ゴーン不正の暴露は日本政府が後押しか?

カテゴリ:ワールド

  • ゴーン支配の終焉は単なるゴーン容疑者の不正だけが理由ではない
  • 20年前からルノーは日産を支配していたがフランス政府の立場が変化したのは数年前
  • フランスが強い三社連合でルノーグループを作りあげる時、日本政府の立場は・・・

事実は小説よりも奇なり

とんでもない事件が起きてしまった。日産自動車の会長として長く権力の座に就いていたカルロス・ゴーン会長が会社のお金を私的に使ったことが判明し、逮捕されてしまったのである。まさに事実は小説よりも奇なりという言い方が当てはまる事件だと思う。  

ところで今年は戌(犬)年だ。歴史学者である村上さんの言葉を借りると、戌年の「戌」という漢字は作物を刃物で刈り取りひとまとめに締めくくることを表しているという。つまり終わりを意味している。ゴーン支配の終焉は中国古来の十二支によって予言されていたと思うと不思議だ。自動車産業にとっては今回のことが、平成最後の事件となってほしいものだ。  

西川社長はゴーン側近中の側近だった

ゴーン逮捕について会見する日産の西川社長

さて、今回の事件をどう考えるべきなのか。次から次へと舞い込むニュースを見ていると、不正で取得した金額が増え続けている。TV報道では横領事件に発展する可能性もあるとコメントする元検事もいた。ゴーン氏の不正の実態とは別に次元で、この事件は単なるゴーン氏の不正資金だけでは済みそうもない。日産がゴーン氏の悪事を暴き、ゴーン支配を終わらせようという日産の意図があったと報道されているが、なぜ、このタイミングで日産は不正を暴いたのだろうか。ゴーンの不正とは別の次元でルノー日産のアライアンスの変化について考えてみたい。  

すでに報道されている多くのメディアの論調は日産が被害者でゴーン氏は容疑者、そして日産の親会社のフランス・ルノーは日産を食い物にする悪代官のようなイメージが出来上がってしまっている。先日の日産の西川社長の記者会見を見たときの第一印象はとにかく違和感だった。たった一枚のペーパーを持ち、淡々とゴーン氏の悪事を暴露し、特捜部と連携して悪を退治する役を演じているように見えたからだ。ゴーン氏の不正問題は日産社内のガバナンスの問題でもあるので、責任をゴーン氏だけに押し付けるのはおかしいし、会社の責任もあるだろう。 

ここからは私の個人的な意見であるが、コストカッターの実務を担当してきた西川社長はゴーンの側近中の側近。最近のゴーン氏のお金の使い方に問題があったことはなんとなく感じていたはずだ。しかし、見てみないふりをしてきたのではないだろうか。ゴーン体制に甘んじてきた今の日産のトップがなぜ、今というタイミングでゴーンの不正を暴いたのか。そこが最大の謎だった。  

数年前からフランス政府の立場が変化

フランスのルノー本社

報道ではルノーの支配が強まるのを恐れてゴーン氏を追い込んだという報道もあるが、20年も前からルノーは日産を支配してきたのだ。そのルノーは日産の利益を吸い上げているだけという報道もあるが、株式の論理では当たり前のことで、何が問題なのか理解に苦しむ。しかし、ルノーの株を有するフランス政府の立場は数年前から変化している。 

2014年に「フロランジュ法」を制定し、二年以上株を保有すると企業に対する議決権が二倍になるとい法律を制定している。フランスは大手企業の株を政府が保有するケースは珍しくない。文字通り、政府の発言を強める政策が。原子力事業や航空産業、自動車ではルノー(約15%保有)、プジョー・シトロエン(約13%保有)している。自動車に関してはルノーとプジョーは政府が株を保有し、自国の雇用創出をもくろんでいる。  

現在でもルノーは日産と三菱自動車を支配しているが、ルノーはアライアンスを完全に一本化したいという話が浮上している。三社合併案に関しては、ゴーン氏は当初は反対していたが、フランス政府のマクロン大統領に説得され、三社の完全な統合の戦略を打ち立てていたのではないだろうか。  

フランス政府の戦略は

日産や三菱自動車の自立性が失われると、税金の安い国に本社を移転し、日本市場に魅力を感じていないルノー・日産は、生産工場をフランスに移転するかもしれない。環境や安全技術ではルノーにとって日産は頼りになる。三菱自動車もプラグイン・ハイブリットを持っている。三社完全統合はフランスにとって大きなメリットとなるはずだ。  さらに2015年のパリ協定も経営統合を後押ししている。フランス政府は2022 年までにEVの販売台数を5倍にする目標を打ち立てている。具体的には2022年にはEVが約15万台、充電器は10万基の設置を目標とし、さらに水素や第4世代のバッテリーの研究に投資する。 2050年の温暖化の目標は重く、さらにSDGs(持続可能な開発目標)では17項目のアジェンダが採択されている。このアジェンダは2030年までに各企業が達成しなければならない。SDGsの主な目標は貧困と格差を無くすことが求められているので、雇用醸成は非常に重要な政府課題なのだ。

日本政府の後押しがあった?

フランス政府は三社統合で強いルノー・グループにしたいが、そのことが実行されると日本政府は税収減、雇用減が予測され、到底受け入ることはできないだろう。ゴーン氏の側近だった西川社長がゴーン氏の悪事を暴いたのは、その裏側に日本政府の後押しがあったのかもしれない。

 2017年の販売台数ではルノーアライアンスはトヨタを抜いてVWに迫る販売台数になった。ゴーン氏の野望は日産に就任したときから「トヨタを抜ことと世界一になること」だったと聞いている。世界一のメーカーの頂点に立つことがゴーン氏の目標でその夢はほとんどかなっていたように思えた。だが、フランス政府から突きつけられた三社の完全統合案にゴーン氏は異を唱えることができなくなったのではないだろうか。

このようにゴーン氏の事件に背後には日仏政府の思惑が見え隠れしている。

今後、期待する解決策はあるのだろうか。
私見ではフランスと日本のメーカー、あるいは政府が敵対するのではなく、双方の妥協も必要で、その上でユーザーファーストになってほしい。でなければユーザーはルノー日産三菱の三社に愛想を尽かすかもしれない。結局、三社の行く末はユーザーが決めることになるはずだ。

(執筆:国際自動車ジャーナリスト 清水和夫)

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