がんの「画像見落とし」はなぜ起きる? 放射線科医が語る“原因”

  • 健康診断のレントゲンで肺がんを見落とし女性死亡
  • 放射線科医「レントゲン写真には限界がある」
  • CTは確認する画像が膨大などいくつか課題がある

健康診断で肺がんを見落とし女性死亡

東京・杉並にある河北健診クリニックが健康診断で肺がんを見落とし、今年6月に40代の女性が死亡した問題。

女性は、このクリニックで2014年と2015年に受けた健康診断で、レントゲン写真(胸部X線検査)で右の肺に影があったにも関わらず異常なしと診断され、今年1月の肺がん検診でも異常なしと診断された。

見落としが発覚したあと、クリニックで同様の検診を受けて、精密検査の必要がないとされた人について再確認したところ、70代の男性2人が肺がんと診断されたほか、60代から70代の男女3人に肺がんの疑いがあることがわかった。

この他にも画像の見落としは起きていて、医療事故情報を収集している「日本医療機能評価機構」には、2015年1月~2018年3月までに37件の画像見落としが報告されているという。

なぜ、医療技術が進歩する中、レントゲンやCTなどの画像診断でがんの見落としが起きるのか?
また、最近ではAIによる画像診断の研究も進められているというが、実用化されれば見落としは減るのか?
「レントゲン写真とCTでは画像の見落としが起きる原因が異なる」と指摘する、東京・大田区にある荏原病院の放射線科部長、井田正博さんにお話を聞いた。

レントゲン写真には限界がある

レントゲン写真
CT画像

――レントゲン写真の見落としが起きる原因は?

レントゲン写真は簡便で、検診に使うには非常に検出率も高く、有用な検査法です。

ただし、レントゲン写真では通常、正面と側面の2方向から撮像しますが、胸部は複雑な解剖を呈しており、肺のみではなく、心臓や大動脈、肺動脈、肺静脈、それから胸壁の肋骨(あばら骨)が重なって写るので、非常に小さい病変や、それら正常組織と重なる病変は、レントゲン写真では見つけられないことがあります。

肺がんも正常の骨や心臓肺血管と同じ「白色」として写るため、それら正常組織と重なると、レントゲン写真では、診断・検出できないことがあります。

一方、CT検査は、体の断面像を撮ること、そしてその1ミリ単位もしくは5ミリ単位で診断できるので、レントゲン写真よりも、早期肺がんなど微小の病変の検出に優れています。

現在では、肺がんの疑いがある患者さんでは、病院ではレントゲン写真で異常が見つかった場合、またレントゲン写真で異常が見つからなくても、肺がんの可能性が高い患者さんではCTによる精査が施行されます。
肺がんの確定診断にはCTは必須の検査法です。

CTではレントゲン写真よりもより鋭敏に早期の肺がんを検出することができますし、肺がん以外の小さい病変も検出できます。


――レントゲン写真には限界がある?

レントゲン写真のみでは検出できない肺がんがあることは事実です。

したがって、個人の健康状態をわかるのは本人です。
検診は一つの健康を守るための大きな手段でありますが、完全ではありません。

精査法であるCTでも、検出や診断が難しい症例もあります。

したがって日頃から自分の健康に気をつけて、少しでも症状があると思ったら、かかりつけの先生などに相談されることをおすすめします。

――限界があるなら、検診でも最初からCTで精査すればいいのでは?

そこで皆さんが疑問に思うのは、検診でも肺がんの検出や診断にCTを使ってはどうかということだと思います。

ところがCTの検査にはCT装置(コンピューター断層撮影装置)が必要です。
CT装置は高額医療機器のために、検診受診者全員に施行するためにはそれなりの費用がかかります。

病院でCT検査を受けると約2万円かかります。
ただし、皆さんは医療保険を使うので、窓口での支払いはおそらく5000円程度で済むと思います。

仮に検診でCTを使って、2万円かかるとして、地方自治体が負担をして、個人負担が5000円になったとします。

現在、レントゲン写真による検診は、自治体によってばらつきがありますが、500円程度で受けることができます。

すなわち夫婦2人で受けても1000円で済みます。
ところがCT検診を受けた場合、例えば2万円のうち、自治体が1万5000円負担して、個人負担が5000円とした場合、すべての人達が検診を受けられるでしょうか。

検診には「住民検診型」と「人間ドック型」があります。

住民検診型はすべての国民が平等に受けられることが必要です。一方、人間ドック型は受けたい人が受ける精査の方法になります。

したがって、もし、住民健診型で自己負担する費用が5000円になった場合、検診を受けたいけれども、その費用を考えると受けられない人が出てくる可能性があります。そうであってはいけません。

CTの課題は費用面だけではない

――問題は費用面だけ?

費用の面だけではなく、CT検査の場合、画像枚数が胸部の検診でも400枚程度の画像が出てきます。

その結果、一件あたりの診断にかかる時間は15分程度になります。
すなわち、1時間に診断できる件数は4件になります。

一方、レントゲン写真では正面と側面を2枚の写真で診断しますので、一件あたり約30秒で診断ができます。

そうしますと、1時間に120件、施行できます。

何百人、何千人という受診者がいて、迅速な診断するためには、効率の良い診断ができなくてはいけません。

もしCTで検診を施行した場合、診断結果が出るまで1年かかる可能性だってあります。

したがって、多くの人達に広く平等にリーズナブルな値段で施行し、ある程度の検出機能を維持する目的で、レントゲン写真が施行されます。

河北健診クリニックの一件で、レントゲン写真による検診では見逃しが多いと勘違いされると思いますが、レントゲン写真で見つかる肺がんもたくさんあります。

実際に無症状で、検診の、レントゲン写真で、肺がん診断できる症例が多くありますので、受診する機会のある方は必ず検診を受けることをおすすめします。

CTで画像見落としが起きる原因

――CTでの画像診断で見落としが起きる原因として考えられることは?

CTの技術はこの30年間で、飛躍的に進歩しています。

例えば、今から35年前、すなわちCTの1号機が入った頃は、1スライス撮るのに3分かかっていました。
したがって、頭部全体の撮影をするにも45分程度を要しました。

ところがCTの技術の進歩により、最速で撮影するとすれば、全身を3秒で撮像することができます。
実際には、全身を約30秒程度で撮影しています。すなわち、1回の呼吸停止で必要な範囲を網羅することができ、胸部、腹部、骨盤全体を撮影することができます。

撮影時間がかかっていた頃は、胸部のみの撮影、上腹部のみの撮影、骨盤領域のみの撮影など限られていましたが、現在では必要に応じて、広い範囲を撮影します。

例えば、心臓疾患で冠動脈の造影CTを施行した場合、冠動脈疾患を有する人は心臓から連続する胸部大動脈、腹部大動脈、腸骨動脈などにも、アテローム硬化性変化や狭窄、動脈瘤があることがあるので、すなわち全身の血管病の可能性があるので、造影剤を使用したときなどは、全身の血管を撮影します。

そして冠動脈疾患のみならず、胸部大動脈、腹部大動脈の疾患を診断します。

その際に、目的とする心臓や血管のみならず、同時に、肺や肝臓、膵臓、腎臓、腸管などの病気が見つかることがあります。

全く症状がなくてもこれらの病気が見つかることがしばしばあり、これらを偶発的な所見といいます。

例えば、冠動脈疾患、胸部腹部大動脈疾患の精査中、これらは循環器内科の先生の領域ですが、その際に、肺がんが偶然、診断されたり、腎細胞がんが偶然、診断されたり、結腸がんや膀胱がんが診断されることがあります。

肺がんは呼吸器内科、呼吸器科が専門です。腎がんは腎臓内科や泌尿器科が専門です。
結腸がんは消化器内科や消化器外科が専門です。

循環器内科の先生はご自身のご専門である、心臓疾患や大動脈の診断、読影は可能でしょう。

しかし、これら肺がんや腎がんなど偶発的な専門外の画像診断はできない可能性があります。

したがって、CTの進歩によって膨大な病態情報がもたらされるようになり、専門領域以外の診断情報も情報が得られることから、それら包括的、総合的に診断ができないと、せっかくの医療情報があるのに、主治医のみでは診断できない症例が出てくる可能性もあります。

放射線診断専門医の診断も完ぺきではない

――放射線診断専門医の役割は?

画像診断の専門家として、放射線診断専門医がいます。

放射線診断専門医はCTやMR、レントゲン写真を使って、病態を診断する専門家です。

画像診断分野において、総合的な教育を受けています。したがって、CTやMRで広い範囲を撮影しても、ある特定の疾患や特定の領域に限ることなく、あらゆる領域の画像診断をすることができます。また撮像方法の進歩、多様化により、特殊な技術を用いた画像も撮影されることから、主治医のみではその解釈や、診断ができないことがあります。

もちろん、放射線診断専門医による画像診断も完璧なわけではありません

また、放射線診断専門医による画像診断で、例えば「悪性腫瘍」と診断されても、患者さんの状態や治療方法などによって、主治医はさらに、それらいろいろな情報を加えて、患者さんに病態や今後の治療方針を説明します。

しかし、放射線診断専門医による画像診断報告書がなければ、主治医1人のみの診断となり、主治医の専門とする領域のみの診断になってしまいます。

現在のように広範囲に画像診断が行われ、偶発的な所見がたくさん見つけられる状態の中においては、放射線診断専門医による画像診断および画像診断報告書の作成は必須と言えます。

また、主治医の中でもいろいろな専門性があり、画像診断は不得手とする人もいます。

そういう先生のためにも、我々、放射線診断専門医はすべての画像に対して、画像診断を行い、報告書を作成する努力をしています。

放射線診断専門医が足りていない

――全ての画像の診断報告書を作成するのが難しいのはなぜ?

日本は他の先進諸国と比較して、CT、MRの導入台数が最も多く、特に人口あたりに換算しても、先進国であるアメリカよりもCT、MRが普及しています。

ところが放射線診断専門医の数はまだまだ十分ではなく、現在6000人程度がいますが、先進諸国の中で、人口あたりに換算すると最も少なく、その結果、CT、MRが導入されている病院すべてに、放射線診断専門医が常勤しているわけではありません。

また、CT、MRの高速化によって、検査件数および画像枚数が指数関数的に増加している中で、放射線診断専門医の増加が追いつけず、CT、MRの画像の中でも、放射線診断専門医が読影、診断していない検査がたくさんあります。

3次医療機関(大学病院やがんセンター)や2次医療機関(地域の中核病院)の多くでは、放射線診断専門医が常勤していますが、病院によっては、その数が十分でなく、全ての例の読影ができていなかったり、また2次医療機関・3次医療機関でも、地域によっては放射線診断専門医が不在の病院もあります。

そのような病院では放射線診断専門医による診断や画像診断報告書が作成されていません。

主治医のみの診断になります

また、以前のように(2000年より以前)、CT、MRが限られた範囲しか撮像できなかった時代は、例えば肝臓のみの撮影の時は、その範囲の読影のみをすればよかったので、肝臓専門の主治医は画像診断報告書がなくてもある程度は診断できたかもしれません。

一方で、先ほどから説明している通り、広範囲な画像診断ができるようになっていて、非常に情報量が増えました。

そんな中で肝臓しか読影できない主治医だったら、肺や腎臓や腸管の病気を見逃す可能性があります。

自分が読影できると思った主治医が画像診断報告書を参照せず、十分な情報が伝わらず、がん情報が見逃された例があります。

今後、必ず放射線診断報告書を確認するような体制への整理が必要です。

――画像は医師が一枚一枚、目で確認するしか、手段がないのでしょうか?

読影モニターに表示された画像を一枚一枚、見て確認するしかありません。


――画像をAIが確認し、がんかどうかを判断する技術は現時点ではない?

今はないですが、今後は開発、発展してゆくと考えます。

ただ、AIによる補助診断が信頼できるようにならないと、医師の手間は減らないでしょう。

“画像の見落とし”が起きる原因は、一つではなく、「確認する画像が膨大」「主治医だけでは診断できないことがある」「放射線診断専門医の不足」など多岐にわたっていた。
誰でも診断を受けられ、医師の負担も軽くなるように画像診断技術が進歩するのはもう少し先なのかもしれない。

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