起業国家イスラエルを生んだ「ボーっと生きてんじゃねえよ!」の精神

イスラエルの「スタートアップ・エコシステム」を探る <短期集中イスラエル先端技術レポート②>

カテゴリ:ワールド

  • 「起業国家(スタートアップ・ネーション)」と呼ばれるイスラエル
  • 国家が主導した投資プログラムが成功の要因
  • 軍事技術をベースに次々と起業家が生まれる

「起業国家」イスラエル。

建国わずか70年のこの国は、いかにしてハイテク国家へと変貌を遂げたのか? その詳細を解説した書籍「Start-up Nation」は2009年にアメリカでベストセラーとなり、その後「起業国家=イスラエル」というイメージは定着した。

毎年800〜1,000件規模のスタートアップが生まれ、グーグル、アップル、マイクロソフトなどのテックジャイアントが買収、提携を繰り返す。

しかし遡るとその歴史は短くそしてシンプルだった。ある時を境に起業国家の以前と以後が明確に分かれている。90年代に国家主導で行われた「ヨズマ・プログラム」が全ての始まりだったと言う。

FNN.jp編集部はイスラエルで有数のベンチャーキャピタルVertex Venture Capitalを訪問し、ゼネラル・パートナーのDavid Heller氏に話を聞いた。

すべては「ヨズマ・プログラム」から始まった

Vertex Venture Capital オフィス

「我々はもちろん政府の政策を批判することもある。ただし、この政策にはとてもとても感謝している

と、Davidが語る1993年に政府主導で行われた「ヨズマ・プログラム」。ヨズマとはヘブライ語でイニシアチブを意味する。

クレイジーなアイデアとともに、自ら小さく会社を興し大規模に育てるには、投資家、いわゆる「リスクマネー」が必要。

イスラエル政府は自国にベンチャーキャピタル業界を根付かせる為に、100億円を投資資金として用意し10件のファンドに分け、それぞれ民間機関と連携を取りながらベンチャー投資を行った。Vertex Venturesもその10件に採択された1社だった。

David Heller

ヨズマ・プログラムの狙いは見事に的中、アメリカを中心とした民間VCのリスクマネーが大量に流れ込み、90年代後半のインターネット・バブルの波も受け、大成功を収めた。

「政府のこの政策は今日のイスラエルにおけるスタートアップ・エコシステムの決定的な土台となっています」

「日本の若者は大企業に就職したがるでしょう(笑)? イスラエルの若者たちは(このエコシステムがあるおかげで)むしろ小さく会社を立ち上ることを望み、自分たちが『他とは違う』ことが何より重要だと考えているのです」

近年では日本を含む各国がこのモデルを研究するためにイスラエルを視察し、韓国は2014年の朴槿恵(パク・クネ)大統領時代に、当時の責任者で現在はヨズマ・グループ会長のイガール・エルリフ(Yigal Erlich)氏と、韓国版ヨズマ・ファンドを開始した。

90年代前半、インターネットビジネスが花開くかどうか分からないタイミングでの思い切った政策。資源も市場もない自分たちには「戦略」しかない。そんな国の姿勢が感じられるエピソードだった。

軍事技術をベースに次々と起業家が生まれる

ハイテク国家の成り立ちには、もう一つ大きな要素がある。

イスラエルでは兵役の義務があり、18歳から男子は3年間、女子は2年間、軍に所属する。そこで培った技術やノウハウが起業の土台になっているというのだ。

Davidはいくつかの企業を例に解説してくれた。

PILLCAM(ピルカム)

世界初のカプセル内視鏡「PILLCAM(ピルカム)」。考案者はイスラエル国防省の研究機関でカメラ付きミサイルの開発に携わっていた技術者だった。

また、世界で初めて「ファイアウォール」を商品化したチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ。創業者のギル・シュエッド(Gil Shwed)は、イスラエル軍の中でもエリート部隊と名高い諜報組織8200部隊の出身。

8200部隊の詳細は明らかにされていないが、通信の傍受からサイバー攻撃まで、ハッキングにおけるプロ中のプロと考えて間違いないだろう。

チェックポイントは、日本を含む全世界でセキュリティ対策ツールを提供しており、現在もイスラエルのサイバーセキュリティ業界で最も大きい企業である。

数年先を予測し、先手、先手で動き続ける

最新の事例に目を向けると、例えば昨今、無人偵察機、いわゆるドローンに搭載されたカメラは、高速で移動しながらピンポイントで標的を捉えることが可能であり、その技術を農業に生かしたスタートアップがTARANIS

TARANIS

写真を見ると一目瞭然だが、かなりの高度から高精細なカメラを通じて、害虫の状況を検知する事ができる。

また、サイバーセキュリティ技術のターゲットは自動運転市場に向けられていた。

Argus Cyber Cecurityは自動運転車のハッキング対策を専門にした会社。

2015年、Jeepがネットワーク経由でハッキング可能なことを暴露した動画が話題になり、自動運転時代のセキュリティ対策は社会的な課題となっていた。

【YouTube】Hackers Remotely Kill a Jeep on a Highway

少し驚いたのは、Argusは昨年すでに、ドイツ自動車部品大手のコンチネンタル社グループにより買収されていること。自動運転はまだこれから世の中に普及するという段階で、そのハッキング対策を専門にした会社を起業し、すでにエグジットまでしている。イスラエルの起業家はここまで先手先手で物事を進めているのだなと。

ビジネスで失敗しても、死なない

Davidは最後に、イスラエルの「失敗に寛容」なカルチャーについて話してくれた。

「ビジネスで失敗しても、死なない」「だからそこにチャンスが有れば、みな喜んでリスクを取りに行く」

18歳という若さで軍の仕事を任された後であればなおさら、そのようなマインドになるのだろう。

以前、彼は日本の経産省の人に、どうしたら日本が変われるのか聞かれたそうだ。「それは経産省の問題ではなく、文科省の問題。教室で、たとえ100%の自信がなくても、手を上げる。その姿勢を幼稚園から育てないと変わらない。結構、根が深い問題」だと。

肌身で感じたイスラエル精神

Crowne Plaza Tel Aviv City Center(テルアビブ市街)

夜、テルアビブの街中を移動している合間に、取材チームの一人がつぶやいた。「最近テレビでボーッと生きてんじゃねえよ!って言ってるけど、まさにボーッと生きられない国なんだね。」

NHKのクイズバラエティ番組「チコちゃんに叱られる」に登場するきぐるみを着たチコちゃんの決め台詞。その声が自分の頭の中にも聞こえてきた。

それがいいことなのかどうかは分からないが、とにかくそういうことなのだなと。イスラエルの現地にいると実感できた。
 
 

短期集中イスラエル先端技術レポート。次回(12/9日曜更新)は「サイバーセキュリティ」をテーマに、イスラエル最大級のカンファレンス「HLS & CYBER2018」の内容も含めてお届けします。

<レポート①>
「もう一つの脳」を作る。イスラエルの天才技術者が開発中のすごいモノ

ワールド・テック・リポートの他の記事