元駐韓大使 武藤正敏氏に聞く“元徴用工”問題の今後

  • 韓国最高裁は、元徴用工の賠償問題が日韓請求権協定に含まれないと判断
  • 1965年、日本は韓国に5億ドルの経済支援をしており、「解決」で両国が合意していた
  • 今後、日韓協議あるいは第三者を加えた仲裁委員会が開かれる見通しか 

「主文 上告を全て棄却する」

日本の植民地時代、日本の製鉄所で強制労働させられたとして、韓国人の元徴用工ら4人が損害賠償を求めた裁判で、30日午後2時、韓国最高裁は新日鉄住金に賠償を命じる判決を言い渡した。

原告側・元徴用工の男性:
(3人の仲間と共に)私は裁判をしてきましたが、きょう私は1人で出てきて悲しくて涙が出ました。

原告側・元徴用工の遺族:
(生きていれば)このうれしい知らせを聞くことができたと思う。生前に解決されなければならない問題でした。

韓国最高裁は判決で、“日本の朝鮮半島支配は違法なもので、徴用工の賠償問題は日韓請求権協定に含まれないと判断”した。これにより、新日鉄住金に対し、約4000万円の賠償を支払うよう命じた判決が確定した。元徴用工の訴訟で、日本企業に賠償を命じた判決確定は初めてだ。 

この判決を受けて、新日鉄住金は広報を通じて「極めて遺憾です。判決内容を精査し、日本政府の対応状況等も踏まえ、適切に対応してまいります」とコメントした。

日韓請求権協定で「解決」と合意していた日韓政府

1965年の日韓国交正常化にあたり、日本と韓国は日韓請求権協定を締結。
協定に基づき、韓国に対する5億ドルの経済支援と引き換えに、元徴用工への補償は韓国政府が行い、賠償問題は「完全かつ最終的に解決する」と日韓両政府が合意していた。

当時の韓国の国家予算の約2年分に相当するこの巨額の資金が、国内インフラ整備事業投資として使われ、“漢江の奇跡”と呼ばれる経済成長が実現した。

しかし2005年、元徴用工やその遺族たちは、韓国で日本企業を提訴。当時の政権は「日本企業への賠償要求は困難」との見解を表明していた。

ところが2012年、韓国の最高裁は1965年の日韓協定で、個人の請求権問題は解決していないと判断。差し戻された控訴審では、賠償を命じる逆転判決が言い渡され、親日鉄住金が上告していた。

駐日韓国大使に抗議する河野外相

そして迎えた最高裁判決の日、国会審議中の午後2時17分、「日本企業敗訴」と思われるメモが渡された河野外相は、駐日韓国大使を呼び抗議をした。そして、安倍首相も午後4時過ぎ、この判決について言及した。

安倍首相:
今般の判決は国際法に照らして、ありえない判断であります。日本政府としては毅然と対応してまいります。


韓国外務省は「日韓関係に否定的な影響を及ぼさないよう、日韓両国が知恵を出さなければならないと日本側に伝達した」としている。
しかしその一方で、約21万7000人いたとされる徴用工とその遺族が、次々に賠償を求める可能性があり、韓国政府の対応次第では、日韓関係が根底から覆される可能性がある。


元駐韓大使で、韓国大使館に通算12年勤務し、外務省北東アジア課長などを歴任した、武藤正敏さんにお話を伺った。

総理も仰っていたが「ありえない」

元駐韓大使・武藤正敏さん

――判決をどう見る?

 総理も「ありえない」と仰っていたでしょ。これまで歴代政府とも、この問題解決すると言ってきたわけですよ。それは交渉の過程において、日本政府は個人に対する補償も検討したことがあるんだけども、韓国側から「一括して」って言ってきたわけでしょ。

で、国家予算2倍で経済開発やってきたわけですよね。ですから徴用工に対する補償は日韓協定(1965年)の中に入ってるわけですよ。それをこんな形で覆すのは、やっぱりありえないですよ。

 
また、韓国メディアも、今回の判決結果を以下のように、大々的に速報している。

日韓関係の根幹が50年ぶりに新しい試験台に立つことになった。1965年以来続いている、日韓関係のターニングポイントになる。また、日本は賠償はしないという立場であり、日本との外交戦の導火線になるのか、韓国政府の対応が注目される。

――試験台やターニングポイントなどの言葉は、これまでの日韓関係をチャラにしようとしているのでは?

日本政府の考えを韓国側も同意してたわけですよね。こういうことを何度もやられては、安定した両国関係というのは難しくなってきますよね。そういった意味では「ターニングポイント」だと私も思いますよ。

――文大統領が、(元徴用工の問題について)解決済みだと明言しなかったのはなぜ?

やっぱり人権弁護士ですし、大統領である以上に人権弁護士だったってことなんじゃないでしょうかね。

元徴用工問題をめぐる今後のシナリオは?

――今後の日本政府の動きは?

韓国政府の見方をまず見るんでしょうね。差し押さえに出てきた場合には、今後の日韓関係にものすごく影響してきますからね。戦前に活動していた日本企業は、それほど多くはないけれども、韓国で事業するためには韓国の労働者雇ってますからね。韓国ではものすごく過激な労働組合もあるわけでしょう。

だから、韓国の労働者が日本企業に対して訴訟を起こす危険性もあるわけだから、日本企業として韓国で事業活動することに逡巡するってことも出てくるでしょうね。

韓国の反日と中国の反日って違うんですよ。中国の反日は、国益に基づいてやるんですよ。韓国は国民感情で反日するんですよ。そこで理性的な判断がどこまで働いているかは分かりませんけどね。

――今後、行きつくところは?

 紛争解決するにはまず日韓で協議する。それがうまくいかなければ、第三者(第三国)を交えた仲裁委員会で協議する。これが紛争解決のメカニズム、請求権協定に入ってるわけですよね。これでうまくいくかどうかですよね。

国際司法裁判所っていうのもありますけど、韓国は拒否できますからね。だから、政府間の協議で解決するというのは、なかなか難しいんじゃないですかね。


(「プライムニュース イブニング」10月30日放送分より)

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