーターで制御し、歯の湾曲に沿ってゆっくりと動かすことで、全自動でありながら手磨きと同等の歯垢除去効果を実現しました。


――開発で苦労した点は?

栄田代表取締役:
要介護者の方が使用することを想定していたため、口にくわえてブラシが動いた際、違和感を出さないことにはこだわりました。
機器本体の大きさ、歯ブラシの形状や素材などさまざまな条件を試し、歯列模型や自分たちの口で実験を重ねて現在の形状になりました。

歯ブラシの動く方向も変えています。試作品では歯列に沿った横方向のみでしたが、机などの汚れをふき取る際、いろいろな角度からこすった方が汚れが落ちた出来事を思い出し、歯ブラシが上下左右、さまざまな方向から歯に接するよう工夫しました。


開発過程の全自動歯ブラシ

「手磨きでは難しい部分のブラッシングも可能に」

――歯列形状は人により違うが、どう対応する?

栄田代表取締役:
人間の歯列形状は数パターンに分けられることが、自分たちの調査で分かっています。それぞれのパターンに対応可能な歯ブラシの開発を進めているほか、オーダーメイドへの対応も検討しており、歯列や口腔状態に適した歯ブラシを提供したいと考えています。


――歯磨き粉は必要?

栄田代表取締役:
手磨きの場合と同じく、必要に応じて使っていただければと思います。歯磨き粉を使わなくても、歯垢除去効果があります。


――どのような場面での利用を想定している?

栄田代表取締役:
介護現場や腕に障害がある方、歯磨きに時間をかけられない方、歯磨き指導がうまく浸透していない子どもらへの使用を想定しています。
歯磨きをしながら服を着替えることなど、時間の有効活用につながるため、幅広いニーズに応えられると考えています。


――全自動歯ブラシに期待することは?

石井准教授:
ロボットに関連する技術は今後、日常生活を豊かにする製品に活用されていくはずです。
全自動歯ブラシはその先陣を切る存在になるのではないかと期待しています。

栄田代表取締役:
介護現場や親族らの介護で苦労されている方、時間に追われている方などの負担軽減につながればと思います。
今後は歯ブラシの制御などを工夫することで、手磨きでは難しい部分の集中的なブラッシングなども可能になるでしょう。


CESで展示された全自動歯ブラシ

全自動歯ブラシは2019年1月、米国で開催された世界最大級の家電見本市「CES2019」で公開され、来場者からは販売を望む声が寄せられたという。
今後は介護施設などで実証実験を行い、歯垢除去効果や安全性などを確認した後、2019年度中の試験販売を目指す方針だ。

介護現場での負担軽減だけでなく、日常生活でも歯磨きの煩わしさから解放される画期的な商品。
想定される販売価格は、高級電動歯ブラシと同程度の数万円だというが、全自動歯ブラシが次世代のスタンダードとなるか、今後に注目したい。