インド人の脳は“ハイスペック”? バンガロールがスタートアップ都市になった背景

Lets Transport CEOインタビュー

カテゴリ:ビジネス

  • 「インドのシリコンバレー」と呼ばれる「バンガロール」
  • 既存インフラが無いからこそ起きる「リープフロッグ現象」
  • ちまちましていない、スケールが大きい起業家が多い

インド半島の中心に位置する、南インドの大都市「バンガロール」。

最近は「インドのシリコンバレー」と紹介されることも多い。

ひと昔前までは、開発工程をアウトソーシングするオフショア拠点として捉えていた人も多いかもしれない。しかし今やグーグルやフェイスブックが競って買収をするようなスタートアップ企業が次々と生まれている。

そんなインド躍進の中心地バンガロール。

今回は、まさにバンガロールを象徴するような起業家、物流スタートアップ「Lets Transport」のCEO Pushkar Singh氏にSkypeでインタビューの機会を得た。

インド工科大学(IIT)を卒業し、起業へ

Lets Transport のトラックとドライバー

Lets Transportは2015年にバンガロールで創業した物流プラットフォームサービス。UBERのように荷主とドライバーをマッチングする。個人事業主のドライバーが登録し、荷主にはコカ・コーラやAmazonなどの企業も名を連ねる。

CEOのPushkarはインド工科大学出身。大学卒業後、メーカーに約2年勤務、その際に担当する商品の物流システムに課題を感じ、起業に至った。

「メーカー時代、90におよぶ原材料をジャスト・イン・タイム方式で配送し、ビスケットを製造していました。その時に、最新テクノロジーを導入すれば、もっと効率的な物流システムを構築できると確信し、Lets Transportを創業したのです。」

Pushkar Singh CEO

生きた現実のデータをAIが学習

同社の強みはAI。独自のアルゴリズムはもちろんだが、何よりも日々生み出される実データこそが、競争優位の源泉になると言う。

「Lets Transportを創業する前は、GPS機能を持ったトラックは1%以下で、ロジスティックスに関するデータの蓄積はゼロでした。しかしこの数年で、毎日、数千件のデータを収集できるようになりました。

私はもともと大学時代に経路最適化アルゴリズムの研究をしていたのですが、AIに毎日大量の実データを学習させることで、より効率的な意思決定が可能となり、その日々の蓄積が我々のサービスの優位性になっています。」

Lets Transport アプリ画面

リープフロッグ(Leap Frog)現象

既存のインフラが存在しないからこそ、一足飛びに最先端サービスが普及する事を、蛙のジャンプになぞらえて「リープフロッグ現象」と呼ぶ。

Lets Transport社にとってのリープフロッグ体験をたずねた。

「スマートフォンが1万円以下で買えるようになり、インドではPCインターネットを経験する事なく、すべての人がネットのサービスにアクセスできるようになりました。

スマートフォンを支給されたドライバーは、GPSだけでなく、オンラインバンキングや社会保障などのサービスも受けられるようになり、今まで社会的に弱い立場だった人たちのQOL(生活の質)が向上しています。

たとえば3年前までは、公共料金の支払い手続きの為に、1ヶ月のうち丸2日間を費やしていましたが、今はスマホを通じて瞬時に支払い、さらにその節約した時間を有効活用するための仕事も、数分で見つけることが出来ます。」

リープフロッグによって生み出されたものは、同社のプラットフォームに欠かせない存在であるドライバーのQOL向上だったと言う。

Pushkar Singh CEO(右)

脳にハイスペックなCPUが搭載されている?

最後に、日本人とインド人の違いについて探ってみた。インドには数学が得意で頭の回転が速い人が多い。敬意を込めて「みなさん脳のCPUがハイスペックですね」と問いかけると、Pushkarは、(地頭の良さではなく)DNA、マインドの違いだと答えた。

「人口が多く競争が激しい我々のような新興国と日本のような先進国ではDNAが違うかもしれません。それは、失敗を厭わないDNAです。私達の世代は激しい競争の過程で成功も失敗もすでに両方経験しています。なので、リスクを取ることを恐れないのです。今や多くの若者がもっとも大切な職業としてアントレプレナー(起業)を想起します。

もう一つの側面として、解決すべき社会課題が多いことです。我々は多くの課題を限られたリソースを駆使して解決していかなければならない。この環境も他の先進国との違いです。」

スケールが大きい起業家が多い

急成長をけん引する起業家の素顔。最難関のインド工科大学を卒業し、技術をベースにしたサービスを提供しながらも、社会課題の解決、QOLの向上にも力を尽くす、優しさに溢れた人物。事前の想定よりも、一回りも二回りも大きな人間力を感じた。

インタビューをアレンジしてくれた、同社に投資するベンチャーキャピタル、リブライトパートナーズの石崎弘典さんが補足をしてくれた。

「いま、インド中からバンガロールに起業家志望の若者が集っています。彼らには、英語やコンピュータなどグローバルに通用する教育を受けた上で、大きな課題、社会問題を解決したい、という志がありますね。スケールが大きい起業家が多い、ちまちましていなんです。CPUも高速ですよ(笑)」

石崎弘典(リブライトパートナーズ / シニアアナリスト)

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