銀行の“財産”は“負債”へ変わる時代 なぜLINEはいま銀行を作るのか

元銀行員の作家が語る二社提携の思惑

カテゴリ:地域

  • 低収益に苦しむ銀行が生き残りをかけて飛びついたのがフィンテック
  • 「資産」のないインターネット、銀行と組む優位性は?
  • フィンテック成功のカギとなるのは?

ヒト・モノ・カネの三重苦に苦しむ銀行

銀行が立ち並ぶ大手町

インターネットの発達で伝統的な大企業は、今まで財産だと考えられていた設備や人材など過去から連綿と蓄えてきたものが過剰な負債となる時代を迎えてしまった。

それはまるでバブル崩壊時にヒト(雇用)、モノ(設備)、カネ(債務)の3つの過剰に苦しみ、身動きが取れず、失われた20年と言われる日本の経済界にとっては屈辱の年月を過ごしてきたことの再来だ。

この問題を抱えている大企業の典型が銀行である。

銀行は、駅前の一等地に店舗を構え、その堂々とした店構えや巨大な看板が信用となった。大学を優秀な成績で卒業した行員たちを多く雇用し、彼らは客に対して慇懃無礼なまでの丁寧な応対で取引を進めた。さらに彼らの給料は、一般企業がうらやむほどの高い水準と言われたのである。

ところが現実はどうか?銀行は超金融緩和、マイナス金利の状況が長く続き、低収益にあえいでいる。企業は自己資金を貯め込み、融資の需要は少ない。伝統的な融資では収益が上がらず、保険や信託を売り、手数料稼ぎに勤しんでいる。

しかしこのままでは生き残れない。ヒト、モノ、カネの過剰を減らすべく行員を一万人、二万人もリストラし、店舗の統廃合も進めている。そして唯一の生き残り策はインターネットとの融合だとばかりに金融(ファイナンス)とネット(テクノロジー)の融合、すなわちフィンテックに飛びついた。

一方、ネット企業は身軽だ。何も資産がない。ということは何も負債がない。あるのはアイデアとどん欲なまでの成長への意欲だけ。  

金融とネットの親和性

「LINE BANK」設立を発表したLINEの出澤CEOとみずほファイナンシャルグループの岡部副社長

実は金融とネットとは親和性が高い。共にデータ(数字)のやり取りでビジネスが成り立つからだ。金融からネットに近づかなくてもネットの方から金融に近づいて来るのは必然の動きだ。

無料通信アプリであるラインが通信から金融へ進出し、今回、みずほ銀行と提携し、銀行業に進出するのは驚くに当たらない。他のネット企業も同様の動きを加速するだろう。

今回、みずほ銀行側は「黒子(クロコ)に徹する」と発表した。この意味はどういうことなのだろうか。自行の保有する預金口座などのインフラをラインに提供する意味なのだろうか。そしてラインとみずほ銀行とで共同開発する金融サービス(預金、融資、決済、保険、信託など)を7800万人ものラインの利用者に提供することでお互いが手数料や融資利息などを得るのだろう。みずほ銀行もラインもウインウインと言うわけだ。

銀行法の認可を受けている優位性

こうしたフィンテックの動きは、銀行とは何かという問題に発展してくる。

銀行とは銀行法(第10条第1項)で1:固有の業務として預金、または定期積金等の受入れ、2:資金貸し付け又は手形の割引、3:為替取引と規定されている。この固有の業務を信頼性を持って営むため、自己資本比率規制や金融庁による検査監督など厳格なガバナンスを要求されている。

既にフィンテックの動きは、この銀行の固有の業務を侵食し、垣根を曖昧にしつつある。キャッシュレス決済のラインペイやアップルペイなどは銀行の決済業務を、クラウドファンディングは融資業務を侵食している。利用者にとっては銀行と区別はつかない。すなわち銀行でなくても構わないというわけだ。

個人向けのローン・サービス「LINE Pocket Money」も発表

ではなぜわざわざラインは銀行を造るのだろうか。それは銀行法に則った銀行であれば、もっと広い業務、もっと大きな業務が自分の責任で自由にできるからだ。そのためにみずほ銀行というメガバンクの後ろ盾が必要だったのだ。もしかしたら今や銀行がネット企業に比べて優位なのは、銀行法の認可を受けているという事だけかもしれない。

利用者の立場に立て

フィンテックなどの新しい動きが成功するか否かは、如何に利用者の立場に立つことができるかということに尽きる。利用者にとって本当に便利、有利であるサービスを提供することだ。自分たちの収益ばかり優先してはいけない。

銀行の失敗は、人々に対して銀行を利用させてやるという上から目線の立場を脱しきれなかったからだ。銀行の理屈でビジネスをしても収益が上がったために利用者の立場に立つことがなかった。その結果、どんどん人々は銀行から距離を置き、離れ始めた。それが今日の銀行の苦境を招いている。マイナス金利などの金融環境は真の原因ではないのかもしれない。フィンテックを利用して生き残ろうとしても利用者の立場に立つことがなければ、ネット企業に庇を貸して母屋を取られる未来が待っているに違いない。         

(執筆:江上剛)