「もう一つの脳」を作る。イスラエルの天才技術者が開発中のすごいモノ

インテルに1.7兆円で会社を売却したモービルアイ創業者インタビュー <短期集中連載・イスラエルレポート>

カテゴリ:テクノロジー

  • AIはまだ本を読めない
  • 人間の知能と同じ汎用AIを開発中
  • 汎用AIの活用先はデジタルヘルス領域

「12月の終わりにキックスターターに出すつもりなんだけど...」

いたずら好きな子供のような笑みを浮かべて、開発中のデバイスを見せてくれたアムノン・シャシュア(Amnon ShaShua)。

フォルクスワーゲン、BMW、日産など数多くの自動車メーカーと協業し、完全自動運転を実現するカメラ等の技術開発を行うモービルアイ(Mobileye)の共同創業者である。

FNN.jp編集部は去る11月上旬、IT先進国イスラエルを訪問し、インタビューの機会を得た。

アムノン・シャシュア(Amnon ShaShua)

Tシャツの襟にクリッピングされた小さなカメラが開発中の新デバイス。来月にクラウドファンディングのキックスターター(kickstarter)を利用して製品化予定だと言う。

新デバイスは1秒毎に目の前の人の顔を認識、会話の音声も記録し、スマートフォン上でログを管理。また、会話の内容を把握して、たとえば「明日ランチに行こう」というやり取りがあれば、そのToDoリストを自動的に作成する。

いつも一緒にいるAI

シャシュア氏はモービルアイだけでなく、2010年にはOrCam Technologies(オーカム テクノロジーズ)を創業。

目の不自由な方向けに、視覚情報を音声で読み上げる小型カメラ「OrCam My Eye(オーカム マイアイ)」を世界30カ国、20言語で展開している。

OrCam My Eye(オーカム マイアイ)

オーカムの社員が実際にデモを見せてくれた。メガネに取り付けた小型カメラがドキュメントの内容を瞬時に読み取り、音声で読み上げる。

このMy Eyeと開発中の新デバイスに共通するコンセプト、それは「いつもAIを人と同伴」させ、人間の外部に「もうひとつの脳」を作ることだ。

シャシュア氏のAIに関するビジョンとは、どのようなものだろうか?

「今日のAIは narrow AI(狭いAI)であり、たとえばチェスや碁をプレイするなど、限られた領域に特化している。我々が作りたいのはbroad AI 、いわゆるAGI = Artificial General Intelligence(汎用AI)である。」

何のためにAGIを作る必要があるのか?

人間と同じ汎用的な知能を持ったAIは、一機能に特化したAIと区別してAGIと呼ばれる。たとえばイーロン・マスクが危険性を主張するような時のAIは、AGIの事を意味する。

シャシュア氏はオーカム社が提供する一連のプロダクトを通じて、究極的にはAGIの実現を目指す。

しかし、日本でも東大受験を目指すAI「東ロボくん」が、現在のAIは文章の読解が出来ない事を示すなど(参照:ロボットは大学入試に合格できるか? TED/新井紀子)、AGIは世界中でまだ誰も実現方法を解明していない前人未到の領域。AIは本を読めないのである。

日本におけるAI・ディープラーニング研究の第一人者である東京大学の松尾豊准教授は、著書「人工知能は人間を超えるか」の中で、AIが言語を読解して知識を習得するまでには6段階あると示している。

モービルアイが自動運転に利用している画像認識はその1段階目であり、オーカムが開発する新デバイスの機能「人の会話からその内容がアクショナブルかどうかを判断し、ToDoリストを作成する」は、その次の段階を目指すものだ。

そもそも、何のためにAGIを作る必要があるのだろうか?

「コンピューターは人類にとって大きな課題の解決をすべきである。たとえば、AIはがん治療の新薬を発見できるようになる」

シャシュア氏はこの先AI活用の場として「デジタルヘルス」をターゲットとしている。そして、そのためにAIを育てているが「まだ数年待つ」必要があるとも述べた。

完全自動運転のロードマップ

最後に、自動運転に関する直近のロードマップについて話してくれた。

モービルアイはフォルクスワーゲン等と提携し、2019年の早い段階で、商用の自動運転タクシーをイスラエルで開始する。

自動運転の実現は技術面だけでなく、行政面のサポートも必要となるが、今回はイスラエル政府が全面的にバックアップする事で、世界に先駆けて法整備も含めた事例を示す狙いもあるようだ。

既報の通り2021年にBMWと提携して完全自動運転車を市場に投入する計画は、スケジュール通りに進んでいる。

モービルアイ Webサイト

自動運転の未来を着々と実現しつつ、AIからAGIへと開発を進め、数年後にはデジタルヘルス市場での大きな果実を目指す。

イスラエルは本当に先を読むのが上手い、常に先手、先手を打ち続けている。

いったいこの国にはどんな秘密が隠されているのだろうか?

今週開始の短期集中連載・イスラエル先端技術レポート。来週は「IT立国イスラエル、すべてはヨズマプロジェクトから始まった」を予定(12/2日曜更新)。

スタートアップ大国となったイスラエルの歴史的な背景と、想定のナナメウエを行く最新事例をお届けしたい。

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