“一度政権を離れた政治家が長期政権を築く”歴史

佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎各政権を振り返る

カテゴリ:国内

  • 「人事の佐藤」「早耳の佐藤」「風圧を感じた」佐藤栄作
  • 「大統領型首相」とよばれた中曽根康弘
  • 「劇場政治」が国民に受けた小泉純一郎

波乱が無ければ最長政権へ

安倍晋三首相の在職日数は、およそ1年に終わった第1次内閣を合わせると10月2日現在で2473日。戦後の首相では、佐藤栄作氏、吉田茂氏に次ぐ3番目の長さだ。4位は小泉純一郎氏、5位は中曽根康弘氏だ。
自民党総裁選で3選を果たした安倍氏の総裁任期は2021年9月までなので、波乱がなければ、来年2月に吉田氏を抜いて戦後2位、8月に佐藤氏を抜いて戦後1位になる。さらに11月には桂太郎氏を抜き、伊藤博文からの歴代総理の中で在職日数が最長となる。堂々たる長期政権だ。
そこで長期政権の先輩格だった佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎各氏の政権の特色を比較してみたい。

「風圧を感じた」佐藤栄作

佐藤氏は、言うまでもなく安倍首相の祖父の岸信介氏の弟、つまり安倍氏から見ると大叔父にあたる。ぎょろ目で人をにらみつけ、先輩記者によると「風圧を感じる」政治家だったそうだ。病気で首相辞任を表明した池田勇人氏の裁定で首相に就任した。ただ1955年の保守合同による自由民主党結成には参加せず、1年余り無所属を貫いたあと岸内閣発足の直前に自民党に入党した。

佐藤氏周辺には首相就任前からSオペレーションと呼ばれるブレーン・グループがいて政権構想を練っていた。
「人事の佐藤」と呼ばれ、巧妙な人事戦略で定評があった。河野一郎、大野伴睦らライバルが相次いで死去し、池田氏をふくめ政敵不在の中、三木武夫、田中角栄、大平正芳、中曽根康弘の「三角大福中」らを政府・党の要職に就けて競わせた。また「早耳の佐藤」と言われた情報通で、これも長期政権になった原因の一つとされた。

テレビ映りを重視した中曽根康弘

レーガン元大統領を日の出山荘に招いて懇談した中曽根康弘氏

中曽根氏は、佐藤氏と違って党内第4位の弱小派閥から首相になった。総裁選で田中派が全面的にバックアップしたからで、最初の内閣では、官房長官に自派ではなく田中派の後藤田正晴氏を起用するなど田中派から6名を入閣させ「田中曽根内閣」と呼ばれた。しかし田中派に属していた竹下登氏が創政会を立ち上げ、さらに田中氏が脳梗塞に倒れるに及んで、田中氏の影響力が低下し、中曽根氏は自著で「フリーハンドでやれるようになった」と回顧している。

中曽根氏は先に挙げた三角大福中のラストランナーで、ライバルとされた河本敏夫氏を総裁選で破ってからは事実上ライバル不在だった点は佐藤栄作氏と似ている。また、「安竹宮」と呼ばれた安倍晋太郎、竹下登、宮沢喜一の3氏を党・内閣の要職につけて競わせたところも佐藤氏に倣ったように思える。

グラフを使いながら外国製品の購入を訴える中曽根康弘氏

中曽根氏は、それまでの首相よりもテレビ映りを重視し、輸入拡大のため自らデパートで外国製品を買うなど国民に向けアピールしたり、東京郊外の山荘でレーガン元アメリカ大統領の前で法螺貝を吹いたりと、パフォーマンスにも長けていた。

中曽根氏は強いリーダーシップを発揮し「大統領型首相」とさえ呼ばれたが、佐藤氏と同様にブレーンを活用したことでも知られる。
なお、保守合同前は反吉田茂勢力として野党議員として過ごした経験を持つ。

「ワンフレーズ・ポリティックス」の小泉純一郎

小泉純一郎氏は佐藤、中曽根両氏とは違い、衆議院選挙が小選挙区中心の制度となり、政党助成金制度も導入された結果、政党党首の権限が制度的に強まったあとの首相だ。国民の支持を力の源泉とし、短い言葉で端的に表現する技が歴代首相と比べ抜きんでていて、カメラ付きの「ぶら下がり取材」はテレビにとっては美味しいネタだった。こうした手法は「ワンフレーズ・ポリティックス」と評された

田中真紀子氏を外相に起用するなど人事も小泉流パフォーマンスの一環だった印象だ。

小泉氏の佐藤、中曽根両氏とのもうひとつの違いは、党内融和よりもあえて改革に反対する勢力を「抵抗勢力」と呼んで敵を鮮明にする手法だ。郵政民営化は、角福戦争時代からの宿敵である旧田中派の牙城つぶしの側面もあった。反対した議員は選挙で公認せず、「刺客」をぶつけて対決構図を鮮明にした。冷静に考えるとかなり乱暴だが、「劇場政治」は国民には受けた。

安倍氏は何をレガシーとして残すのか

なお小泉氏もいまの安倍晋三氏と同様に細川護熙政権時代に野党暮らしを経験している。いったん権力を離れた経験のある政治家が長期政権を築いているのは偶然だろうか。

さて安倍晋三氏だが、政治家一家に育っただけにこれらの政治家たちを間近に見てきたはずだ。
長期政権の首相は、佐藤氏は沖縄返還、中曽根氏は国鉄など三公社五現業の民営化を成し遂げた。小泉氏は北朝鮮訪問と拉致被害者帰国の実現、郵政、道路公団民営化などが大きな業績だろう。さて安倍氏はあと3年の総裁任期での中で、何をレガシーとして残すのだろうか。

(執筆:フジテレビ 解説委員 山本周)