安倍首相の「温情と冷徹の間」 内閣改造リアルドキュメント

カテゴリ:国内

  • 首相が考える「政権の土台」は結局誰だったのか
  • 「全員野球内閣」のウラに派閥のお家事情が
  • 竹下派処遇に見る安倍首相の「温情と冷徹」

安倍首相が考える「5人+αの政権の土台」

10月2日、安倍首相は、自民党総裁選での3選を受けての党役員人事と内閣改造を断行した。当初、小幅の改造を予想する向きもあったが、初入閣が衆議院で当選3回の山下貴司氏(法相、石破派)をはじめ12人にのぼるなど、閣僚19人中13人が交代した。

第4次安倍改造内閣発足(10月2日)

この内閣改造を前に安倍首相はニューヨークで行った記者会見で次のように述べていた。

「(政権の)土台の範囲がどこまでかということについては、これから帰るまで、飛行機の時間もありますから、じっくり考えていきたい」

 総裁選直後の会見で人事のポイントについて「しっかりとした土台の上に」と述べたことを受けての発言で、メディアは「土台とは一体誰のことなのか」という点に注目していた。すると安倍首相はこう続けた。

例えば、官邸のメンバー、菅官房長官や、ここにいる西村副長官、野上副長官にはそのまましっかり官邸で共に仕事をしていきたいと思っておりますし、今日も同席している麻生副総理にもしっかりと土台として支えていただきたいと考えている」

ニューヨークで記者会見する安倍首相(9月26日)

このように「土台」の一部を披露した安倍総首相だったが、その全貌は明らかにはしなかった。そして内閣改造後に官邸で行った記者会見で、その答えを明かす形となった。

「二階幹事長、岸田政調会長には、今後とも党にあって政権の土台をしっかりと支えていただく考えです」「これまでも様々な形で安倍内閣の土台であった加藤さんに総務会長を」

内閣改造後の記者会見(10月2日・首相官邸)
二階幹事長、岸田政調会長は留任、総務会長に加藤勝信氏(10月2日)

閣僚では麻生副総理、菅官房長官の2人を土台と位置付ける一方、党役員では、留任した二階幹事長、岸田政調会長と、厚労相から新たに総務会長に起用した加藤勝信氏の3人を土台に挙げた。
では、この5人だけが安倍首相の考える土台なのか、といえば、必ずしもそうではない。

麻生氏と菅氏のほかに、外交に関わる閣僚である河野外相、世耕経済産業相、茂木経済再生相の3人も留任した。河野外相が北朝鮮も含む外交全般、世耕経産相がロシアとの経済協力、茂木経済再生相がアメリカとの貿易協議の交渉役を担っていて、いわば、「外交政策の土台」として欠かせない存在になっていることが、今回の人事で鮮明となった。

麻生、菅両氏の他、河野外相、世耕経産相、茂木経済再生相も留任

人事の「幅」をめぐる攻防

安倍首相が人事について挙げたもうひとつのポイントは、「適材適所」だった。

人事を前にした某日、安倍首相の周辺が「来年に参院選を控えるなかで、人事を大幅に変えればリスクが増える」と進言すると、安倍首相は「そういうわけにはいかない」と応じた。

人事を大幅に変えねばならなくなった背景には、総裁選で岸田氏、野田聖子氏が出馬を見送り、「安倍vs石破」の一騎打ちの構図が早々と固まったことがある。それを受け主要派閥が先を争うように安倍支持を表明し、総裁選での貢献をアピールした結果、総裁選後、それらの派閥幹部が見返りを求めるように、派閥からの入閣の推薦を伝える形になった。

そのため選択肢が狭まった安倍首相は、土台の維持で政権の安定を強調しつつ、派閥からの推薦も多く受け入れる格好になった。その上で、いかに適材適所をアピールできる人事を行うかがポイントとなった。

安倍首相vs石破元幹事長の対決となった自民党総裁選

派閥の「お家事情」と「全員野球」

安倍首相は改造内閣を「全員野球内閣」と命名した。
注目された石破派からは、検事出身の山下貴司を抜擢した。内閣改造前から山下氏が入閣する可能性は浮上していたものの、具体的に内定するまでは時間がかかった、というか本人への内示もギリギリだったとみられる。

この内幕について現職閣僚の1人は、「事前に漏れれば、石破派内で反対され拒否される可能性もあった」と指摘する。

法相に起用された山下貴司氏(石破派)

もう1人、党役員人事では、竹下派の加藤勝信氏の総務会長起用もギリギリの内定になった。その理由について、安倍首相周辺は「党内第一派閥の細田派への配慮と警戒だ」と指摘する。

「加藤総務会長内定が早く漏れてしまえば、細田派に巻き返される可能性もあった」

総務会長に起用された加藤勝信氏(竹下派)

今回、安倍首相の出身派閥である細田派は、幹事長や総務会長など党四役に入っていない。党内最大派閥でありながら、「ポスト安倍」の有力な候補が育っていないのが現状なのだ。

こうしたなかで、竹下派でありながら安倍首相に近い加藤勝信氏を総務会長に抜擢すれば、ポスト安倍候補の一人に名乗りをあげることにつながる。安倍首相自身にとっては後継指名のオプションが広がる一方、安倍首相直系の細田派にとっては、あまり面白くない人事だったということだ。

そして、加藤氏の総務会長起用には、もう一つ別の側面がある。加藤氏が所属する竹下派の内紛だ。

竹下派の会合

竹下派処遇に垣間見る安倍首相の「温情と冷徹さ」

「安倍さんはすごいことやるよね。石破さんを応援した竹下さんを外して、細田派を入れるのかと思いきや、同じ竹下派の加藤さんを入れるんだから。当てつけの意味もあるよね」

 総裁選で安倍首相を支持した自民党のベテラン議員がこう指摘した。

竹下派は自民党総裁選で対応が二つに割れた派閥である。“参院のドン”と呼ばれた青木幹雄元官房長官の影響力が及ぶ参議院を中心とするメンバーは石破元幹事長を支持し、加藤氏や茂木経済再生相ら衆議院を中心とするメンバーは安倍首相を支持した。

石破氏を支持した青木幹雄元官房長官

“永田町の常識”から見れば、対応が割れた派閥は、冷遇される。ただ、総裁選後に衆議院の竹下派幹部は安倍首相と面会した際にこう言われたという。

「総裁選ではよくまとめてくれました。ありがとうございます。」

安倍首相のなかには、下手をすると、竹下派がまるごと石破氏支持に回るとの警戒感もあったのだろう。そこをなんとか持ちこたえてくれたとの感謝の意だったかもしれない。そしてそれは人事にも反映された。細田派の4役入りよりも、竹下派から登用することを優先したのだ。安倍首相を支持した竹下派の衆議院の幹部は軒並み重要ポストで処遇された。

安倍首相の、総裁選を支えてくれた面々への恩情と、敵対陣営への冷徹が垣間見えた人事だった。

「入閣待望組」と「安倍待望組」の狭間で・・・悲喜こもごも

「入閣候補に自分の名前は挙がっているのだろうか」
「安倍総理からの電話は何時ごろになるのでしょうか」
「今回もうちは連絡ありませんでした(涙)」

議員たちからは、内閣改造の当日まで、このような問い合わせがあった。恒例行事とはいえ、いわゆる入閣待望組と呼ばれる議員にとっては、ソワソワする時期になる。

「自分はないですよ~」と言いながら、密かに期待を寄せる議員や、「今回はうちの派閥からは〇〇さんを入閣させる」と強調する派閥幹部もいた。

 入閣待望組の多くは、派閥に所属しながら当選回数を重ねるなかで、いわゆる適齢期を迎え、派閥幹部から首相サイドへの推薦による入閣に期待している。

しかし安倍政権が6年近く続く中で、「そろそろ入閣か?」が「もう待てない」に変わった議員もいた。派閥によって差異はあるものの、今回の内閣改造のポイントの一つは、この「もう待てない」という議員を多く入閣させたことだった。

首相官邸

一方で、「政権の土台」として重要ポストで留任した多くの議員は、派閥推薦ではなく、安倍首相の一本釣りだ。ほかにも、安倍首相自身が一本釣りしたい、あるいは一本釣りしてもらいたいという「安倍待望組」もいた。しかし一本釣りが増えれば増えるほど、派閥推薦枠は狭まる。これがいわゆる「入閣待望組」と「安倍待望組」のせめぎあいだった。

「同じ派閥に、入閣待機組と安倍待望組の両方がいた場合、二人を一緒に入閣させるしかなかった」

このように解説する派閥幹部もいる。在庫一掃セールと批判する声もあるが、安倍首相が言う「全員野球内閣」の誕生は、派閥同士のせめぎあいや主導権争い、ポスト安倍を睨んだ安倍首相自身の思惑も複雑に絡んだ攻防や葛藤の結果だった。

来年は統一地方選や参院選など、与野党の激しい戦いが待っている。安倍首相が執念を燃やす憲法改正に道筋をつけられるかも正念場になる。ロシアとの平和条約締結に向けた交渉、北朝鮮問題、日米通商問題など外交課題も山積だ。野党もモリカケ問題などでの追及の手を緩めないだろうし、新閣僚の資質についても厳しく質してくるだろう。筋書きのない安倍政権第三幕は始まったばかりだ。

(政治部・官邸担当キャップ 鹿嶋豪心)

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