「虐待―子供たちの命を守るために」血縁がないからこそ…里親の覚悟 プライムニュースイブニング

  • 33年間で15人以上の里子を育てた坂本洋子さん 今は自閉症や発達障害などの子ども5人と生活
  • 虐待や経済的理由などで親と暮らせない子ども約4万5千人。多くが施設などで育ち、里親は18.3%
  • 坂本さんは、親と一緒に暮らせない子供に里親という選択肢もあることをもっと知ってほしいと語る

子供への虐待に関するニュースが全国で相次ぐ中、家庭での虐待から子供たちを救うために「里親」という制度があります。ひとりでも多くの子供に愛情を注ごうと奮闘するある女性を島田彩夏キャスターが取材しました。

島田彩夏キャスター

里子育て続け33年、今は5人の子育て

この日、2か月ほど前に乳児院からやってきたばかりのひかるちゃん(仮名・3)とショッピングモールにあるおもちゃ屋さんへやってきたのは坂本洋子さん(61)。

ひかるちゃん(仮名・3)とショッピングモールに来た坂本洋子さん(61)

「きょうは、来月、お誕生日の子がいるのでちょっとプレゼントの品を見ようかなって。なかなか子供を連れてここには来られない。あれもほしい、これも欲しいで大変なことになる!」

こう話す坂本さんは、これまでの33年間、夫と共に15人以上の里子を育ててきました。今は、自閉症や発達障害などと診断された3歳から14歳の子供たち5人と暮らしています。

おもちゃを見つめる3歳のひかるちゃん。坂本さんはふたつのおもちゃを手にやさしく尋ねます。
「路線バスね?そっちにする?これはどうする?どっちがいい?そっちがいいの?」
この日、3歳のひかるちゃんが選んだのは、「路線バスのおもちゃ」でした。

「あんなにはしゃいでいる姿を見るとなんでも本当は買ってあげたいんだよ~。そうするとあの子に2つ買っちゃうと、(他の子は)僕には何もないの?ってなるし…」

子どもたちにかかる生活費や養育費など、必要な経費は国と自治体から補助金が支給されていますが、決して楽ではありません。しかし、施設で暮らし、ほとんど私物を持たない子供たちには他の家庭と同じように“自分のもの”を与えたいと坂本さんは強く思っています。

結局、この日は、こどもたちのために2万2千円ほどを使いました。「まあこんなもんかな…」そう話すと、坂本さんは、ひかるちゃんに尋ねました。「楽しかった?」ひかるちゃんは、コクリとうなずきました。

帰宅すると、子供たちは買ってもらったおもちゃに一気に夢中になります。取り合いや喧嘩が起きることもしばしばですが、坂本さんは、その様子を見ることも「喜びのひとつ」だと語りました。

虐待や経済的などの理由で親と暮らせない子どもは全国で約4万5千人。その多くが児童養護施設や乳児院で育っていて、里親の割合は18.3%。国は今後、この割合を5割以上にしたいと考えています。

原点は「初めての里子」、私を「親」にしてくれた

結婚後、子供を授かることがなく里親となることを決めた坂本さん夫婦。
初めての里子は3歳で預かった純平くん、里親人生のまさに“原点”となる出会いでした。

純平くんとの日々について、島田キャスターが尋ねると、坂本さんは「すごく楽しかったですね。子供と一緒にお出かけして、本当にたわいもない会話とか。いや~親にしてもらったな」と振り返りました。

純平君は、産まれてからずっと乳児院で暮らし、家庭というものをまったく知りませんでした。坂本さんは当時を振り返ります。

「33年前というのは今に比べればこの制度は理解されていませんでしたから。彼が発達障害を抱えているということと、家族として血縁関係がないということ、施設で彼は育った子なんだという偏見、そういうものが相まって学校の中でもうまくいかなくなっていったんです…」

純平くんは、小学校2年生の冬。学校生活がうまくいかず休んだことが問題になり、児童養護施設に戻されてしまいます。それでも施設へ通い、わが子を見守り続けた坂本さん。
しかし9年後、突然別れの時が…。ある冬の日、純平くんはバイク事故で命を落としたのです。まだ17歳でした。

坂本さんは「彼との出会いが私にとってのずっと原点。今もそれが原点」と語ると、「すいません‥。」と言って涙をぬぐいました。

「彼との出会いが挫折でもあり原動力であり、今につながっているか」という島田キャスターの問いかけに深く頷く坂本さん…。

「天国に行って彼に会ったときに“お母さん僕たち里子のために頑張ってくれてありがとう”ってそういう風に言ってもらえるように私はずっと日々、頑張って、彼に恥ずかしい思いをさせたくないし、彼に褒めてもらいたい。」

純平くんとの出会いと別れを心に刻みながら子供たちひとりひとりと向き合う坂本さん、今ではファミリーホームという形で、障害児を含む5人の子供たちを受け入れています。

母の背中追い「里子」から「養子」

17年前に坂本家にやってきた歩さんももう大学生。坂本さんを助けようと、2年前に、養子になることを決意しました。子供たちの先輩として今では頼れるサポート役です。

そんな歩さんと毎朝、台所に立って子供たちの学校の準備をするのが坂本さんの1日の始まりです。

「あと5分でそれ終わって。子供たちを起こしにいかないと。」台所で朝食の準備をする坂本さんが、歩さんに声をかけます。「集中が切れるとあっという間に時間経っちゃう・・」坂本家の朝は、まるで“戦場”です。

坂本洋子さんと養子の歩さん(23)

小学校にいく子供たちの学校の準備を手伝うのは歩さん。準備の多さは、取材する島田キャスターも思わず驚くほど。「大体は全部(準備する内容を)覚えています。4年くらいは同じ荷物。」と笑う歩さん。そして、子供たちを送り出す際、坂本さんは子供たちにランドセルを背負わせながら声を掛けます。

「重いよ、気を付けるんだよーひっくり返らないでね」
「行ってきます!!」「はい、行ってらっしゃい!」

子供たちを送り出し、ようやく息をつけたのは午前9時をまわってからのこと。ようやく坂本さんたちの朝食の時間です。この日はそれでもいつもよりうまくいったようで…
「今日は結構スムーズにいったほうだよね。8時前になって叫んでることもあるもん!」と話す坂本さん、この日も、歩さんとふたりで遅めの朝食をとりました。

家族の愛「私たちに“思い込み”はない。伝える事が大事」

取材の最後に、島田キャスターが坂本さんと歩さんに聞きました。

島田キャスター:
家族の形ってなんだろうって時々思うんですよね。血がつながっているからじゃあなんでも通じるのか…これまでの経験上からどういう風に思っていますか?

坂本洋子さん:
家族って必ずしも血縁はなくてもいいのではないかと思います。そこでお互いが理解しあえて、この人を親だと思えるし、この子を子供だという風に思えればそれは全然家族なんじゃないかなと思いますね。

歩さん:
やっぱり家庭という存在にあこがれを感じていて、お母さんお父さんって呼べる人がいて、兄弟がいて、ペットがいてっていう像そのものにあこがれていて…。社会的養護に出してくれたからこそ今この生活があるのであって。(里子に)早々に出してくれてよかったのかなと。

坂本洋子さん:
血縁のあるお子さんのいらっしゃるご家族というのは、きっと言わなくてもわかっているとか通じてるはずだ、親子なんだからという思いがきっとあるはず。でも私たちはそういう思い込みは一切もっていないので、「あなたを愛しているんだよ」とか「あなたが大事なんだと思っている」というのは具体的に子供によって方法を変えながら伝えていく。だからなかなか言葉の通じない子はスキンシップで伝えたり、それぞれのやり方で伝えるようにしています。

血の繋がりがなくとも、いやないからこそ愛情を「伝えるための努力」を怠らない。
33年の里親人生で培った坂本さんの覚悟です。

世界とニッポンの「里親委託率」

虐待などで親と一緒に暮らせない子供を家庭で引き受けるには「特別養子縁組」「里親」などの制度があります。特別養子縁組は戸籍上も自分の子供として育てるもので、里親制度は子供を親御さんから預かって育てるものです。

里親は、取材した坂本さんのように長期間預かって一緒に暮らすケースもあれば、例えば年末年始や夏休みの間など短期で預かることもできます。

国は里親制度を進めてきましたが日本では里親委託率は18.3%、8割以上の子供たちが施設で生活しているのが現状です。

一方で、世界の里親委託率は
オーストラリア 93.5%、
香港 79.8%
アメリカ 77.0%
イギリス 71.7%
などとなっています。(2010年)

30年以上の里親経験のある坂本さんは、親と一緒に暮らせない子供には里親という選択肢もあるということをもっと皆さんにも知ってほしいとおっしゃっていました。

【取材後記 プライムニュースイブニングキャスター島田彩夏】

静かな住宅街にある坂本家に初めてお邪魔したある秋の早朝。

「どうぞ、入ってー。もう今バタバタしていてちょっとお構いできないけどごめんね」
こう出迎えてくれた5人の里子の親である坂本洋子さん。
本当にそれはそれは忙しく動き回っていました。

養子の歩さんとともに台所で料理をしているかと思ったら、子供たちを順に起こして回り、すでに席に座っていてもなかなか食べない女の子におにぎりを食べさせ、「おまたせー」と言いながら運んできた山盛りのパン皿をテーブルに置きながら「〇〇君はこのパンしか食べないのよ、自閉症の子だからこだわりがあるのよね」とニコニコしながら教えてくれました。

大きなダイニングテーブルは、あっという間に、障害のある里子たちそれぞれの好きな食べ物や飲み物で埋め尽くされました。「いつもこんなに種類があるんですか?」私の質問に坂本さんは「そうね、こんなものかしら。施設ではメニューはいつも決まっていて選べないでしょう?みんな一緒のものよね。その経験しかない子供たちだから、うちに来た子供たちには自分の好きなものを選んで食べていいんだよということを伝えたいと思っているのよ」

ハッとさせられました。家庭で育つと当然のようにあれが食べたい、これは嫌だというようなリクエストを出せることが多いと思います。施設では難しいことです。
家庭とはこのような日常の積み重ねなのだということを、坂本さんはよく知ってらっしゃるのです。

冒頭に登場した、坂本家に来たばかりのひかるちゃんもおもちゃを自分で選べることに驚き、迷いに迷って自分だけのおもちゃを手にしました。目が輝きます。
坂本さんの家に全く同じぬいぐるみが2つあって、それぞれに違う名前が書かれていました。「“共有”はもう施設で十分してきた子たちだから」坂本さんは一貫しています。

親と一緒に暮らせないということは子供のせいではありません。虐待だったり、親の病気だったりと理由は様々ですが、大人の都合です。日本の里親委託率は18.3%(2017年)と、8割以上のそのような子供たちが施設で育ち、そして社会に出ていくという現状をどのようにとらえるか。今回の取材で改めてなぜ日本で里親制度の広がりが遅いのか考えさせられました。里親は、スタジオでもお伝えしたように短期での預かりもすることができます。
どこか遠いところの知らない子供のことだと捉えずに、すべての大人の責任として、考えていきたいと思いました。

 里親生活33年、坂本さんの家には今日もにぎやかな声が響いていることと思います。

(「プライムニュース イブニング」12月5日放送より)

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