親族による“処刑”の恐れから18歳女子大生が国外逃亡 ―サウジの恐るべき事案がまた明るみに―

カテゴリ:話題

  • 「家族が私を殺そうとしている」サウジアラビアの18歳の女子大生が訴え
  • 母国を脱出した末、バンコクの空港で強制送還させられるところだったが・・・
  • 悪弊の打破に必要なのは社会全体の教育レベルの底上げ

「家族が私を殺そうとしている」

"My family threatens to kill me for the most trivial things,"
「実に瑣末な理由で家族が私を殺そうとしている。」
サウジアラビアの18歳の女子大生の懸命の訴えである。

彼女が“バンコクの空港ホテルで立て篭もっている”という7日のCNNニュースで筆者はこの驚きの事案を知った。調べてみると、BBCはこのニュースをトップで大々的に扱っていたし、英紙・ガーディアンや米紙・ニューヨークタイムズもそれに準じる扱いだった。

トランジットで立ち寄ったバンコクの空港

この女子大生はサウジアラビアのラハフ・クヌンさんで、報道によれば、ラハフさんは、家族に殺される恐れを感じて母国を脱出、クウェート経由で5日、タイのバンコクの空港に到着した。その時、彼女は既にオーストラリアへの入国ヴィザを取得していて、バンコクの空港にはトランジットの為に立ち寄ったのだと主張していた。(後に、このビザ話は事実ではなかったと伝えられている。)

だが、空港で待ち構えていたのは、サウジの外交関係者で、その場で彼女はパスポートを取り上げられ、タイの入国管理当局に引き渡された。そして、7日月曜日に、バンコクからクウェート行きのフライトに搭乗させられ、強制送還されるところだった。

マットレスでバリケードを築いて立て篭もったラハフさん

しかし、彼女は黙っていなかった。軟禁状態になっていた空港ホテルの部屋にマットレスでバリケードを築いて立て篭もり、クウェート行きへの搭乗を拒否、同時に、同じサウジ出身の友人の助力を得て、自分の窮状をSNSで世界に発信、援けを求めたのである。



(ラハフさんの公式ツイッターより)

髪を短く切っただけで半年間自宅に軟禁され

ラハフさんが命からがら国外逃亡しなければならなかった理由は、我々から見れば当たり前の“自由”を彼女が求めたかららしい。

詳細は明らかになっていないのだが、男性の保護者同伴なしでは外出もままなら無いなど、女性には自由らしい自由がほとんど認められていないサウジの生活に反発し、イスラム信仰を破棄、海外移住を計画したのが原因のようだ。実際、友人によれば、母国の大学で学んでいたという彼女が髪の毛を切って短くしたところ、それだけで罰せられ6ヶ月に亘って自宅に軟禁されたという。

サウジに限らないが、部族社会の伝統が色濃く残るアラブなどのイスラム地域では、彼女のこのような行動は一族の恥とされ、男兄弟や従兄弟に殺害されることが今もあるという。“そうしなければ一族が表を満足に歩けなくなる”のだとラハフさんを手助けした友人も証言している。

異教徒との結婚が許されない女性たち



棄教は特に重大とされるようだが、それだけではない。イスラム教徒の女性は異教徒と結婚することが許されないと筆者はかつて某国で聞かされたことがある。これを筆者に教えてくれたそのアラブの某国の知人はキリスト教徒で、イスラムの女性と恋に落ちた彼の兄は愛しい女性と結婚する為にイスラムに改宗せざるを得なかったのだという。改宗せずに結婚していたら彼女は誰かに殺されただろうと彼は真顔で言っていた。だが、逆にイスラムの男性が異教徒の女性を妻にするのは問題にならないというから、これにも開いた口が塞がらなかった。

また、露出の多い派手な衣装でSNS発信を続けただけで従兄弟から殺されたパキスタン女性のニュースが数年前、イギリスで大きく報じられたのを忘れ難い哀しいニュースとして筆者は今も記憶している。

悪弊打破のためには教育を!

ラハフさんの抵抗をSNSで知った西側メディアの報道と人道団体の圧力で、事の重大性にようやく気付いたタイ当局は7日夜、彼女の強制退去を断念、ラハフさんをUNHCR・国連難民高等弁務官事務所の保護下に移した。彼女はきっと無事にオーストラリアに入国し、そこで難民申請をすることになると思われる。

ラハフさんの公式ツイッターより

筆者はアラブの専門家ではない。イスラムの専門家でもない。しかし、イスラム地域での(豊富とは言えない)取材経験を基に鑑みるに、こうした差別はイスラム信仰から出てくる問題というよりも部族社会の古い誤った伝統から生まれてきたという側面が強いと思っている。部族社会の伝統がやはり色濃く残るアフリカの某国は国民の大半がキリスト教徒だが、同性愛者が同性愛者であるというだけで今でも殺害されることがあると聞いている。

こうした悪弊を打破するには何といっても社会全体の教育レベルの底上げが重要なのだが、部族社会ほど女性に対する教育は不要という考えが根強いことに時に戦慄を覚える。ラハフさんの幸せを祈るとともに、彼女のように極めて困難な社会的環境に置かれている女性達の立場が少しでも改善されることを願っている。

(執筆:フジテレビ 解説委員 二関吉郎)

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