11年の専業主婦期間を経て復職。女性医師を支える女子医大の使命

ブランクを経た女性医師の復職をサポート

カテゴリ:テクノロジー

  • 女子医大には結婚・出産を経ても働く“ロールモデル”があった
  • 卒業生以外も受け入れる、女性医師の復職サポート
  • 11年のブランクがあっても。研修制度と経験を生かした配置

東京医科大学に端を発した入試差別問題。その背景には出産・育児により離職しがちな女性医師を敬遠したという見方がある。

一方、そんな女性医師たちにとっても、いざ復職したいとなった時に抱える悩みがある。

前回の記事で女性医師の就業率の変化を示すM字カーブのグラフを紹介したが、出産・育児により一時離職する女性医師が復職の際に抱えるのは、ブランクにより生じる、スキルや知識への不安。

そんな女性医師に向けて、スムーズな復職をサポートする仕組みが、日本唯一の女子医科大学である、東京女子医科大学にあった。女性医療人キャリア形成センター女性医師再研修部門の女性医師再研修-復職プロジェクトだ。

センターの発足は平成18年にさかのぼる。

当時の医療業界では、平成10年ごろより医学部に入学する女子学生の割合が3割を超え始めたため、その急激な増加に対して厚生労働省は、今後女性医師の増加に伴い産休・育休で離職する女性医師が増え、医師不足がさらに加速するだろうという見通しを発表した。

それに対し、同大学に所属する医師たちの見解は異なるものだったという。部門長を務める石黒直子医師、そして実際に女性医師からの相談を担当する副部門長の横田仁子医師に話を聞いた。

女子医大としてノウハウを伝える使命

「女子医大の付属病院には、女性医師は産休・育休で一時的に休職することがあったとしても辞めずにキャリアを継続して活躍している、という実例がすでにありました」(横田医師)

実際、石黒医師には29年前と24年前に出産・産休を経て復帰した経験があった。

「女子医大は子どもを保育園に預けて働くのが当たり前な環境で、私が33年前に入局した当時もすでに1、2人子どもがいて常勤で働く女性が医局に7名いました。当時は時短制度もなく、もちろん大変だけど続けている、そういったロールモデルがすでにいたので、ああやって私もできるんだな、と思えたわけです」(石黒医師)

石黒直子医師

「それが他の病院は、ロールモデルがなく復帰と両立のノウハウを知らないだけで、また復帰した医師の働きやすい環境が無かっただけだろう、と。そこから、女子医大としてやるべきこと、私たちの持つ知見を広く伝える機関を設立するに至りました」(横田医師)

復職支援においては、申請後にまずヒアリングと面談を行い、その後必要に応じて実際の臨床研修を行う。

ほかにも、シミュレーション機械をつかった内視鏡や超音波検査、採血などの手技を学び直す研修も開催するという。

「面談させていただくと、実力的に問題なくすぐ復職できるのでは、という方が多いです。実際、約半数は相談のみで復帰に進まれます。とはいえ、不安が拭えない方もおられるので、その場合には臨床現場で研修を受けていただくと、自分で『できる』と実感でき、不安が解消されたとおっしゃられます」(横田医師)

横田仁子医師

発足以来12年でのべ268人の相談者を数える。

設立当初の思いの通り、女子医大の卒業生以外の医師も広く受け入れており、実際相談者の約8割が他大学の出身者だという。

また、座学として育休中でも在宅でスキルや知識を学べるe-ラーニングも行っており、こちらの登録者は、のべ5200名にものぼる。

11年のブランク経て復帰「想像力の引き出しが増えた」

実際に当プロジェクトを経て復帰した、同大学病院総合診療科の山口あけみ医師に話を聞いた。

山口医師は女子医大を卒業後、2年間の内科研修を経て、膠原病リウマチ痛風センターに所属し、2年間で2カ所の病院に勤務した後、結婚。

配偶者の仕事の都合で海外へ移住し、11年間の専業主婦生活を経て、帰国後に当プロジェクトへ参加。現在、4歳から10歳の4児の母だ。

山口あけみ医師

「最初は具体的なプランニングがなく、とにかく『相談したい』という形で訪れましたが、その際に私が気づかなかった、英語を使った診察や母親としての経験を生かした診察、という新たな視点をいただけました。そして、研修医時代とは違う経験を経てからの再研修なので、現在の職場でもある総合診療科がいいのでは、と提案をいただき、私のこれまでの経験を踏まえて提案してくださったのが心強く、安心しました」(山口医師)

カウンセリング後、5ヶ月間の外来での臨床研修を経て、昨年秋から、週1の非常勤医師として復帰した。週のその他は親族が運営する個人病院を手伝うという。

「離職していた11年、数々のライフイベントを経たことで想像力の引き出しが増え、研修医時代には持たなかった共感力が身についたと感じています。例えば、私には介護の経験はありませんが、それでも患者さんが一言『介護で大変だ』と言った時、その背後にある本当に大変な日常を想像できたり。離職前はそこまで考えが及んでいませんでした」(山口医師)

山口医師は今後目指す姿について「一家の子どもからおじいちゃんまでを診る『家庭医』を目指していけたら」と語る。

「様々な世代の方の最初の入口となって専門的な医療が必要なのか、ある程度地域で見ればよくなる病気なのか、そういった振り分けができるような家庭医です。それに向けて一人でも多くの患者さんをみさせていただきたいなと思いますね」(山口医師)

意思決定機関に女性医師を

入試差別の問題で女性医師の働き方に改めてスポットが当たった今、女性医師再研修・復職プロジェクトの今後について、石黒医師はこう語る。

「今回の入試差別の問題も、女性医師がもっと意思決定機関にいれば違う結果になったのではないでしょうか。女性は地道にしっかり仕事をする先生はいらっしゃるけど、リーダーとして上に立ちたいという気質を持つ方がどちらかというと少ない。当センターには女性リーダーを育てるための組織として『彌生(やよい)塾』があります。トップに立つ人の話を聞くことで自分も上を目指そうとする機運を高められたらと思っています」(石黒医師)

石黒医師自身も彌生塾の本科生としてさまざまな学びや支援を受け、皮膚科学教室の教授を務めながら、部門長としてプロジェクトを統括する立場だ。

現在、女子医大では2020年までに女性の教授を30%まで増やすという数値目標をかかげており、現時点でかなり達成に近いラインまで来ているのだという。

我が国唯一の女子医科大学が展開する今後のプロジェクトの動きに、引き続き注目していきたい。

取材・文=高木沙織

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