ビジネスパーソンが信じるべきアートな直感力。フェルメールに学ぶ美意識のコツ

カテゴリ:ワールド

  • フェルメールが愛される理由は「言語化できない」
  • “人の心にささるもの”を知る手段にアート鑑賞
  • 美意識を鍛えられる絵を見るときのコツ!

その絵に多くの人たちが惹き寄せられ、息を飲んで視線を注ぐ。何世紀にも渡って、多くの人に愛される17世紀を代表する画家、ヨハネス・フェルメールの作品には多大な引力がある。

現存する作品は35点とも言われ、寡作な作家として知られているが、そのうちの9点が東京・上野の森美術館に展示(そのうち2点は期間限定)。連日多くの人が押し寄せている。では、彼の作品が時代も国境も超越し、人の心を魅了する理由はなんだろうか?

今回は『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』の著者、山口周さんにフェルメールの魅力を聞きながら、現代のビジネスパーソンが芸術に触れることの重要性を聞く。

(聞き手・永尾亜子アナウンサー)

フェルメールは技術者や科学者に近い存在

——フェルメール作品をご覧になっていかがでしたか?

どの作品も美術史の教科書や絵画全集で見ていましたが、やはり本物は色もサイズも全然違う。しびれました。

——世界中の人を魅了しているフェルメールですが、他の画家と違う魅力はどこにあると思いますか?

一般的に絵画は、自己表現の一つの手段として描かれると言われていますが、フェルメールはそういう感じがまったくしない。あえて自分らしさという影を消して、目の前で見ている世界を精密に絵画に閉じ込めようと注力した気がします。

当時は精巧なカメラなんてないですから、目の前の一瞬のできごとを切り取るように描きたいと思ったのではないでしょうか。画家というよりも、技術者や科学者に近い、非常にユニークな存在だと感じます。

——ビジネスの視点で見たときに、フェルメールが愛される理由はなんだと思いますか?

それはすごく難しい質問で(笑)、なぜ評価されるのかということを言語化できれば、これからいくらでもウケる絵は描けると思うんです。言語化できないからこそ、われわれは実際に見て、その魅力を感じるしかない。ただ、私が一つ感じたのは、彼の作品は非常に奥ゆかしく、そして静けさがあるからでしょうか。

私たちは日々喧騒の中で暮らし、トラブルやストレスに苛まれ、心を消耗しています。17 世紀のオランダのささいな日常や風景を精緻に描いたフェルメールの絵画に対峙することで、波立つ心が落ち着くのではないでしょうか。

“ときめき”を知る手段の一つがアート鑑賞

—— 忙しい現代に生きる私たちの心にフェルメールがフィットしているのかもしれませんね。さて、山口さんは著書の中で、ビジネスマンに向けてアートを鑑賞することの重要性を説かれていますが、その理由を教えてください。

昔は日常で不満、不便を感じることがたくさんありました。だから、それを解決するものを売り出せば、ビジネスとして十分成り立った。おかげで今、私たちはあまり不便を感じずに暮らすことができます。

では、これだけものがあふれている時代に何を売っていくのか?それは心が豊かになる体験です。人間がときめくもの、それを知る一つの手段がアート鑑賞だと思います。先人たちが何を見て、心を動かしてきたのかを知る。すると、人間はどういうものに感動するのか、そういうヒューマニティを理解することにつながります。絵画だけでなく、文学も音楽もそうですが、人間を知ることはビジネス目線でものを考えたときに、“これが人の心にささる”という直感を生みます。

先ほど言った通り、“人を感動させるもの”は厳密に言葉にはできません。ビジネスでいえば、マーケティング調査や経営学のセオリーだけを信じてものを作っていても、人の心を感動させるものは生み出せない。だから、数字だけでは浮かび上がらないものを汲み取る必要があり、そのために自分の直感を鍛えていくしかない。たくさんの絵画をみてきた人とそうではない人とでは差がつくんです。

—— 日本のビジネスパーソンはアートを見る力が弱いのでしょうか?

いえ、必ずしも弱いとは思いません。ただ、理由がないと“いい”といえないのは問題だと思います。ギャラリスト(美術商)がよく言う話ですが、外国の方はどの絵が売れているかなどは一切聞かずに“この絵が好き”と直感で選んで買う人が多い。

けれども、日本人は高い評価を得ているもの、これから値段が上がりそうなものといった第三者的な情報に基づいて選んで買う人が多い。自分の心が動かされたものを選べばいいのに、自信がないから選べないのかもしれません。


—— たしかに、美術を見る目に自信がない人は多い気がします。自分がいいと思う作品が他の人には全く響いていないとき、もしかしたら私は美意識が低いのかなと不安になってしまうのですが。

いえ、そんなことはないですよ。フェルメールは今でこそ高く評価されていますが、まったく見向きもされない時代もありました。つまり、絵の評価は絶対的なものではなく、その時代の社会や権威、文脈によって決まり、突然ひっくり返ることもある。絵画の専門家たちの意見も大したことないということです(笑)。でも、自分がこの絵が好きだという気持ちだけは誰にも変えられない普遍性を持った真実です。そこに自信を持ってほしいですね。

マーケティングにも必要なアートの感覚

—— たとえば、ビジネスに置き換えたときに、少数派に支持されているものよりも、マジョリティで受け入れられているものの方が成功しているように感じます。

たしかに、これまでは多額の宣伝費をかけてPRし、大型の流通にのせて売るために、ある程度の需要がないと成り立ちませんでした。でもこれからは、従来の大量生産型モデルから、少数派でも「本当にこれが好き」という人に向けて、高い付加価値で売るというマーケットが成り立つ時代です。

バルミューダはまさにその典型例でしょう。おそらく、事前にマーケティング調査をしていたら、高額のトースターを買う人たちは数字に現れなかったと思います。でも、本当にいいという自信があったからあの商品は生まれ、ヒットした。あの商品を生み出す感性は完全にアートですよね。

そのためには、大きなニーズを汲み取るより、自分の内面に潜む確信みたいなもの、「こういうものが絶対世の中にあった方がいい」というものを信じて作る方がビジネスとして成功すると思います。


—— そういった感性、美意識を鍛えるにはどうしたらいいでしょうか?

これもまた難しい質問ですが(笑)、やはり時間をかけてたくさんの絵画に接することだと思います。アートは見方がわからないから苦手だという人も多いですが、それは見る機会が少ないからではないでしょうか。

たとえば、音楽が苦手だという人はあまりいないですよね。逆に、どんな音楽も好きかと聞かれればそうでもないでしょう。いろんな音楽を聴いて、だんだん自分の好みを把握していったはずです。アートも同じように非常に多様です。たくさん見ていくうちに、“これが好き”という作品との出会いがあります。

逆に、美術史的に素晴らしい絵だと言われてもピンとこないものもあるでしょう。自分にフィットする作品があればそれで十分立派なアートの愛好家だと思います。まずは、好き嫌いせずにたくさん見てみることです。好きな作品と出会ったら、その作家の作品をさかのぼってみるとか、同世代の作家を見てみるとか、どんどん広げていくことで自分の美意識が形成されていくと思います。

いいと思ったものを「いい」と言える社会に

—— 絵を見るときのコツはありますか?

好きなように見るのが一番ですが、キャプションを見ずに作品を見るというのも一つの手です。ここに描かれている人はどんな人で、この後にどんなことが起こるのかなど想像をはりめぐらせて絵を見ていくといろんなことに気づくと思います。

見終わった後に絵の感想を他の人と語り合うのもいいですね。驚くほど、見ているところや解釈が違ったりしますから(笑)、絵のストーリーが膨らんでいくはずです。そういう気づきは実生活にも置き換えられて、同じものを見ても、理解や解釈が人によって違うことを実感するはずです。フェルメールは情報量が多いので、ミニマルアートよりも初心者向きかもしれません。


—— 美意識に高い、低いはなくて、人それぞれであっていいということですね。

はい。世の中には、あたかも美意識の規範があって、それにアジャストしていかないといけないという風潮があるように思います。でも、もっと自由に、見たいように見ていいし、自分がいいと思ったものに素直にいいと言える社会になったらと思います。

—— これから迎えるであろうAI時代に、リベラルアーツの力が必要と言われています。その点はどのようにお考えですか?

ビジネスは、問いと解答がセットになってはじめて成り立ちます。昔は不満や問題がたくさんあったので、解決策を生み出せばどんどん成功することができました。でも、今はほとんどの問題が解決されたので、世の中のニーズを汲み取ろうとしてもなかなか不満が出てきません。だからこそ大事なのは、自分で問いを立てる能力です。じゃあどうやって問いを作るのか?

そもそも問題とは、本来あるべき姿と現状のギャップです。つまり、本来あるべき姿をきちんと把握していないと問題が作れない。そこで、本来あるべき姿を知るために有効なのがリベラルアーツです。

人の心を動かしてきた文学や音楽、芸術にたくさん触れることで、現実とのギャップを浮かび上がらせ、当たり前を疑う視点を養います。AIは問題を解決することは得意でも、問いを立てることは非常に苦手です。私たちは自分の感性、美意識を育てて、生かしていくべきだと思います。


山口周

1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程終了。電通、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て、コーン・フェリー・ヘイグループに参画。現在、同社のシニア・クライアント・パートナー。イノベーション、組織開発、人材育成などが専門。

「フェルメール展」
東京・上野の森美術館にて2019年2月3日まで開催中・日時指定入場制
https://www.vermeer.jp/

「世紀の天才・フェルメールの罠~世界から狙われた名画の秘密~」
11月2日(金)夜7:57~9:55 フジテレビ系にて放送
https://www.fujitv.co.jp/b_hp/181102vermeer_sp/index.html

(文・浦本真梨子)