安田純平さん解放はなぜカタール政府から伝えられたのか

カテゴリ:ワールド

  • 安田純平さん解放の一報はカタール政府からもたらされた
  • カタールが身代金を払い解放された可能性は高い
  • 身代金という形をとったテロ組織への資金提供という指摘も

カタールとトルコの関与は間違いない

シリアで3年にわたり武装勢力に拘束されてきたフリージャーナリストの安田純平氏とみられる男性が解放された。23日に記者会見した菅官房長官は、その情報はカタール政府からもたらされたものであり、解放された安田氏とみられる男性はトルコ当局の保護下にいると発表した。

イギリスを拠点とするNGO「シリア人権監視団」は、多くの信頼できる情報筋からの話として、安田氏はトルコとカタールの密約に基づき身代金と引き換えに解放されたと伝えている。

安田氏解放には、どんな形であるかは明らかでないものの、カタールとトルコが関与しているとみて間違いないだろう。

カタールが身代金を支払った可能性は高い

武装組織ヌスラに拘束されていたピーター・テオ・カーティスさん ~AL JAZEERA ENGLISH~

カタールはこれまで、イスラム武装勢力絡みの人質解放案件に多く関与してきた。特に印象的だったのは、2014年にカタール政府がシリアでアルカイダ系武装組織ヌスラに拘束されていたアメリカ人ジャーナリスト、ピーター・テオ・カーティス氏の解放に成功した、と堂々と発表した件である。

カタール政府はこの時、人道主義に則り個人の自由・尊厳を尊重する立場から同氏解放に向けてたゆまぬ努力を続けてきた、と主張した。この他にも同じくヌスラに拘束された13人のシリア人修道女や2人のイタリア人女性、イエメンで別のアルカイダ組織に拘束された4人のフランス人ジャーナリスト、アフガニスタンでタリバンに拘束されたアメリカ軍士官の解放等にも関与したとされている。

カタールは身代金の支払いについては明らかにしていないものの、修道女の際は400万ドル、フランス人の際は2000万ドルなど毎回かなり多額の身代金が支払われているとされる。

既出のカーティス氏や軍士官に関しては、アメリカ政府はカタールに対し犯行グループに身代金を支払わないように要請していたが、やはり身代金と引き換えに解放が実現したとみるのが一般的だ。今回、安田氏の解放のためにカタールが、あるいはカタール経由で身代金が支払われたのかどうかは不明だが、支払われた可能性は高いと言える。

カタールがテロ組織支援の疑い

カタールがこうした人質解放への関与を内外に向け誇る一方、欧米諸国はこれをカタールがテロ組織と関係していることの証だとする見方を徐々に強めた。カタールがアルカイダなどに直接的なかたちで資金提供している証拠はないものの、様々な迂回路を用い何らかのかたちで支援している蓋然性は極めて高く、人質解放も身代金というかたちをとった資金提供ではないかと疑われたのだ。ゆえにカタールは、徐々に人質解放に関与しているという表立ったアピールを避けるようになってきた。今回の安田氏の件にもその傾向はみられる。

中東地域におけるカタールの立場

安田さんを拘束していたシリアのアルカイダ組織「フッラース・ディーン」

カタールがテロ組織を支援しているという疑いは、欧米だけでなく中東諸国の中でも根強い。

2017年にはサウジがカタールはテロ組織であるムスリム同胞団やアルカイダ、さらにはイランの後押しするシーア派武装組織の支援を通して地域を不安定化させていると批判し、自国をテロから守るための必要措置として国交断交に踏み切ると宣言、UAEやエジプトといった反同胞団諸国がこれに続いた。

安田氏を拘束していたヌスラやフッラースッディーンも、アルカイダ系組織である。ヌスラとカタールとの結びつきは、2015年にヌスラの指導者であるゴーラーニーがカタール資本のニュースチャンネル、アルジャジーラの独占インタビューに応じ、数時間にわたってその模様が放送されたことからも、十分にうかがい知ることができる。

安田さんを拘束していたシリアのアルカイダ組織「フッラース・ディーン」

武装勢力の選別を始めたトルコ

カタールとともに安田氏解放に関与したとみられるトルコもまた、同胞団やアルカイダとの関係が常に取り沙汰される。現在世界の関心を集めているサウジ人ジャーナリスト、カショギ氏暗殺事件が発生したのもトルコであり、同氏は同胞団の支持者であった。今このタイミングで安田氏が解放された背景には、サウジと対立するトルコとカタール側に「ジャーナリストを救うトルコ・カタール」と「ジャーナリストを惨殺するサウジ」との対比を際立たせたいという思惑もあったかもしれない。

また安田氏が拘束されていたのはトルコと隣接するシリアのイドリブという地域であるが、同地域はトルコの支援するシリアの反体制派とアルカイダ系武装組織の最後の牙城である。イドリブに関しては今年9月、トルコとロシアが非武装地帯を設けることで合意し、シリア政府による総攻撃は当面回避された。しかしロシアはトルコに対し、同地域からアルカイダなどのイスラム武装組織を一掃するよう要請しており、現在トルコは自身でコントロール可能な武装勢力とそうではない勢力とを選別しているとみられる。安田氏がこれらの諸勢力のひとつに拘束されていたのは間違いなく、トルコのこうした「作業」中に同氏の存在がトルコ当局の知るところとなった可能性もある。

安田氏解放にはシリア情勢、中東情勢の今が大きく関わっている。

(執筆:イスラム思想研究者 飯山陽)