日中融和の中…来日した「ダライ・ラマ」が講演 日本人へのメッセージと中国の今後

カテゴリ:国内

  • ダライ・ラマ14世の民主主義と平和への思い
  • 中国政府への懸念と期待の中、ダライ・ラマ14世の「4つの使命」
  • 日中友好のウラで…“法王”から日本へのメッセージ

日本チベット議連がダライ・ラマ法王の講演会を開催

11月20日、2年ぶりに来日中のチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(83)による特別講演が、超党派の「日本チベット国会議員連盟」の主催により国会内で開催された。

10月の安倍首相と習近平国家主席による首脳会談で、日中関係を新たな関係に発展させることを確認するなど、日中両国の融和が進む中で、チベット独立を目論んでいるとして中国政府から敵視されてきたダライ・ラマ14世が日本で何を語るのか、注目の講演となった。

ダライ・ラマ14世の講演会(11月20日 衆院議員会館)

講演に先立って議員連盟会長の下村博文元文科相は「今、世界が混乱とさらなる分裂等々、調和とは程遠い情勢の中で、これからますます、ダライ・ラマ法王の世界における指導者としての役割は大きなものがあるのではないかと、世界中の心ある方々が望んでいる」と述べ、ダライ・ラマ14世の訪日への歓迎と感謝の意を示した。

「私は民主主義を信じている」

そして始まった講演。ダライ・ラマ14世は冒頭、「日本は近代的、物質的に大変向上した素晴らしい国となっています。それだけではなく、仏教に根付いた国家ということで、この深遠なる仏教の教えが、引き継がれている日本の議員の皆様方に、この場を用意して頂きまして、お目にかかれたことを非常に光栄に思っております」と感謝の意を述べた。

そして、自らの歩みについて「非常に幼いころから、民主主義というものに対する、深い尊敬の気持ちを持っていた」と述べたうえで、これまで民主化に取り組んできたと強調、2011年には政治的指導者としての立場を、民主主義で選ばれた指導者に完全に譲渡したとして、「私は民主主義を信じている」と訴えた。

その上で「中国がチベット地域に進攻してきて以来、約70年の月日がたっている。中国共産党の強硬派は、色々な方法を使って、私たちチベット人を抑圧し、そして殺戮し、洗脳もお金も使い、チベット人の精神を抹殺しようとしてきた」と指摘し、「それでも私たちチベット人の精神は、抑圧されればされるほど、ますます高まっていくという事を見せてきた」と振り返った。

「私達はチベットの独立は求めていない」

1959年のチベット蜂起と、それに対する中国政府の武力鎮圧の中、インドに亡命せざるをえなくなったダライ・ラマ14世。これまで中国政府に対し、チベット地域の高度な自治を認めるよう平和的に求めてきたが、中国政府はダライ・ラマ14世を、チベット独立を求める危険人物とみなし、一貫して敵視してきた。

講演でダライ・ラマ14世は、1959年以前にはチベット族と漢族の間で大きな問題はなかったが、中国共産党の強硬派によって、両族の間には亀裂が生まれ、会社や学校、商店など至るところで「漢族、チベット族という違いが常に強調されるようになってしまった」と指摘。「中国は調和をとった世界、そして統合的な社会を構築することスローガンに掲げてきたが、実際的にはそのような状況にはならなかった」と嘆いた。そのうえで次のように強調した。

「1974年以降、私達はチベットの独立というものは求めてはおりません。歴史的には、もちろん私たちの国チベットは、独立国であったわけですが、実際の状況などを考え併せてみるならば、そのようなことはあまり実際的ではないということで、そのような決意に至ったわけです」

このように改めてチベットの独立を求めない考えを示したダライ・ラマ14世。その上で「もし中華人民共和国の枠内に留まるということであるならば、私たちは中国の憲法に基づいた、全ての権利というものが与えられるべき」と述べ、中国はチベットに経済的利益を、チベットは中国に対して仏教的な背景をもつ精神性という利益を与えることができると指摘、「両者の利益を図る考え方に基づいて」チベットは独立を求めていないと語った。

また、ダライ・ラマ14世は、中国の強硬派によるチベット族に対しての、分離・独立を図るのではないかと疑い、見下すような態度に強い懸念を示しつつも、次のように中国国内での穏健派の台頭に期待を示した。

「最近、中国政府の方では、強硬的な政府の方針というものが全く役に立たないというようなことが、認識されてくるような時代に入っており、私たちは現実に見合ったアプローチというものをしていくことが必要であるということが、広く認識されるようになってきています」

ダライ・ラマ14世が語った4つの使命と日本への期待

講演を締めくくるにあたり、ダライ・ラマ14世は自らの4つの使命に言及した。

「より慈悲深い、より平和な世界を構築したいということが第一の使命」

「異なる宗教間の調和をはかることが第二の使命」

「チベット文化・仏教を保全し、地球全体の環境問題を改善していくのが第三の使命」

「古代インドにおける知恵や知識を今の時代において復興させたいのが第四の使命」

その上でダライ・ラマ14世は日本について、チベット仏教と同じ源流の「大乗仏教」の伝統を引き継いでいると指摘し、「大乗仏教の伝統は信心から入るものではなく、正しい根拠に基づく論理的な、非常に科学的な宗教の1つとなっている」と述べ、少しでもその考えを学び、平和な心を構築していくことに繋げてほしいと語った。

日中友好との狭間で難しいかじ取りも・・・

日本チベット国会議員連盟は、この会合で、「チベット人への人権弾圧、独自の文化、教育、言語への弾圧、民族のアイデンティティーの否定、宗教的自由の否定がますます酷くなっていることに深刻な懸念を抱いている」「チベット仏教信仰の自由も含めて、基本的人権の回復を強く願い、その非暴力の訴えに全面的かつ継続的な共感と連帯の意を表す」「政治的、宗教的信条により収監されている多くのチベット人の釈放とこれらチベット人の人権団体へのアクセスを強く求める」と訴えた決議文を採択した。

10月に安倍首相が日本の総理大臣として7年ぶりに中国を公式訪問し、「競争から協調へ」と訴え、日中関係が改善しつつある中ではあるが、両国は様々な問題を抱えている。

特に民主主義をめぐる問題では両国に明確な違いがあり、日本としても人権問題には毅然とした姿勢で取り組む必要があるだろう。それが本当の良き隣人として両国の関係を、共通の価値のもとで真に発展させることにつながるのは言うまでもない。
安倍首相も李克強首相との首脳会談で「中国国内の人権状況について、日本を含む国際社会が注視している」と伝えたという。

安倍首相と李克強首相の会談(10月25日 北京)

会合の最後に、ダライ・ラマ14世は次のように述べていた。

皆様方のお立場としては、中国の方に真っ向から何か批判的なことをいうようなことは難しい状況にあるかと思われますけれども、昔1954年、55年の段階におきまして、私が北京を訪問させていただきました時に、毛沢東主席にお目にかかったことがありました。すると、毛沢東主席は私に『チベットの国旗というものありますか?』とお尋ねになられました。そこで私が『あります』とお答えしたら、毛沢東主席が『中国の紅い国旗とともに、ぜひチベットの国旗を維持して掲げるべきである』とおっしゃってくれたわけです。ですから私自身は、毛沢東主席から直に、チベット国旗を掲げるという許可を頂いているわけです」

(フジテレビ政治部 与党担当キャップ 中西孝介)

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