「スタイルを持つ人が強い」レッドブルに学ぶビジネスパーソンの競争戦略

カテゴリ:ビジネス

  • ブランドの概念を伝えるだけ。それ以外をしないレッドブルの経営
  • スタイルに合わないことはしない「好き」か「嫌い」で動く
  • ビジネスパーソンがマテシッツから学べる「スタイル」

世界各地で開催され、高い注目を集めるエクストリームスポーツ「クラッシュドアイス」がついに日本初上陸。

12月7日8日の2日間、横浜みなとみらいで開催される。

前編では、レッドブルがこういったエクストリームスポーツに取り組む理由について、レッドブルは単にエナジードリンクを販売しているだけではなく、エキサイティングな体験を提供することを主としている、その価値と合致しているのが「エクストリームスポーツ」といった話をしてくれた。

(「レッドブルは飲料メーカーではない?エクストリームスポーツに取り組むワケ」https://www.fnn.jp/posts/00393010HDK

イベントを主催するレッドブルは、商売の原理原則に忠実な会社であると一橋ビジネススクール教授の楠木建氏は解説する。レッドブルの創設者、ディートリッヒ・マテシッツの経営スタイル、競争戦略からビジネスパーソンが学ぶべきこととは?

(聞き手・新美有加アナウンサー)

マテシッツのような経営者は“余計なことをしない”

ーーレッドブルが行うスポーツマーケティングは、オリンピックやメジャースポーツの試合に広告を出すといった一般的なものではなく、エクストリームスポーツといったマイナーなスポーツをサポートし、一緒に盛り上げていくという点でもユニークですね。

レッドブルの場合は、たとえ何千万人、何億人が見ていようと、そこに「翼をさずける」というコンセプトとの適合性がなければ意味がないとわかっている。基準が本来の意味でのマーケティングなんです。「翼をさずける」という概念をマーケットする、市場に分からせる、という。それがほかの企業と違うところ。

レッドブルの競合企業を含めた一般企業は、何千万人、何億人が見ているから広告を出すなど説明可能な指標を求める傾向がありますが、レッドブルは違います。そこが、一般企業ではマネできないことなのです。

なぜこういうことができるのかというと、他の事をしなくてもいいからなんです。新製品や技術の開発はしておらず、ブランドの概念をマーケットすることだけに注力すればいい。その一つがこういったエクストリームスポーツをサポートすることなのですが、ある意味、マイペースですよね。

時間がかかってもスポーツを育てていく方が、巨額な広告投資をやるより価値がある。そういう価値基準で動いています。それはジタバタしがちな企業経営が見失っているところだと思いますね。マテシッツのような自信がある経営者は何をすべきかがわかっているので余計なことをしないんです。

「好き」「嫌い」がはっきりしている

ーーマテシッツの「やらないことを決める」という姿勢は、楠木先生が説かれている「優れた経営者は『好き』と『嫌い』がはっきりしている」という理論に通じている気がします。

そうですね。彼はすごく好き嫌いがはっきりしていると思います。ここでいう「好き」「嫌い」とは、「社会的にコンセンサスはないけれど、ある人や企業の中で局所化されている価値観」としますが、彼はまさに「好き」「嫌い」で動いている人です。

会社を上場して、不特定多数の株主の影響にさらされれば、好き嫌いではやっていけないでしょう。資本政策にしても、自分たちの経営スタイルに合ったことをやるし、裏返すと合わないことは決してやらない。これは非常にいい経営スタイルだと思います。


ーー楠木さんが想像するに、マテシッツはどんなことが嫌いだと思いますか?

やはり、メインストリームは嫌いでしょうね。オルタナティブを作っていくことに喜びを見出していく。レッドブルがメインストリームの飲み物になったら彼にとって失敗ではないでしょうか。

ーーエナジードリンクの中ではメインストリームになりつつあると思いますがどうでしょうか?

西洋の文化からするとエナジードリンク自体がオルタナティブな存在なので、その中でトップになるのは喜ばしいことでしょう。あとは、非常に属人的な経営を行っているので、システマティックな経営は信頼していないでしょうね。

マテシッツが行っていることは創業してからずっと変わらないし、それをどんどん広げていこうという野心もあまりない。これから先、レッドブルが売れ続けている限りは重要な意思決定もあまりない気がします。

成長プレッシャーもないでしょう。彼の中でコンフォートゾーンがきちんと作れていて、その中でやっていけば回る商売になっている。量を求めない、非常にアーティスティックな人だと思いますね。

ーーレッドブルはブランドとしてのポジショニングが上手で、他の商品とは対極にある飲み物だと感じます。

そうですね。逆にいうと、その他の企業の本質がよくわからないのは、やっていることしか伝えていないからです。“◯◯という商品を出しました、●●地域に参入しました、△△という技術を発表しました”ということしか伝えない。でも、実はそうじゃない。

そこに「何がないか」に戦略の本質があると思う。レッドブルはないものばかり。トレードオフがはっきりしています。


ーーたとえ他企業がレッドブルの商品や世界観を真似したとしても、結局後追いになるだけで、越えられない気がします。

世界観というのは、つまり一貫性なんです。

断片的なアクションが一貫していることが、世界観として人々に伝わるんです。企業にとって大事なのは、世界観を壊すようなものに手を出さずに一貫性を強化していくこと。その一貫性が一つ一つの意思決定につながってきます。

ビジネスパーソンとして重要なのは「スタイル」

ーー経営者でない一般的なビジネスパーソンが、マテシッツやレッドブルに学ぶべきことはなんでしょう?

スタイルの重要性だと思います。スタイルというのはその人のあらゆる断片を繋ぎ、そこに現れる一貫性のこと。その人自身が行うことがきちんと繋がっている。そのことが価値になる。スタイルがある人はビジネスマンとして非常に優秀です。

その典型例がマテシッツだと思いますね。考えやコンセプトが一貫している。ちなみにスタイルに「良い」「悪い」はなくて、「ある」か「ない」かだと思いますね。


ーー個人のスタイルはどうやって形成、確立していくものなのでしょうか?

時間の中で練り上げていくものではないでしょうか。

人間は複雑ですし、矛盾を抱えた生き物なので、相反するものが同居している。時間はかかると思いますが、さまざまな意思決定が繋がって結果としてスタイルになると思います。

 

楠木建

一橋ビジネススクール教授。1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション兼キュセンター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『経営センスの論理』(新潮新書)などがある。

◆Red Bull Crashed Ice Yokohama 2018 (レッドブル・クラッシュドアイス横浜 2018)
12月7日(金)、8日(土)横浜市臨港パーク特設会場にて開催
https://www.redbull.com/jp-ja/events/crashed-ice-yokohama

(文・浦本真梨子)