初の「奥の手」別荘外交でインド厚遇 安倍首相の思惑と成果

カテゴリ:国内

  • 別荘外交は各国首脳の「奥の手」
  • 安倍首相自らが決めた「インド首相を山梨へ」 
  • 日本にとってのインドの重要性 

インドのモディ首相来日で異例の厚遇

インドのモディ首相が10月27日夜から29日にかけて日本を訪れた。日本とインドは首脳の相互往来を続けていて、今年はインドが来日する番。モディ首相としては3度目の来日となった今回、安倍首相は日印の“蜜月ぶり”をアピールするため、異例の厚遇でもてなした。

①安倍首相による初の「別荘外交」

安倍首相がモディ首相をまず招いたのは、東京の首相官邸ではなく、山梨県。首相は、ゴールデンウイークや夏休みなどの休暇には、河口湖近くの自身の別荘で静養しているが、今回はモディ首相を別荘に招いたのだ。

安倍首相は、休暇中には側近や学生時代の友人らを別荘に招くが、外国要人を別荘に招くのは初めてのこと。まさに異例の厚遇だ。

モディ首相を別荘に招いた安倍首相(提供:内閣広報室)
(提供:内閣広報室)

こうした「別荘外交」は、これまでも行われてきた。
国内では35年前(1983年)、当時の中曽根首相がアメリカのレーガン大統領を東京・日の出町の別荘「日の出山荘」に招いたことが有名だ。「別荘外交」を通じ、互いを「ロン」「ヤス」と呼び合う親密な関係を築いたのだ。

レーガン米大統領(当時)を別荘に招いた中曽根首相(当時)(1983年)

世界の首脳外交でも「別荘」の役割は重要で、アメリカ大統領には、専用の別荘「キャンプ・デービッド」があり各国首脳を招待していて、ブッシュ大統領は小泉首相を招き、キャッチボールをするなど仲睦まじさを強調した。

ブッシュ米大統領(当時)の別荘を訪れた小泉首相(当時)(2006年)

安倍首相も、イギリスのキャメロン・メイ両首相からそれぞれ公式別荘「チェッカーズ」に招かれたほか、最近ではアメリカのトランプ大統領からフロリダの個人所有の別荘「マール・ア・ラーゴ」でもてなされたことが記憶に新しい。

トランプ米大統領の別荘を訪れた安倍首相(2018年4月)

こうした例から見ても、「首脳を別荘でもてなす」ことが、首脳間、さらには国家間の親密な関係を築き、アピールする格好の場、いわば「奥の手」であることがわかる。

②安倍首相自らの「決断」

政府関係者によると、今回の「別荘外交」は、安倍首相自らの決断によるものだった。背景には、安倍首相が去年9月にインドを訪問した際の、モディ首相による「熱烈歓迎ぶり」がある。

その際、モディ首相は安倍首相を首都ではなく、自らの地元グジャラート州に招いた。その際、約5万人もの市民が街頭に出て首相を出迎え、その光景に安倍首相はいたく感激したという。

インド・グジャラート州で会談する安倍首相とモディ首相(2017年9月)

そして次は日本が招待する側という中で、安倍首相は訪印直後から「次はモディ首相にどうやってお返ししよう」と思いを巡らせていた。その結果、紅葉と山中湖を眺められるホテル、そして富士山が見える自身の別荘という、山梨県でおもてなしするプランが浮上し、首相自らが「ここしかない」と決断した。

「ホテルマウント富士」での非公式の昼食会では、インドカレーのナン包み焼きをメニューに入れてモディ首相の好みに気を遣ったほか、別荘での夕食会では地元の野菜や果物を使った和食でもてなすなど、献立にもこだわりがうかがえた。

(提供:内閣広報室)

なお、別荘での夕食会は、首脳同士2人きり(通訳のみ同席)で行われ、秘書官や同行の政府高官らは別の場所で待機。食事中はカメラも入れず、まさに首脳間の親密な関係を醸成する好機となった。モディ首相はツイッターで、「安倍首相は箸の使い方を教えてくれた」と述べ、仲の良さそうな2人の写真を掲載するなど、良い雰囲気で行われたことが窺える。

モディ首相のホームページより

③双方の狙い

ではなぜ今回、初の別荘外交という安倍首相の「異例の厚遇」の相手がインドだったのか。

日本としては、新たに掲げている「自由で開かれたインド太平洋戦略」の核であり、成長著しいインドを重視する姿勢を強調し、経済や安全保障での連携を強化したい狙いがあろう。特にインド初の高速鉄道建設への日本の新幹線技術導入など、両国の関係強化に一層の弾みをつけ、経済的メリットを享受したい考えだ。

加えて、今回インドを迎えたのは、日本の首相として7年ぶりに中国を公式訪問し、習近平国家主席らと会談した直後のタイミングだった。インドと中国は国境を接し、軍事・貿易両面で緊張を抱えている。今回の訪中で、中国が進める経済圏構想「一帯一路」に条件付きで協力姿勢を打ち出した安倍首相としては、「一帯一路」に警戒感を示すインド側に対し、日本の真意について腹を割って説明し、バランスを取りたい思いもあるとみられる。

安倍首相と習近平国家主席の会談(10月26日 北京)

一方のモディ首相は、国内の規定により来年5月までの間に総選挙を行わなければならない。モディ首相としても内政上、選挙モードに入る中で、経済支援などを念頭に、日本との「蜜月ぶり」をアピールしたい狙いがあるとも言える。実際、モディ首相の公式ホームページには、両首相の親しそうな写真が大量に掲載された。

モディ首相のホームページより

安倍首相は、山梨県での一連の日程を終えた後、駅での待機中に車窓からの写真撮影に笑顔で応じるなど、上機嫌な様子だった。

そして翌29日、安倍首相は東京でモディ首相との公式な首脳会談に臨んだ。この中では、 経済面ではインフラ整備等にかかる計7件・総額約 3,165 億円の円借款、また安全保障分野 では閣僚級2+2会合の立ち上げなどで一致し、日印共同声明に署名した。そのうえで安倍首相は共同記者発表で「モディ首相とともに手を携え、自由で開かれたインド太平洋という ビジョンの実現に向けて、日印の特別戦略的グローバルパートナーシップを力強く推進していく」と強調した。

日印首脳会談(10月29日・首相官邸)

別荘で“2人きり”で行った夕食会の内容は明らかになっていないが、どんな秘密の話がされたのか、そして安倍首相が次にいつ、どの国の首脳を別荘に招待するのか、気になるところだ。

(フジテレビ政治部 首相官邸担当 山田勇)

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