【中国トンデモ事件簿】ネットアイドルがふざけて国歌を歌い身柄拘束 “愛国”トラブル続々

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  • 中国ネット上で“愛国”を巡る様々なトラブルが炎上
  • 国歌を替え歌で歌ったり侮辱するような行為は「国歌法」で処罰される
  • 中国共産党は愛国主義教育を進めているのだが・・・

中国のネット上で、“愛国”を巡る様々なトラブルが炎上している。ネットアイドルがふざけて国歌を歌い身柄拘束されたり、愛国心を批判して大学入学取り消されるなど、社会的に非難を受けるだけでなく大きな代償を払わされるケースも少なくない。中国の愛国事情を考える。

「国歌法」に違反したとして5日間身柄拘束

ネットアイドルが“ふざけて“国歌を歌い拘束5日間

10月、20歳の女性ネットアイドルが、ネットの生動画配信中に中国の国歌をふざけたような態度で歌って批判が殺到した。彼女は短編動画共有アプリTikTokで4400万人ものフォロワーを持つ中国の超人気ネットアイドルだ。動画配信で、腕を振りながら国歌の最初の部分「立ち上がれ奴隷になりたくない人達よ」を口ずさんだところ、ネット上で批判の声が上がり、警察が捜査に乗り出した。女性は、「愚かだった」などとおわびの文章を出したが、国歌を侮辱し「国歌法」に違反したとして5日間身柄拘束された。

“ふざけて”国歌歌い拘束15日間「ファン増やしたかった」~ウェイボより~

内モンゴル自治区の男性も、去年11月、動画配信で国歌をふざけた姿と歌い方で歌い、1年後の今年10月に警察に通報され、15日間身柄拘束された。男性は「ファンを増やしたいと思った」と話している。また、サッカー中国リーグで、プラジル人選手が試合前の国歌斉唱の際、下を向き顔をさすったことについて、中国サッカー協会が「無礼で社会に悪影響を与えた」として1試合出場停止処分を課した。

去年10月に施行された国歌法は、国歌を替え歌で歌ったり、侮辱するような行為を処罰する法律だ。

中国国旗をゴミ袋にしたら・・・

中国国旗をゴミ袋に・・・~ウェイボより~

同じく10月。SNSに1枚の写真が投稿された。高速道路脇に置かれた赤色のごみ袋だが、よく見ると、中国国旗が描かれていた。間の悪いことに、見つかったのは、建国を祝う10/1の国慶節に伴う大型連休期間中だった。清掃員は、集めたごみを入れる袋がなかったため、ごみの中にあった古い国旗を袋にしたことが分かったが、これまで教育を受けた機会が少なく、国旗を適正に扱うように定める法律も知らなかったという。清掃員は、地元当局から厳しく注意を受け担当を外された。悪意はなかったものの、SNSでは、「無知にもほどがある」など批判の声が殺到した。当局は、愛国主義教育や法律などの教育宣伝を強化することを決めた。

「愛国なんてしない」大学入学取り消し

「愛国なんてしない」発言で大学入学取り消し ~ウェイボより~

9月下旬、湖南省の大学に入学したばかりの18歳の男性学生が、入学を取り消された。学生はSNSで「愛国なんて出来るわけがない、一生、愛国なんてしない」「現代の大学生は、古い愛国教育や集団主義に束縛されてはいけない」「俺は精日(=精神的日本人)だから、日本語を学ぶ」などと投稿。宿舎でも愛国を馬鹿にするような発言を繰り返し、周囲の忠告にもやめなかったという。警察が捜査に乗り出したほか、大学は「国を侮辱する誤った言論の影響は大きい」などと批判し、規則などに基づいて学生の入学を取り消すことを決めた。大学側は、教師や学生に対する思想政治教育を一層強化すると発表した。ネット上では「このような人はやめさせるべきだ。祖国を愛さない者は役立たず」と批判が起きた。

愛国教育を進める中国政府

中国 習近平国家主席

中国では、中国共産党が愛国主義教育を進めている。9月に行われた全国教育大会では、習近平国家主席が教師や教育関係者に向け「愛国主義精神を学生の心に植え付け、中国共産党を愛し、支持し、党の話を聞き、党と歩み、国家に貢献するように指導しないといけない」と講話した。愛国心(=“愛党心”)教育推進を、トップ自ら指示する“官製愛国心”を進めている印象がある。

去年、中国人の元軍人がアフリカで拘束された人質を救出する“中国版ランボー”ともいえる映画が国民的大ヒットとなった。ラストシーンに中国のパスポートとともに「あなたには強大な祖国がついている」とのメッセージが映され、多くの人が愛国心や中国人としての誇りを強く感じた。

また、今年初めには、中国の様々な発展をまとめた「すごいぞ、我が国」という映画も大ヒットした。ただ、チケット販売サイトで満席が続出していたものの、職場などの単位で見に行くようにとの指示も出されていて、言われたから観に来た、という人もいた。

ただ、愛国心を押し出す映画に気持ちを高ぶらせた人もいる一方、SNSでは「愛国の押し付け」など、批判や反発の声もあり、強制される愛国にうんざりした人は少なくないとみられる。

一方、ゆがんだ愛国心、ともいえる行動が問題になったこともある。今年1月、日本の空港で、飛行機が悪天候で翌日に振り替えられ、もみ合いになった中国人の乗客たちが中国国歌を歌って抗議するという事件があった。このような、何か問題があると、中国人に対する差別だ、などと所かまわず愛国心を振りかざし自分の権利を主張するような人について、ネット上には「愛国ビッグベビー」という言葉も登場した。

愛国心は、本来、自分で考え、自然と湧き出てくるもので、中国でも多くの人が普通に母国に対する誇りや愛国心を持っている。ただ街には、様々なスローガンが貼られ、中国共産党一党独裁のもと、様々な形で「国や党を愛しなさい」と促す雰囲気は感じられる。

愛国心や、国旗や国歌に対する尊重が大切なことは言うまでもないが、警察に身柄拘束されるのは、さすがに厳しいと感じる。国歌を巡り拘束された2人も、まさか摘発されるとは思っていなかったのだろう。侮辱する意図などないのに、ネット上で「愛国的でない」「けしからん」と批判が高まり、当局が動く、というケースが相次いでいて、それを喜ぶ声もある。

一方で「政府はやりすぎだ」「当局が批判をしたり、人々がネット上に情報をあげるのは、60~70年代の感覚になってくる」と、文化大革命時代に知識人などが批判のターゲットにされ迫害されたことになぞらえるような批判もある。ただでさえ表現の自由があるとは言えない中国で、他人の行為をことさらに批判し当局に摘発を促している印象もあり、息苦しさや気持ち悪さを感じる。    

(執筆:FNN上海支局 城戸隆宏)

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