順天堂大「女性の方がコミュ力高い」から得点操作…入試時の“男女差”は本当に存在するの?

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  • 順天堂大学医学部の入試で、女子の合格ラインを男子より高くする“不正操作”
  • 「女子はコミュニケーション能力が高く、面接に有利」と説明
  • さらに、「入試以降は男女の『コミュ力差』が縮まる」は本当か?

またも“不正操作” 女子の合格ラインが高い理由は…

医学部の入試で相次ぐ、不適切な「得点操作」。
今年の夏には東京医科大学が女子受験生らの得点を減点する不正操作をしていたとして問題になり、同大学は「今後根絶する」とコメントした。

大学関係者はこのような不正は「女性医師が結婚や出産で離職し、医師が不足する恐れがあった」とも説明しているが、今月10日、新たに順天堂大学が不適切な入試を行っていたことを認め、その驚愕の理由も明らかになった。

順天堂大学によると、2017年と2018年の医学部入試で、女子受験生の合格ラインを男子受験生より一律で高く設定するなどしていたという。

その理由は、「男子に比べ、女子の方がコミュニケーション能力が高い」というもの。

順天堂大学は「長年の経験から女子の面接評価点が高いという結果を得ていた」として、「一般的に大学入学時点の年齢では、女子の精神的な成熟は男子より早く、相対的にコミュニケーション能力が高い傾向」にあるため「判定の公平性を確保するために男女間の差異を補正」したと説明している。

要するに「女子はコミュ力が高く有利なので、男子より合格ラインを高くすれば公平」だというのだ。

とうてい納得できない理由だが、そもそも本当に入試時の男女のコミュニケーション能力に“不正操作”を必要とするほどの差があるのだろうか?
人間関係論やコミュニケーション論について研究している、流通経済大学の松田哲教授にお話を伺った。

「女性のコミュ力が高いというのは乱暴な言い方」

――「女性の方がコミュ力が高い」というのは事実?

コミュニケーション能力をどのように定義するかにもよると思いますが、一概に女性の方がコミュニケーション能力が高いというのは乱暴です

使う語彙数は平均的に女性の方が男性よりも多いと言われます(「口では女性に勝てない!」という言い方もあります)。
また、左脳と右脳を結ぶ脳梁も男性に比べ女性の方が太いことが分かっています。ペンシルベニア大学のMRIを使った研究では、男性は右脳の働きと左脳の働きの独立性が高く両方の脳の伝達が限られているのに対して、女性の脳は両脳間の伝達が活発であることが分かっています。これらは男性が一つの課題に集中する「シングルタスク」であることに対して、女性は一度に多くの課題をこなす「マルチタスク」であることを証明しています。

コミュニケーション能力には「話し手」の能力だけでなく「聴き手」の能力も含まれます。また人間関係の構築を目的とした場合、そこには関係構築能力も含まれます。これらすべてが男性よりも女性の方が優れているという研究成果は出ていません。


――では今回「女性が有利」とされたのは、なぜだと考えられる?

個人差があることですが、自己表現能力や説明能力など語彙をふんだんに使い、丁寧な説明が求められる状況では女性のように語彙力が多い方が有利かもしれません。言葉で表現するときには、その表現バリエーションを多く持っている方が有利にはたらきやすくなります。
また、女性は比較的「親和性」を重んじ、周囲と協調するようなコミュニケーションスタイルを取ることから、チーム医療の観点もふまえ、女性の方がチームの一員として機能させようとする視点から言えば好印象に受け取られやすいかもしれません。

もちろん、男性の課題解決の指向性や論理性なども優れた能力の一つであることは間違いありませんし、男性でも「親和性」や「協調性」に富んでる方も多くいますので、一般化できるかどうかは疑問が残ります。


「女性に口で勝てない!」はコミュニケーションスタイルの違い

松田教授によると、男性と女性では「コミュニケーションのスタイル」に差があるという。
語彙数や処理能力などに個人差はあるものの、女性は男性に比べて「言語活動における範囲が広く活発」で、「親和性」を重視し、相手からのけ者にされないようなコミュニケーションスタイルを取ることが多いという。

一方、男性は比較的「独立性」を重んじ、相手に見下されないよう、相手よりも優位に立つようなコミュニケーションスタイルを取ることが多いのだという。

確かに、男性よりも言葉によるコミュニケーションを得意とし、かつ「周りとうまくやっていく」ことを重視する女性が「面接でスラスラと喋れて有利」な傾向にある、というのはわからなくもない。
しかし、コミュニケーション能力には様々な要素が含まれるので、明確に「女性の方が優れている」とは言えないようだ。

「入試以降は男女のコミュ力差縮まる」は本当か?

そして、もう一点気になるのは、順天堂大学が「18歳の時には女性のコミュニケーション能力が高くても、20歳になれば一緒になるなら、入試時に男子学生を救いたい」としていることだ。
本当に、大学入学前後で男女差に変化はあるのだろうか。


――受験生の男女に「コミュ力」の差は存在する?

(入試時期にあたる)高校生といえば思春期中期頃に相当しますが、この時期の男性は「テストステロン」という男性ホルモンの分泌により、口数が減り、攻撃性や競争意識が強くなります。
口数が少なく攻撃的な傾向が強くなると言えば、面接などの場面では不利にはたらくと想像しがちですが、必ずしもそうとは言い切れません。なぜなら面接という限られた時間の中で質問者が訊くことは、ある程度限られた内容であり、目的指向性の強い男性の場合は論理的にその理由を述べることは容易だからです。

一方、女性は「オキシトシン」というホルモンの分泌が活発となり、交友関係の確立や信頼関係の確立に重点を置くようになると言われます。感情の処理も、女性は思春期ごろから不快な感情も言葉で説明することが出来るようになります。
男性の場合は脳幹に近いところで処理され、言語化は容易ではないとされています。これらは快・不快の言語化であり、これだけでコミュニケーション能力の違いということにはならないと思います。


――では、大学入学以降の男女で「コミュ力差」が縮まるということは?

今回の大学側の説明で、最も合理性がないのがこの説明でした。
これまでの研究結果で「大学入学以降、男子のコミュニケーション能力が成熟する」という結果を私は知りません。

「女子の方が精神的な成熟が早い」と言うのも、精神的成熟をどのように捉えるかで変わってきますが、一般的にそのように言われていることもあります。コミュニケーションでも赤ん坊の時は女児の方が1000~4000Hz(話しコトバの識別に重要)の範囲の音に敏感であったり、人の顔に対して興味関心を向ける傾向が強いとされています。(ちなみに男児は動くものに興味関心を強める傾向がある)

しかし「入試以降は男女差が縮まる」といった研究成果は見たことがありません。


――「コミュ力」を理由にハンデを設けることについてどう捉える?

全ての男女に当てはまるわけではありませんが、男女にはコミュニケーションスタイルについて違いのようなものがあると思います。これは能力の差ではなく、スタイルの違いです。つまり「高・低」で表すものでありませんので、ハンディキャップなど設けようもありません。
そしてこれらのスタイルは、生得的な個人差もあればその成長過程や社会的環境でも違ってきます。ステレオタイプにコミュニケーションの性差を捉えるのではなく、個人の資質や熱意、適性など多角的な指標で評価してもらいたいと思います。

今回お話を伺った限りでは、コミュニケーションスタイルには男女差はあるが、能力には個人差があること、また男女で「どちらがより優れているか」ということは言えないということだった。

順天堂大 は“女性活躍”で去年表彰

実は、順天堂大学は平成29年度の「東京都女性活躍推進大賞」で優秀賞を受賞している。
受賞の背景には、医学部における上位職者の女性教員率が少ないことから、平成23年度から「男女共同参画推進室」を設けたり、「女性研究者研究活動支援シンポジウム」などを継続的に開催したりと、男女が平等に活躍できる場を作ってきたことなどがある。

女性を支援しようという環境を整え、“女性活躍”に積極的だったはずの順天堂大学が、なぜ曖昧な「コミュ力」を理由に差別的な判定をしたのだろうか。

順天堂大学の新井一学長は一連の問題に「多大なるご心配とご迷惑をおかけしました」と謝罪し、不合格となった男子1名・女子47名の計48人を追加合格として入学の意向を聞く方針だという。

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