まるでタイムスリップ?台風で傷ついたイチョウに見た、美しさとは

カテゴリ:国内

  • 以前から撮りたかった風景
  • 小湊鐡道の無人駅とレトロでかわいい車両
  • 美しいイチョウは台風と塩害で…

ずっと前から撮りたかった風景

里山の秋と列車を撮りたい。
カメラマンとしてずっと前から撮りたかった風景がある。

それは、小湊鐵道の上総久保駅にある大イチョウ。

上総久保駅は、千葉県市原市にある小湊鐵道の無人駅。
素朴な駅舎と黄金色に染まったイチョウ、そして、列車の風景がとても美しく、カメラマンとして、一度は撮ってみたいと思っていた場所の一つだった。

これは、小湊鐵道提供の写真。
こんな風景が、大都会、東京から約1時間の場所にある。

写真に映る車両は、昭和38年製のキハ204。保有しているその他の車両も、古いものは昭和36年製から新しいものでも昭和52年製と懐かしく、里山の風景と相まって、まるでタイムスリップしたかのような、ノスタルジックな気持ちにさせてくれる。

その無人駅に寄り添うように佇む、大きなイチョウの木を撮る機会がやってきた。

アマチュアカメラマンで賑わう場所のはずが…

しかし、調べてみると、「今年はあまり綺麗ではない」ということが判明。
その理由は、今年、立て続けに日本を襲った台風

その台風が過ぎ去った後も広範囲で<塩害>を引き起こし、ここ上総久保駅のイチョウも例外ではなく、もろにその影響を受けていたのだ。
地元の人によると、イチョウは例年の半分以上の葉が落ちてしまったという。

この時期、例年だと多くのアマチュアカメラマンで賑わっているそうだが、塩害という情報が知れ渡っているのか、今年はアマチュアカメラマンの姿は全く見ない、という事だった。

「美しい風景を視聴者に観てもらいたい」こうした風景の企画の場合、美しく撮れないとカメラマンが判断すれば、通常、取材は断念。
葉が半分以上落ちてしまったという事であれば、黄金色に染まった美しいイチョウの風景を、視聴者に届けることができないからだ。

しかし、綺麗に撮れないという事だけで、果たして取材を「没」にする理由になるのだろうか…?
もしかしたら、そこには何らかのドラマがあるかもしれない。「隠れたストーリーを探してみたい」そうした思いに変わっていった。

現地に足を運ぶと、無残な姿のイチョウの木が。
見た感じ、残っている葉は3割程度。反対側は、驚いたことに全て落葉していた。


いろいろな角度から観察してみると、撮り方によっては美しく見せられるのでは。と、直感でわかった。
まさにカメラマンの感性とテクニックが試される被写体なのだ。

そして、撮影を決意した、一番の理由。 それは…。

儚いイチョウの美しさと隠れたストーリー

撮影のため、再び上総久保駅を訪れると、イチョウはだいぶ色づき秋の深まりを感じた。
次第に空が明るくなり、朝陽を浴びてイチョウがキラキラと輝きはじめ、駅のホームには、たった一人の乗客。そこへ、定刻どおりの列車が滑り込んできた。

朝のラッシュ時。都心なら電車は満員。駅は人・人・人でごった返している。
しかし、その同じ時間帯に、この駅で列車に乗ったのは、たったの5人。
皆、何気なくイチョウの木を見上げる姿が印象的だ。

地元の人によると、実は、このイチョウの木、小湊鐵道の職員が入社の記念に植えたものだそうだ。
その職員の方はもう亡くなられたそうだが、イチョウは今でも、地域のシンボルとなって輝き続けている。

ひっそりと静まり返った景色に静かな時間が流れる。
小さな駅で佇む上総久保駅の大イチョウは、台風で傷つきながらも、少しだけ残った葉で、懸命に秋を伝えようとしていた。

儚い美しさが、そこにはあった。

【撮影後記】

「シリーズ秋さんぽ」は春~冬、季節ごとの風景をドローン映像を駆使して放送する「さんぽ」シリーズの第5回目。
本来ならば撮影のみを行う報道局の「取材撮影部」が、撮影、原稿、編集、OAまで携わる「映像企画」で、各担当者は、美しい風景を視聴者の皆様にお届けしようと、毎回悪戦苦闘している。
「きれいに撮れないから没なのか?」「そこにストーリーはないのか?」自分自身に問いかけながら臨んだ今回の撮影。
ひと味違った<深い秋>を感じて頂けたら幸いです。 

【小湊鐡道・上総久保駅までのアクセス】

電車:千葉県五井駅で小湊鐡道に乗り換え、東京駅から約2時間。 
車:東京都心から東京湾アクアライン経由で、約1時間。 


(執筆:フジテレビ 取材撮影部 上園孝洋)

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