SM-3ブロックllA迎撃ミサイルの迎撃試験成功とINF条約からの米離脱が日本にもたらす事

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  • SM-3ブロックllA迎撃ミサイル試験、成功
  • INF条約からの米離脱が、極東に与える影響は
  • 問題は、SM-3ブロックllAの「数」

SM-3ブロックllAの迎撃試験を実施した新顔の米イージス艦

SM-3ブロックIIA、4回目の迎撃試験

10月26日、米ミサイル防衛局は、ハワイの試射場から発射された準中距離弾道ミサイル標的を、米海軍イージス駆逐艦「ジョン・フィン(DDG-113)」 のSPY-1レーダーが捕捉。
同艦が搭載した日米共同開発のSM-3ブロックllA迎撃ミサイルを発射。迎撃に成功した。
イージス艦から発射したSM-3ブロックllAの迎撃試験としては、4回目。

これまでは、イージス駆逐艦「ジョン・ポール・ジョーンズ」からSM-3ブロックllA迎撃ミサイルの迎撃試験を2回実施。
昨年2月は成功だったが、同6月は成功しなかった。
そして、本年1月には、ハワイのイージス・アショア試験施設から発射して、迎撃に成功できなかったのである。

今回のSM-3ブロックllAによる迎撃成功は、昨年2月のイージス駆逐艦ジョン・ポール・ジョーンズからの発射で、成功して以来となる。
ジョン・フィンからのSM-3ブロックllA迎撃試験は、公表されている限り、今回が初めてであり、初めての試験で成功したことになる。

海上自衛隊の「こんごう」型イージス艦

海上自衛隊の「こんごう」型イージス艦に搭載されているSM-3ブロック1A迎撃ミサイルが、推定射程約1200km・推定到達高度600kmと言われるのに対し、SM-3ブロックllAは現在、推定射程約2000km・推定到達高度1000km以上と言われる。

このことによって、SM-3ブロック1Aでは迎撃が困難とされるムスダンや、火星12型弾道ミサイルを迎撃できる可能性が出てきた。

米海軍最新の弾道ミサイル防衛能力「イージスBMD5.1」は2隻

イージス艦の兵器システムは、まず基本システムである「ベースライン」で示される。
これは、スマホの基本システムのようなものだ。
その上に、スマホのアプリのように、弾道ミサイル防衛能力や巡航ミサイル防衛能力・対航空機防衛能力等が載せられる。

米ミサイル防衛局は、ジョン・ポール・ジョーンズの基本システムが、「ベースライン9.C2」で、弾道ミサイル防衛能力が「イージスBMD5.1」だと発表しているが、ジョン・フィンに関しては、基本システムが「ベースライン9.C2」であることしか発表していない。

しかし、米国防省の2017会計年度予算の説明資料には、イージスBMD5.1は、ベースライン9.C2に搭載されることが示されており、ジョン・フィンは、イージスBMD5.1搭載と見てよいだろう。

なお、今回の試験の直前、米議会調査局CRSが作成した「海軍弾道ミサイル防衛計画:その背景と論点(2018年10月23日)」によれば、2017会計年度にゼロだった、「ベースライン9.C2」のイージス駆逐艦が、2018会計年度には2隻になっている。

SM-3ブロックllA

従って、ジョン・ポール・ジョーンズとジョン・フィンは、米海軍/ミサイル防衛局にとっては、貴重な2隻ということになるのだろう。
イージスBMD5.1は、SM-3ブロックllAを発射・管制するだけでなく、「遠距離交戦能力」と言って、他のイージス艦に迎撃ミサイルを発射させて、管制することも出来る。

これによって、日本海側のイージスが迎撃ミサイルを射ち尽くして、太平洋側のイージス艦のレーダーに弾道ミサイルが映っていない段階でも、太平洋側にSM-3迎撃ミサイルが残っていれば、それを発射させて迎撃することが出来る。

ジョン・ポール・ジョーンズとジョン・フィンの2隻で、遠隔交戦能力の試験を行うかどうかは不明だが、もし行うならば、その成否は日本にとっても無関心ではいられないだろう。

米「INF離脱」がもたらす、極東のミサイル情勢

というのも、その理由のひとつは、米トランプ政権がINF条約からの離脱をロシアに通告したからだ。
INF条約は現在、米露の2国間条約で米露ともに射程500kmから5500kmの地上発射弾道ミサイルと巡航ミサイルの生産・配備が出来ないように規定。

これは、核・非核両方のミサイルに適用されてきた。INF条約のおかげで、ロシアの地上発射ミサイルは、日本の大半を射程外としてきた。

イスカンデル

しかしトランプ政権は、ロシアが射程1500kmとも2500kmとも言われる軍艦や潜水艦搭載用の地上攻撃用巡航ミサイル、「カリブル」の地上発射型を開発し、これを戦術ミサイル・システム「イスカンデル」に搭載したSSC-8/9M729を開発しているとして、これをINF条約違反とみなし、NATO諸国とともにロシアを非難し、遂にINF条約からの離脱を宣告したのだ。

気掛かりな「イスカンデル戦術ミサイル・システム」の展開

11月に予定されている米露首脳会談などで、米露がINF条約後の新たな取り決めを構想できるのかどうか注目だが、正式通告後、6か月という米のINF離脱が実行されると、ロシアのSSC-8/9M729巡航ミサイル・システムの生産・配備は事実上、黙認されかねない。
極東にロシアは、このようなシステムを配備しないだろうか。

さらに、米露ともに射程500kmから5500kmの弾道ミサイルは保有していないが、ロシアは、イスカンデル・システムで使用する射程400kmと言われる「9K720/SS-26」短距離弾道ミサイルをすでに配備している。

玄武2C弾道ミサイル

その輸出型は、射程300km以上のミサイル輸出を禁じた国際規定を順守するため、ロシアは射程280kmのものを開発・生産しているが、韓国は、このミサイルの技術を入手し、独自に射程800km級の「玄武2C弾道ミサイル」を開発したとされている。

INF条約という制約がなくなるなら、ロシアが、日本全土をカバーしうる射程500㎞以上の弾道ミサイルを自国開発・配備するのは技術上、難しくないだろう。

ボルトン大統領補佐官

そして、米国のボルトン大統領補佐官(安全保障担当)が、INF条約で特に問題視していたのが、中国や北朝鮮・イランの弾道ミサイル。
特に「中国の弾道ミサイルの三分の一から二分の一が、INF条約の対象となる射程」(モスクワでの記者会見・23日)であるにも関わらず、それを禁止するどころか、規制する条約もない。

さらに、中国は射程4000km級とされるDF-26中距離弾道ミサイルの部隊配備を今年4月に開始した。
あえて高く打ち上げ、飛距離を短くする方法で、日本を射程にすることが十分にできそうなミサイルだ。

DF-26中距離弾道ミサイル

日本にとって脅威となりうる弾道ミサイルは、このように北朝鮮の弾道ミサイルだけではなくなりつつあるのではないか。
そうだとすれば、SM-3ブロックllA迎撃ミサイルの迎撃試験成功は、日本の安全という観点からも軽視できないことだろう。

「数」が問題、日米のSM-3ブロックllA

しかし、気掛かりなことがある。前述した米議会調査局の報告書だ。
どんなに優秀な防御兵器でも、「数」がなければ、その効果は限定される。

SM-3迎撃ミサイル・累積引き渡し数

SM-3迎撃ミサイルの累積引き渡し数の表をみると、SM-3ブロックllAは、2017会計年度がゼロ、18会計年度で4発、19会計年度で15発、2021会計年度で27発と、米海軍の保有数も限られている。これは、生産能力によるものかもしれない。

日本は2021年度から、SM-3ブロックllAの引き渡しを受け、イージス艦やイージス・アショアに配備することにしているが、そのころ米海軍が、太平洋艦隊・大西洋艦隊を合わせて、30発程度ということなら、日本の周囲に多種多数に存在する弾道ミサイルの脅威にどのように対応するのだろうか。

いざという場合に、米海軍との連携も重要になるだろうが、当面、米海軍のSM-3ブロックllAの保有数が限定されるなら、どのように日米で対処するのか。
イージス以外の防衛システムも視野に入れるのか。それとも、何らかの他の手立てを視野に入れるのか。
年内にまとめられる防衛計画大綱や中期防の視座も気に掛かることだ。


【動画】「能勢伸之の週刊安全保障」(10月27日配信)

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