動かぬ憲法論議にいら立つ改憲派「惑星直列を生かせ!」 なぜ憲法審査会は議論できない?

カテゴリ:国内

  • 臨時国会で憲法審査会は1度も「議論」せず
  • 与党の失態と「議論しない」野党の双方に問題が
  • 地方では自衛隊募集に「人殺し」と批判の声も

国会で憲法議論できない責任は誰にあるのか?

10月24日から始まった臨時国会は、12月10日に会期末を迎え閉幕した。外国人労働者の受け入れを拡大する入管法の改正や、水道事業を民間に委託しやすくするようにする水道法改正を始め、与野党で激しい議論が交わされたが、一方で憲法を議論する憲法審査会は、衆議院で2度、参議院で1度開催されたのみだった

しかも衆参ともに1回は国会の閉会手続きのために開かれたもので、衆議院のもう1回も、野党に開催を働きかけてきた自民党側が、国会開会から5週間にわたり引き延ばされたことにしびれを切らし、主要野党が欠席する異例の状態で開催したもので、内容も幹事の選任を行ったのみだった。

衆院憲法審査会に主要野党が欠席(11月17日)

与党関係者に言わせるとこの状況は、「野球で例えると、試合する日が決まっていないけど、出場選手だけ決定した状態だ」ということであり、野球の試合にあたる憲法の中身に関する議論は1秒たりとも行われることはなかった。

背景には自民党の憲法改正推進本部の幹部から野党に対して「職場放棄」という批判発言が出たことが、野党の反発を招き、与野党の関係をよりこじらせてしまった点もある。憲法審査会の日程を協議する幹事懇談会を開催しようとしたら、他の委員会の日程と同時刻に時間を設定してしまい、出席できない野党議員が出てしまうなど、与党側の瑕疵が否めない部分もあった。

一方で、事あるごとに「審議時間が足りない」と訴えている野党側が、憲法に関しては「審議に応じない」という姿勢を示していることについては、国民から理解されるだろうか。

野党にとって、自民党幹部による「職場放棄」発言は、本音で言えば審議に応じない口実となる「渡りに船」の発言だっただろうし、一度もきちんとした議論が行われなかったことの、直接の原因は野党側にあるだろう。

「何十年に一度の惑星直列を生かさないわけにはいかない!」

こうした中、12月5日に東京都内で、憲法改正を推進する「美しい日本の憲法をつくる国民の会 全国大会」が、100人以上の国会議員を含む約1100人が出席して開催された。
この集会では国会での改憲議論が進まないことへの苛立ちや悲壮感が露わになった。

「美しい日本の憲法をつくる国民の会 全国大会」(12月5日)

冒頭に共同代表でジャーナリストの櫻井よしこ氏は「日本国の一番大切な、根本である憲法について私たちの気持ちを反映させるように、要請したいと思います。みんなで心を1つにして、この国の行く末を考え、我が国の国柄を考え、どんな憲法が一番良いのか、その思いを、一生懸命ご自分の心の中で考え、考え、凝縮して国民投票に一日も早く臨みたい」と国会での議論の促進と、憲法改正の国民投票に臨む決意を訴えた。

ジャーナリスト 櫻井よしこ氏

また、自民党の古屋元国家公安委員長は「国民が主体的に憲法改正の会議について参画する機会を今、奪っている。護憲派であっても、絶対反対だと意思表明して頂ければいい」と述べ、各党は議論を通じてそれぞれの主張を訴えるべきだと指摘した。

自民党 古屋元国家公安委員長

また、野党側から出席した、日本維新の会の馬場幹事長は、憲法について「人間の体で言いますと、今の日本国憲法、72歳にもなっているにも関わらず、まだ3歳、4歳の時の服を無理やり着ている」と改正の必要性を述べた上で、「私たちを除く野党が(憲法審査会の)開催を妨害している。野党6党のケツを叩くというのは、私達、日本維新の会にお任せを頂きたいと思います!」と痛烈に他の野党を批判した。

日本維新の会・馬場幹事長

地域政党「未来日本」を立ち上げて代表となった長島昭久衆院議員も立憲民主党などの野党に対して国会での議論をサボタージュし、そして国会の発議をサボタージュし、国民の皆さんの議論の場を奪う、このような暴挙をこれ以上許すわけには参りません!」と気勢を上げた。

さらに長島氏は、憲法改正に意欲を示す安倍首相の存在と、改正発議に必要な国会の議席の3分の2を与党が確保している状況、そして野党の側にも自分達のように改憲派がいることの3点を挙げて「私はこれを惑星直列と呼んでおります。何十年に一度のこの惑星直列を生かさないでおくわけにはまいりません」と訴えた。

長島昭久衆院議員

枝野代表は「安倍政権下での改憲議論は応じない」

このように野党議員からも批判を受けた立憲民主党などだが、その主張は「安倍政権下では憲法改正の議論に応じない」というものだ。

その意味とは何か。立憲民主党の枝野代表は、臨時国会冒頭の代表質問で、憲法改正について「草の根からの民主主義のプロセスを踏まえて進められるべきであり、縛られる側の中心にいる総理大臣が先頭に立って旗を振るのは論外です」と強調し、安倍首相主導の憲法改正の動きを批判した。

代表質問をする立憲民主党・枝野代表(10月29日)

つまり立憲民主党などは、「憲法は権力者を縛るためのものであり、権力者である総理が、改正を求めるべきではない」との立場に立っているのだ。そのため、今国会の冒頭の所信表明演説などで、安倍総理が憲法改正の議論を国会に対して求めたことに強く反発し、議論に応じられないとの姿勢を貫いているわけだ。

「人殺しのための組織に協力するな」隊員募集阻止活動も

このように憲法改正をめぐる国会での議論が進まない中で、先ほど触れた改憲派の集会では地方議員からはある問題が提起された。

 南波和憲・群馬県議は、自衛隊が定員の9割しか充足されておらず、「自衛隊員の皆さんは100%の仕事の量を、90%の人員でこなしている」と指摘した。その上で、災害対応などの自衛隊の活動には多くの国民から感謝と理解が示されているものの、地方議会では共産党の議員らが、次のような言葉で自衛官や自衛隊学校の生徒募集に自治体が協力すべきでないと主張しているという。

「人殺しのための組織の募集に協力するな」
「人を殺す練習をしている学校だ」
「職場にいって人を殺し殺されるという役割を担っている人たち」

南波氏によるとこうした自衛隊への批判を受けて、「自治体では募集ポスターの掲示を自粛したり、あるいは自衛隊関係のイベントを中止したりする事態が生じている」というのだ。

そして南波氏は、自衛隊員の不足には少子化の影響もあるが、自衛隊の採用担当者は「妨害工作も隊員を不足させる大きな要因になっている」と吐露しているとして、「憲法に自衛隊を明記することが、地方自治体の隊員募集のためにも欠くべかざることであります」と訴えた。

集会では最終的に「憲法審査会は本来、政局を離れて議論することが与野党の合意であったにもかかわらず、今では開催自体が見通せない異常事態にある。憲法の論議を進めることが、国民の憲法に対する関心と理解を深め、わが国の民主主義を一層成熟させ、国の未来を活力あるものにすることを忘れてはならない。国会は、一刻も早く審査会の運営を正常化し、具体的な憲法論議を再開すべきである」などとする声明文を決議した。

国会外では実のある議論も、国会では進まない実態

一方、11月21日のBSフジ「プライムニュース」には各党の憲法担当の議員らが出演した。そこで交わされた議論は活発なものだった。

自民党の自衛隊明記を含む改憲4項目にとどまらず、自民党とは一線を画す公明党のスタンスも明確になったのではないだろうか。憲法改正の前提となる、国民投票法の扱いも重要な論点になることがよくわかった。野党側の主張する、解散権の制約や、地方自治の強化、LGBTを巡る問題についても与野党でしっかりと議論を積み上げるべきだと感じた。

BSフジ「プライムニュース」(11月21日)
BSフジ「プライムニュース」(11月21日)

2時間の議論は大変有意義なものであったと感じているが、なぜ、このような議論が国会で行われないのだろうか。与党側は「野党側が応じてくれない」と主張し、野党側は「審議に応じる環境が整わない」と主張するだけで、1カ月以上も議論がないままのこの状況は、国会軽視と言わざるをえないのではないか。

もちろん与党側も過度に野党を挑発したり、批判したりする面は改めるべきであろう。一方で野党側も、審議に応じることで憲法改正に結果的に加担してしまうという警戒感があるにせよ、「安倍政権での改憲に反対」という言葉で国会での議論自体を避けることが世論の支持を得られるだろうか。最終的に改正発議をするしないに関わらず、議論すら行えない状況は、国民の憲法に関する理解も深まらないことになる。

安倍首相が会見で改めて改正への意欲表明

ただ、議論が前向きに進む兆しも見えてきた。12月10日、憲法審査会の運営について話し合う幹事懇談会が開かれ、憲法改正を問う国民投票のテレビCM規制について、日本民間放送連盟(民放連)からのヒアリングが行われたのだ。

与党側の自民党・新藤義孝筆頭幹事は終了後に「憲法審査会を開いて、その中で参考人質疑、また自由討議、こういうところで今日の問題も含めた憲法論議を深めていかなければいけない。改めてその必要性を感じた」と今後の審査会での議論活発化への期待を示した。

幹事懇談会後、記者団に答える自民党・新藤義孝筆頭幹事(12月10日)

一方、野党側の立憲民主党・山花郁夫筆頭幹事も与党側の強引な手法を批判しつつも、憲法審査会での国民投票法の議論などの重要性は理解していると発言し、その議論に向けた土台は整いつつあるようにも見える。

立憲民主党・山花郁夫筆頭幹事(12月10日)

そして同じ10日夜、安倍首相は臨時国会閉会にあたっての記者会見で、憲法改正について次のように述べた。

「私は憲法改正について、国民的な議論を深めていくために一石を投じなければならないと言う思いで、2020年は新しい憲法が施行される年にしたいと申し上げましたが、いまもその気持ちには変わりはありません。それぞれの政党が、憲法についてどういう風に考え、改正案についてどういう考え方を持っているかということを開陳しなければ国民の皆さんも議論の深めようがないのではと思います。まずは具体的な改正案が示され、国民的な議論が深められることが肝要であります。そうした中から、与党・野党といった政治的な立場を超えて、できるだけ幅広い合意が得られることを期待しています。その後のスケジュールは、国会しだいでありまして、予断を持つことはできないと考えています」

安倍首相の記者会見(12月10日)

安倍首相として、改めて改憲に強い意欲を示した上でまずは議論を各党に呼び掛け、進展に期待を示した形だが、年明けの通常国会で野党側はどう反応するか。そして来年の夏には参院選が控え、「惑星直列」が崩れる可能性もあるという中で、どのように議論が展開していくのか。憲法をめぐる2019年の動きに注目したい。

(フジテレビ政治部 与党担当キャップ 中西孝介)

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