プーチンの狙いは返還後の北方領土でのロシア軍の駐留

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  • プーチン大統領の目論見は、島は渡すが主権は維持
  • ロシア軍および国境警備隊の残留を目指している
  • 日本は北方領土に日本経済を持ち込み“日本化”しておくことが有効

島は渡しても主権は維持

11月14日日露首脳会談

北方領土問題が迷走している。

発端は、9月にウラジオストックで行われた日露首脳会談の際、ロシアのプーチン大統領から年内に「前提条件なしの平和条約の締結」が提案されたことから始まる。この提案は、2016年12月のプーチン大統領の訪日の時から、北方領土の返還を前提に共同経済活動の実現に向けて動いてきた安倍総理にとっては青天の霹靂であった。その後、プーチン発言への返答を検討してきた安倍政権は、11月14日、シンガポールでの両国首脳会談の際、1956年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約の締結に向けて動き出すことを表明した。また、安倍首相は、「私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つ」とあと3年残された自身の任期中での解決を宣言している。

日ソ共同宣言には、平和条約後に色丹島と歯舞群島の二島を引き渡すことが盛り込まれている。今回、プーチン大統領は、二島引き渡し後の主権は、今後の協議の対象であるとした。島は渡しても、主権は維持することを考えているのだ。

新しい発想で領土問題を推進

安倍首相の日ソ共同宣言に基づく解決の方針は、色丹島、歯舞群島の返還だけに終わってしまうのではないかと、四島一括返還を求める保守層から不満の声があがった。安倍首相は不満の声に対し、二島の返還が先に進んでも4島の帰属は譲るものではないことを弁明している。これは、従来から言われてきた「二島先行返還論」であり、新鮮味にあるものでない。二島の返還後、さらに交渉を進め残された島々の返還を求めることは、相当、時間がかかることが予想され、実質的に不可能になるだろう。

プーチン大統領と安倍首相は、新しい発想での北方領土問題を推進することで合意してきた。二島先行返還論では、新しい発想とは言えない。プーチンの思惑は、さらに複雑だ。 

ロシア軍および国境警備隊の残留

色丹島

プーチン大統領は、返還後の自衛隊基地の設置や米軍の駐留を危惧するより、ロシア軍および国境警備隊の残留を意図しているのではないだろうか。

現在、色丹島のシャコタン港には国境警備隊の基地が置かれている。この基地は年々拡大され、現在は1000人の隊員が駐屯し、4隻の警備船が常駐する。また、島の周囲には、4隻から5隻の警備船が洋上で監視任務にあたっている。

色丹島の国境警備隊の重要な任務に国後水道の監視がある。択捉島と国後島のあいだにある国後水道は、水深約480メートルと深く、一年を通し太平洋側から日本海に入るロシアの潜水艦の通航路となっている。北朝鮮の核開発により米軍が日本海および日本の周辺海域で活動を活発化させたため、ロシアの米軍への警戒態勢は強化された。

冬の間、オホーツク海は流氷に覆い尽くされるため、ロシアの潜水艦が通過できるのは、国後水道だけなのである。仮に択捉島、国後島が日本に返還されることになると、国後水道は日本の領海に組み入れられ、国連海洋法条約の規定によりロシアの潜水艦は浮上し国旗を掲揚して通過することになる。すなわち冬期、日本海への潜水艦ルートが閉ざされてしまうことになるのだ。そのために、ロシアは軍事戦略上、国後水道を日本に渡すことが出来ず、国後水道の警戒監視にあたっている色丹島の国境警備隊も動かすことができないのである。

島に日本経済を持ち込み”日本化”を

プーチン大統領は、北方領土問題に置いて実効支配という最も強いカードを持っている。さらの原油高が進み、ロシア経済が潤い、強気の外交姿勢に転じた。安倍政権は、安全保障情勢を踏まえ、プーチン大統領の言葉に振り惑わされずに、多面的に北方領土の現状を把握し戦略を進めるべきだ。まずは、日露両国の合意があり、実現可能な共同経済活動の着手から進めるべきである。どのような形でで北方領土が返還されることになっても、北方領土に日本経済を持ち込み、島々を日本化しておくことは有効である。

(執筆:海洋経済学者 山田吉彦)