テイラー・スウィフトの訴えの背景にリベラル派の“絶体絶命”

カテゴリ:ワールド

  • 連邦最高裁の保守化でリベラル価値観は大ピンチ 
  • 保守的な最高裁が今後20年間は盤石な理由
  • テイラー・スウィフトさんが始めた闘いは長く険しい

連邦最高裁が保守化

テイラー・スウィフトさんが、11月6日のアメリカ中間選挙では、地元テネシー州の“民主党”候補者に投票すると表明した。その理由として、地元選挙区の共和党候補者は、性別や膚の色や性的少数者(LGBT)などの違いにかかわらず全ての個人の権利は全力で守られなければならないという価値観を共有していないからだと指摘した。

しかし、その価値観は今、危機に瀕している。

LGBTをめぐる問題など、アメリカの世論を二分する社会問題に憲法的な判断を示す連邦最高裁が保守化しているためだ。それどころではない。今後20年やそこらは一方的に保守化が進むことはあっても、保守・リベラルのバランスがとれた状態に戻ることは困難だという現実があるのだ。

連邦最高裁の現在の構成は、9人の判事のうち5人が保守派、4人がリベラル派だ。
性的暴行疑惑で異様な注目を浴びることになった保守派のブレット・カバノー判事を上院が承認した結果、それまでは保守4・リベラル4・中間派1の均衡状態だったのが、引退した中間派1に代わって保守1が加わり、明確に保守化シフトした。今後、連邦最高裁の判決は、保守的な価値観によったものが連発されることになる。
が、これは10月6日の上院の採決(賛成50、反対48)で決まってしまったことだ。

この保守化状態はいつまで続く?

問題はこの保守化状態がいつまで続くかだ。
それを見通すためには、保守派判事の人数がリベラル派より多い状態はどのようにして解消されるのかを具体的に検討してみることだ。
9人の最高裁判事を年齢順に判断傾向とともに並べてみると;
85歳・リベラル、80歳・リベラル、70歳・保守、68歳・保守、64歳・リベラル、63歳・保守、58歳・リベラル、53歳・保守、51歳・保守 となる。

トランプ大統領は就任から2年足らずで2人の保守派判事を最高裁に送り込んだが(51歳と53歳の2人)、それぞれの前任者は、82歳での引退表明と80歳目前の突然死だった。
となると、現在も判事を務めている85歳と80歳のリベラル派2人は、いつ退場・交代となってもおかしくない状況にあると言える。

85歳のRuth Bader Ginsburg氏 ~アメリカ最高裁HPより~
80歳のStephen G. Breyer氏 ~アメリカ最高裁HPより~

それが今後2年以内であれば、トランプ大統領が後任の判事候補者を指名することになり、またも保守派が選ばれるであろうことは疑いない。そして11月6日の中間選挙で民主党が議会上院を奪還できなければ、その保守派候補者が上院で承認されることになる。それによって最高裁の構成は、保守6リベラル3、保守7リベラル2と保守化が一方的に進む。

万が一、保守7リベラル2まで事が進んでしまったら、リベラル派が多数な状態に押し返すには;
現在70歳と68歳の保守派をリベラルが奪還し、64歳のリベラル派を守り、そして現在63歳の保守派の後任にリベラル派を押し込む必要がある。現在63歳の保守派判事の後任選びがやってくるのは、余ほどの異変がない限り今から20年後だ。それだけ長い期間、最高裁の保守化が定着し、リベラル派の不満鬱積の歳月が続く。

民主党が上院を奪還したら

では、中間選挙で民主党が上院を奪還したらどうなる?
トランプ大統領が保守派判事を指名、上院民主党が審議先延ばし、あるいは承認を否決し、大統領が民主党も受け入れ可能な中間派の判事候補を出してくるまで抵抗するゲームが展開されるだろう。
再選を狙うトランプ大統領が早々に妥協するとも思えないので、最高裁判事の欠員状態は長期化する。その間は保守5リベラル3、ないし保守5リベラル2の状態になる点は見逃せないが、リベラル派が多数を回復するまでの年数の多寡を考慮すれば、まず保守の「5」をこれ以上増やさないことが最優先になる。

結局、テイラー・スウィフトさんのような考え方の人たちができる最善の策は、この中間選挙で議会上院を民主党が奪取。それによって保守派最高裁判事が5人より増えないようにする。そして2020年の大統領選挙でトランプ大統領の再選を阻止すると同時に上院の多数も民主党が握り続けることだ。
それができて初めて、最高裁の構成は保守5リベラル4の1差で維持でき、そして次の交代機会で逆転の芽を得ることができる。
民主党支持層、リベラル派にとってはなかなか厳しいが、これが最善の道であることは疑いない。

三権分立とチェック&バランス

~アメリカ最高裁HPより~

最後に、リベラル派がこんな困難な状況に陥った理由はと言えば、それはオバマ前大統領と民主党指導部の失策に他ならない。
オバマ氏が大統領で上院を民主党が支配していた2014年までに現在85歳のリベラル派判事に引退してもらって若手に交代できていれば、ここまで追い込まれることはなかった。その意味で民主党は読みと対応が甘い。
一方、トランプ大統領と共和党指導部は、中間派(とはいえ指名したのは共和党大統領)のケネディー判事に速やかな引退を持ち掛け、その取引材料としてケネディー判事の弟子筋を後任に据える提案をしたという。その結果がカバノー氏の判事就任による最高裁保守化の完成だ。

大統領と議会(上院)と最高裁は三権分立、チェック&バランスと教科書に書かれているが、現実のアメリカ政治はそんな風にきれいに割り切れるものではない。

(執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋)

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