戦闘モード再び!

厚労部会に向かう小泉氏 左端は筆者
厚労部会に向かう小泉氏 左端は筆者
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「“小泉進次郎”が戻ってきた」

多くの記者やカメラが待ち構える自民党本部で、厚生労働部会に向かう小泉氏には、新たなスタートラインに立ったという表情が浮かんでいた。
振り返れば自民党総裁選がスタートしてから数週間、小泉氏には常に苦悩の影があった。

国民の関心は「総理にしたい政治家NO.1」の選択に向けられ、メディアが取材攻勢を続ける中、ふだん雄弁な小泉氏は沈黙を保った。
さらに投開票時には、これまで見せたことのない険しい表情を浮かべ、開票後の取材で噛みしめるように語った言葉には、決断の重圧がいかに苦しいものだったかを伺わせた。

しかし厚労部会長として初めての部会で、小泉氏はかつてのようにキレのある言葉で語りはじめ、再び戦闘モードに入った。
 

『人生100年時代の社会保障』への想い

人生100年時代を見据えて政策を提言し続けてきた小泉氏
人生100年時代を見据えて政策を提言し続けてきた小泉氏

厚労部会長のポストを自ら志望した小泉氏の、社会保障改革に向ける想いは熱い。
その原点にあるのは、「2020年以降の経済財政構想小委員会」だ。

小泉氏はこう語る。
「社会保障の分野全般でいえば、やはり私にとって思い入れがあるのは、自民党の若手の議員と共に議論をしてきた、『人生100年時代の社会保障』がやっぱり原点ですね」

2015年の暮れ、政府が突然発表した高齢者向け3万円の給付金に、反対した若手議員の急先鋒だったのが小泉氏だ。その若手議員らによって組織された、いわゆる「小泉小委員会」で、小泉氏らは「人生100年時代」を見据えた社会保障制度のあり方を徹底的に議論した。
 

「レールからの解放」提言

「レールからの解放」について会見する小泉氏
「レールからの解放」について会見する小泉氏

「レールからの解放」としてまとめられた提言には、「国民1人1人が多様な生き方を選択できる国」のビジョンが示され、「勤労者皆社会保険制度」、働くほど年金が増える「人生100年時代の年金制度」、予防・健康づくりを応援する「健康ゴールド免許」の3本柱が提案された。さらに「こども保険」構想では、子育てを社会全体で支える仕組みを発表した。

こうした提言は政府の検討事項に位置づけられ、今年の骨太の方針では具体的な制度設計に入ることが明記されている。
それだけに小泉氏の厚労部会長就任には、関係者から大きな期待が寄せられている。

医療改革を目指し、小泉小委員会にも参加した「ミナケア」代表の山本雄士氏は、「社会保障改革への機運が高まっている中で、従来型路線の調整・延命に留まらず、ドラスティックなビジョンを俎上に載せてほしい」と言う。

42兆円を超えた医療費が国民にのしかかる中、その使い道に国民が納得感を得られるようにするにはどう変えるのか?診療報酬改訂の議論だけに留まらず、病院経営の見直しから、予防医療のあり方まで議論を深めなければならない。
 

“新しい風”に対する期待

 
 

「新しい風を吹かせてほしい」
山本氏は、小泉氏が医療業界でイノベーションを起こすことに大きな期待を寄せる。

また、初の厚労部会では、中央省庁による障がい者の雇用水増し問題が議論された。
この問題について小泉氏は、「意図的でないといっても悪質なことに間違いない」と強い口調で批判する一方で、「本当に働く側にとっての幸せなかたち、そして雇う側とのウインウインなかたちを議論して見出していかねばならない」と語った。

この議論について、障がい者も暮らしやすい街づくりを手掛ける「ミライロ」の垣内俊哉社長はこう言う。
「働く側、雇う側、それぞれの視点に立ち、中央省庁の業務を見つめ直すと、障がい者としての知見や経験を活かしてぜひ活躍してもらいたいという仕事が出てくるのではないでしょうか」
 

「政治の戦場とは何かがよくわかった」

10月22日 厚労部会で挨拶する小泉氏
10月22日 厚労部会で挨拶する小泉氏

社会保障と一言で言っても、雇用・年金・医療・介護・福祉・子育てとすそ野は広い。
小泉氏は「予算規模もカバーする分野の幅広さも桁違い」と、社会保障改革の議論が一筋縄でいかないことを覚悟する。

「社会保障が人口減少・高齢化・労働力減少のなかで、不安の解消、これを将来の希望に変えていかなければならない。ただ、中にはつぎはぎのものもあり、これを変えていくのは並大抵の作業ではないと理解はしてます。しかし、一歩一歩前に進めたい」

厚労部会後の記者会見で小泉氏は、着実に改革を進めていくと強調した。
社会保障には、多くの利害関係が複雑に絡み、既得権益の打破は容易ではない。
部会長就任の抱負として小泉氏は、自らのブログでこう語っている。
「部会長として最初の仕事は、来年度予算案や税制改正要望を実現することになります。一部の声を代弁したり、一部の利益を優先することなく、国民全体の利益を実現する。そのために、部会長としての職責を果たしていきたいと思います」

農林部会長に続いて、二回目の部会長就任となった小泉氏。
かつてJA側との激しい攻防の中で、政治の修羅場を経験した小泉氏はこう語っている。
「いわゆる抵抗勢力がどんな手法を使うのか、政治の戦場とは何かがよくわかった」

待ったなしの社会保障制度改革の先には、再び抵抗勢力との政治の戦場が待っているだろう。
どう改革を突き進めるのか、小泉氏の手腕に注目だ。
 

(執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款)

 
鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。