“総理番記者”とは・・・安倍首相を追いかけた1年と温泉秘話

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  • 第2次安倍政権発足から丸6年。そして7年目に突入
  • 普通の番記者と少し違う「総理番記者の仕事」
  • 夏の河口湖…安倍首相との入浴秘話

第2次安倍政権発足6年を迎え「挫折と経験生きた」

12月25日、安倍首相は翌日に2012年の第2次安倍政権発足から丸6年を迎えるのを前に、記者団からのいわゆる「ぶら下がり取材」に応じ、これまでの政権運営を振り返った。

この中で安倍首相は「6年前に政権を奪還して、希望あふれる日本を作っていく、そういう思いで国民の負託に応えるため、一日一日全力を尽くしてきました」と、6年におよぶ長期政権を感慨深く回顧した。

インタビューに答える安倍首相(12月25日)

さらに、長期政権の秘訣について尋ねられると、「今から12年前に第1次政権ができて、非常に肩に力を入れて頑張ったんですが、1年で政権が終わった。あの挫折と経験を、今回第2次政権が始まって6年、やはりあの経験が大切な肥やしになったなあと思っています」と、2006年に戦後最年少の52歳で首相となりながら、参院選の大敗とその後の病により1年足らずで辞任に至った経験が生きていると語った。

このぶら下がり取材で私が感じたのは、安倍首相が、話している最中ずっと満足感に溢れていたように見えたことである。記者団の前に姿を現した際から、「はい、どうも」と声をかけ上機嫌な様子が伺えた。さらに、話し始めると、ゆったりとした口調で、時折笑みを浮かべながら、実に感慨深い表情で記者団に語りかける姿が印象的だった。

首相という立場上、いつでも明るい話題ばかり話すことはできない。自身にとって都合の悪いことについて話さなければいけない場面も多々ある。そうしたこれまでの数々の安倍首相のぶら下がりと比べても、今回は一段と穏やかで、長期政権を築いてきた感慨深さを感じるものであった。

安倍首相にインタビューする「総理番記者」ら(12月25日)

さて、私が総理番記者となって約8か月が経とうとしている。安倍首相の6年には遠く及ばないが、これまで首相の日々の動向を追い、時にはマイクを向けて、直接質問をぶつけてきた“総理番記者”とはどのようなものなのか、改めて簡単に説明してみたい。

“総理番記者”の取材とは

首相官邸に入る安倍首相(12月27日)

「総理、おはようございます」

朝の首相官邸に響く、この呼び掛け声。毎朝、安倍首相が官邸に入る様子をウォッチする所から、首相を追う1日が始まる。

この毎朝恒例の声掛けだが、安倍首相の反応はまちまちだ。はっきりした口調で手を挙げて、「おはようございます」と返す日もあれば、「おはよう」と短く答えるだけの日、手を上げるだけの日など、その日の安倍首相の気分を表すかのように、日々異なる反応が返ってくる。
このわずか数秒のやり取りから、その日の安倍首相の心中を推し量ることが、総理番記者の朝の大切な仕事である。

記者団に手を上げる安倍首相(12月27日)

もっとも、実際に総理番記者が活動を開始するのはさらに早い。首相秘書官ら首相に近い関係者のいわゆる「朝回り取材」をしてから官邸に向かうことが多いからだ。

安倍首相が官邸に入ったのを見届けた後は、基本的に官邸のエントランスの一角で待機し、官邸を訪れる人に首相宛てかどうかを尋ねていく。首相との面会者であれば、どういった用件で来たのか、どのようなことを話し、首相はそれにどう答えたのかなどを取材していく。新聞各紙が毎朝掲載している「首相動静」は、日々このようにして書かれている。

しかし、私たち民放テレビ局の記者は、新聞のような首相動静は執筆していない。それでも、首相宛ての訪問者というのは、各省庁の幹部クラスや、与党の幹部議員といった大物が多い。そうした人物の動きをつぶさに追っていくことは、政府で何が動いているのか、与党で何が起きているのかを把握する上でも、極めて重要な仕事なのである。

そして、官邸内で首相が出席する会議などももちろん取材し、発言内容を確認しながら、重要な発言があれば、それを原稿化していく。さらに取材場所は官邸内にとどまらず、首相が出席する外部の行事などがあれば、官邸を飛び出して取材に行く。こうして基本的に1日中、首相を追いかけて取材し、夕方に首相が官邸を出るところを見届ける。

しかし総理番記者の1日はこれで終わらない。安倍首相は週に何度かは、通称「夜日程」と呼ばれる会食に向かう。会食の相手は政治家から財界人、マスコミ関係者に学生時代の友人など幅広い。重要人物との会食と判明すれば、すぐさま会食会場に直行し、安倍首相が出てくるのをひたすら待ち、同席していた会食相手を取材する。こうして、総理番記者の長い一日が終わるのである。

たった一度、安倍首相と一線を越えて向き合って・・・

政治取材に関しては各社ともに、特定の政治家の取材を、特定の記者が担当する「番記者」制度が敷かれていることが一般的だ。番記者は政治家と、日々の取材を通じて顔なじみになり、政治課題の取材以外にも、様々な雑談を交わし、時には1対1で酒を酌み交わして、本音を聞き出せる信頼関係を築いていく。

ところが、総理番記者は、事情が少し異なる。安倍首相は基本的に、官邸内の執務室にいるため、直接話すことなどはできない。他の番記者のように、雑談をする機会も、オフレコで本音を聞ける機会も基本的になく、一緒に飲みに行く機会などは皆無である。

「総理番なの?てことは、毎日、安倍さんと話してるんでしょ?」

私も総理番記者になったころ、他業界の友人にこうしたことを言われたが、番記者を代表してマイクを向けて質問をする時を除いて、安倍首相と直接会話できる機会などはないのが実態だ。

しかし、たった一度だけ安倍首相と直接「会話」する機会が訪れた。
2018年8月22日。私は、安倍首相の山梨県河口湖近くの別荘での休暇に同行取材していた。そしてこの日、別荘から出た安倍首相が向かった先が、富士急ハイランドに隣接する温泉だった。

首相が来訪するとはいえ、温泉は通常通りの営業をしており、一般客も大勢いるため、中に入ることは可能だった。私は意を決し、安倍首相が入浴している温泉内に向かった。

突然の安倍首相の登場で、中ではさぞ大騒ぎになっているのだろうか。そんなことを想像しながら脱衣場へと向かった。しかし、その想像は外れていた。夏休みということで混みあっていたが、特段混乱した様子はない。先に入浴を終えた客の数人から、「安倍さんが露天風呂にいた」などの会話が聞こえてくる程度だった。

安倍首相はいったい、温泉内でどのように過ごしているのだろうか。様々な想像を巡らせながら浴場内へと入った。すると安倍首相は露天風呂での入浴を終え、内風呂に秘書官とともに浸かっていた。それを見た私は、意を決し安倍首相に声をかけ、同じ浴槽へ入った。

安倍首相は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、心よく私を招き入れてくれた。そこで、ほんの数分間、その温泉の効能や家での過ごし方など、たわいもない会話をすることができたのである。

温泉施設を訪れた安倍首相(8月22日 山梨・富士吉田市)

温泉内での安倍首相は、誤解を恐れずに言えば、首相としての雰囲気を発してはいなかった。官邸での、スーツを着こなし厳しい目つきから放たれるオーラを温泉内では感じなかった。一般客がそれほど大騒ぎになっていなかったのも、おそらくそういったオーラを消していたため、多くが安倍首相の存在に気づかなかったからではないかと思った。

私の突然の入浴について、安倍首相が本心でどう感じたかはわからないし、内心で「なんだこの記者は」と不快に思ったかもしれない。しかし、そうした態度を私に見せることはなく、何気ない会話に付き合ってくれたのである。私にとって、「安倍首相」ではなく人間「安倍晋三」としての姿を初めて見ることができたのではないかと感じた瞬間だった。

平成最後の総理大臣へ

改めて、2018年を振り返ると、史上初の米朝首脳会談、日本各地で多発した自然災害、自民党総裁選での安倍首相3選、働き方改革法の成立など、国内外に激動の1年だったと思う。

そして2019年も、天皇陛下の退位と新天皇即位、G20サミットの日本開催、参議院選挙など、大きな動きが続く。

世間では、「平成最後の○○」というフレーズを聞く機会が増えている。平成2年生まれで、ほぼまるごと平成とともに歩んできた私にとって一抹の寂しさを感じるが、新しい時代へ向けての希望も感じている。

私が4月30日の時点まで総理番記者を務め「平成最後の総理番記者」となるかは現時点ではわからないが、安倍首相が「平成最後の総理大臣」となることはほぼ間違いない。それでも一寸先は闇といわれる政治の世界である。予断を持たず、平成最後の年の安倍首相を追いかけていきたいと思う。

(フジテレビ政治部 総理番記者 梅田雄一郎)

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