「サイバー攻撃には自衛権発動も」岩屋防衛相国会答弁

カテゴリ:国内

  • 岩屋防衛相「武力攻撃の新三要件満たすサイバー攻撃なら、武力行使も」 
  • 小野寺前防衛相見解との差異は、政府の危機感の現れか
  • 防衛計画の大綱は岩屋防衛相の見解を反映するか

自衛権行使要件を満たす際は自衛権発動

11月29日、衆議院の安全保障委員会にて自民党の中谷元・元防衛相は岩屋毅防衛相に対し、「日本が大規模なサイバー攻撃を受けたときに、どんな事態が起これば、国家としての戦争行為、武力攻撃事態とみなされ、自衛権が発動されるのか」と質問。
岩屋防衛相は「サイバー攻撃と自衛権行使の関係については、一概に申し上げることは困難」と回答し、次のように続けた。

岩屋防衛相:
武力行使の三要件を満たすようなサイバー攻撃があった場合には、憲法上、自衛の措置として武力の行使が許されるわけでございまして、サイバー攻撃…、自衛権行使の要件を満たすような場合は自衛権を発動することができるというふうに考えております。

日米間では…、様々なレベルにおける定期協議、それから日米共同訓練を行っておりまして、一層、日米間のサイバー防衛協力も進めて参りたいというふうに思います。タリン・マニュアルについて、これらも研究しながら一層、サイバーに係る法的基盤についても検討を深めて参りたいと考えております。

この答弁は、「サイバー攻撃と自衛権の関係」を整理した見解ということだろう。近年は国家や社会全体が、金融も流通も通信網に依存しているので、サイバー攻撃がどんな状態を引き起こすか。

例えば、2013年3月20日、韓国の放送局や、銀行のコンピューター・システムが、サイバー攻撃で、銀行のATM等が使えない事態になったという。金融機関やマスメディアがサイバー攻撃にあえば、社会が混乱するだろうし、エネルギー網や交通網がサイバーで攻撃されれば、多数の死傷者が出る事態になるかもしれない。

中谷元・元防衛相が言ったのは、そのような大規模なサイバー攻撃は、戦争行為とか、具体的に自衛権発動の対象になるのか、というシビアな質問だったが、岩屋防衛相は「武力行使の三要件」を満たすなら自衛権を発動し「武力の行使が許される」と答弁したわけである。

武力行使の新三要件とは

武力行使の新三要件とは、2014年7月1日に閣議決定された、日本が自衛権を発動するための条件であり、具体的な内容は下記の通りである。

(1)我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命・自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

岩屋防衛相の答弁を、上記の武力攻撃の新三要件にあてはめると、まず(1)だが、「サイバー攻撃」は、武力攻撃事態になる場合もある、との考えを岩屋防衛相は示したことになる。

そして、そのサイバー攻撃に対し(2)日本の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないなら、(3)必要最小限度の実力行使が許されるということになるわけだが、岩屋防衛相は、三要件を満たすなら「憲法上、自衛の措置として武力の行使が許される」としたわけである。

岩屋防衛相の見解は、以前の政府答弁と比べると大変興味深い。

目には目を、サイバーにはサイバーを?

小野寺五典・前防衛相

小野寺五典・前防衛相(2018年3月22日 衆院安保委より):
サイバー攻撃だけでの攻撃に関しては、これは、関連する国内法あるいは国際法、各国の中でもさまざまな議論があるということでありますので、サイバー攻撃のみでの攻撃で、一概にこれが武力攻撃に当たるかどうか、そういう判断には至らないと思っております。

小野寺前防衛相の発言は、サイバー攻撃のみで自衛権発動の要件にあたる武力攻撃と判断するのには、懐疑的なニュアンスだった。しかし、同時にサイバーによる反撃能力育成の重要性について強調していた。

小野寺前防衛相(2018年3月22日 衆院安保委より):
防衛省としては…、武力攻撃事態等において、相手側によるサイバー空間の利用を妨げることが必要となる可能性を想定しつつ、…サイバー空間を通じた反撃にも応用し得る一定の知識、技能を得ております

サイバー攻撃に対しては、サイバーでのみ反撃するというのも、考え方としてありうるだろう。だが、岩屋防衛相は、これまで積み重ねてきた日米協議や共同訓練を踏まえることや、NATOが「サイバー攻撃のうち、どのような行為が、戦争行為になりうるか」を定義しているタリン・マニュアルも研究して、サイバーの法的基盤について検討をすすめるとしたわけである。

タリン・マニュアルで「戦争行為」と判定されるサイバー攻撃があれば、NATOは自衛権を発動することになるのだろう。どのようなサイバー攻撃に対して、NATOが自衛権を発動するかを明示することによって、NATOは甚だしいサイバー攻撃を抑制しようとしているようにも見える。岩屋防衛相は、米国やNATOと歩調を合わせようとしているのかもしれない。

日米のサイバー攻撃への認識の違い

日本の有事の際には、日本が「盾」で米国が「鉾」の役割をするとよく言われるが、日本が大規模なサイバー攻撃を受け、多数の死傷者が出ているのに「サイバーだから武力攻撃と判定できない・自衛権が発動できない」ということになると、米軍は、いま、日本に大規模なサイバー攻撃を仕掛けているのは「A国」で、「A国」のこの場所を、ミサイル等で叩けば、日本に甚大な被害を与えているサイバー攻撃も止み、続く「A国」からのミサイル攻撃による死傷者等の被害も拡大させずに済む、と分かったとしても、日本自身がそのサイバー攻撃を「武力攻撃」と解釈しないなら、安保条約も発動できず、従って、米軍が反撃することは出来ないということになりかねない。

だから、米国やNATOと歩調を合わせ、日本に「武力行使の三要件」を満たすような大規模なサイバー攻撃があった場合には、アメリカに鉾の役割を果たしてもらうよう「安保条約第5条の発動要件である武力攻撃だ」と言えるように、岩屋防衛相はしたいのかもしれない。

小野寺前防衛相の3月22日の答弁と、岩屋防衛相の11月29日の答弁の差は、それだけ日本政府の危機感が8か月余りで深まったことを示しているのかもしれない。

12月中には、当面の日本防衛の指針となる防衛計画の大綱が策定される。岩屋防衛相の危機感がどのように反映されるか、注視すべきことだろう。


【動画】「能勢伸之の週刊安全保障(前編)」(12月1日配信)

【動画】「能勢伸之の週刊安全保障(後編)」(12月1日配信)

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