第4次安倍改造内閣が映し出す2021年以後の風景

カテゴリ:国内

  • 憲政史上最長となりうる安倍政権第4次改造内閣の特徴
  • 後継候補は政権打倒の脅威足り得ず、また強い野党も存在せず
  • 2021年の後の風景をイメージし、戦略と力を蓄積すべし

論功行賞と待機組

安倍総理が、総裁選三選を受けて内閣改造を行う運びとなった。論功行賞で党内の基盤を改めて確認し、順番待ちの閣僚待機組を多く入閣させる形だ。今回の閣僚人事で、大量に新規の大臣・副大臣・政務官を任命する予定だったことは事前に予想されていた。安倍政権は2012年の第二次内閣以降6年弱にわたり続いており、今後任期満了まで解散せず辞職しなければ、およそ9年にわたるであろう憲政史上最長の長期政権ということになる。その終盤戦に突入した政権としては、大量に待機組を捌かなければならないというプレッシャーがあるだろう。

もう一つの理由は、もちろんレイムダック化の危険に対応するためだ。今回、参院の竹下派が石破氏を支持したこと、また岸田派の安倍総理支持表明が遅れたことへの見せしめ的要素は多分に存在する。その一方で、自らを支える三つの大派閥からなる鉄のトライアングルの守りをさらに固めるために、麻生氏と二階氏の留任に加え、総理の盟友である甘利氏を選対委員長に起用、新規閣僚には総理に近い待機組を起用している。

首相後継への淡い期待

安倍総理は、これまで党内のライバルを巧みに飼い殺しにしてきた。石破氏、岸田氏はこれまで総理にとって総裁選のライバルたりうる存在だったが、彼らは淡い禅譲期待を抱かせられることで時機を逸してきたからである。石破氏はいったん時機を逃したものの、そこから抜け出て総裁選では地方票で善戦することで次の可能性を残した。その傍ら、世代は「次」に移りつつある。いま総理が後継の淡い期待を抱かせている人々をどう処遇しているかを見てみよう。

志公会からは河野太郎氏、平成研からは茂木敏允氏と加藤勝信氏を重用している。実際、この三人は頭が一つぬけていることは確かだ。他方で、総裁候補としての人材を欠いている細田派に関しては、稲田朋美氏が防衛相として起用されて失敗してから、西村康稔氏と柴山昌彦氏が目立っている。ただし、これら5人の政治家はいずれも能吏タイプであり、小泉進次郎氏のようなカリスマ的知名度はない。総理にとってまるで脅威足り得ないばかりか、政権内に不協和音を生む可能性もないのである。

強い野党の欠如

以上のことから見えてくるのは、やはり強い野党の欠如だ。もはや政権交代の圧力は存在せず、立憲民主党も政権批判の受け皿としては機能しているものの、やはりかつての民主党ほどの勢いはどこにも見られない。第三極は栄枯盛衰を繰り返し、現実的なオールタナティブが持続しない中で、無党派改革支持層の不満はマグマのようにわだかまっている。

今後、安倍政権は参院選を控えている。党員票における石破支持の根強さが示すように、地方の不満に対処するために、一人区にテコ入れをする目的で政策はふたたび地方重視となっていくだろう。その地方重視政策とは、地方の独自性を出す生き残り戦略とは真逆で、歪な中央=地方関係を強化してしまうような施策になるはずだ。

安倍政権を利するトランプ大統領

とすれば、2019年参院選が終わったあとに果たしてどれほどの改革の余力が残っているだろうか。勢い、総理のリーダーシップが働きやすい外交防衛重視で成果を出していかざるをえない。ここで国内政治上、安倍総理を利しているのは、トランプ政権の存在だ。同盟国に対して、安全保障上の依存関係を梃子にしつつ通商政策でプレッシャーをかけてくるトランプ政権を、うまく取り扱うことができる人材は、ほかに見当たらないからである。

9月末に対米「物品貿易協定(TAG)」の交渉入りと引き換えに、自動車への関税措置猶予を勝ち取った安倍政権に対し、野党はお題目上の批判にとどまっている。おそらく、今後ほとんどの野党の主張は「グローバリズム迎合批判」や「対米追従批判」に終始することになるだろう。しかし、産業ナショナリズムをもつ代議士を多く擁する立憲民主党が仮に政権に就いたとしても、安倍政権と類似の方向性しか選択肢がないことは火を見るよりも明らかだ。なりふり構わず自動車を守るというのは、与野党問わず政治家の共通認識だからである。そして、グローバリズム批判をしたところで、既存の生産性の低い産業を守るために、安易な形での移民受け入れを行う方向性もまた同じだろうと考えられる。

日本政界はビジョンがない

本来、批判の方向性は逆であるべきだ。アメリカの赤字が際立つ物品貿易に限定することは、アメリカの情報産業や金融などの強みがある分野に対するこちら側からの規制の脅しと併せた新たなステージでの交渉を阻むことにもなってしまう。あるいは、貿易問題との抱き合わせで米国から防衛装備を買うのもよいが、対米自立を図る良いチャンスに変えていくことも重要だ。

そこには、左右を見渡した時の日本政界のビジョンのなさが浮き彫りとなっている。対米追従から抜け出しつつ、同盟の信頼性を強化するためには、自主防衛強化しかない。安全保障上中国をけん制することは、中国との経済関係をうまくマネージして相手の利害を刺激して取り込むような寝技とセットであるべきだ。つまり、漸進主義をとっているにせよ、安倍政権が歴史的国際的に見て正しい課題設定を行っている以上、自主か同盟か、グローバリズムかエコノミック・ナショナリズムか、といった二項対立で物事を見る日本政治の習い性に立脚した批判は、力を持ちえないということだ。

2021年の後の風景

しかし、安倍政権にも陥穽は潜んでいる。これまでの政権の求心力維持の構造は、小刻みに選挙で刻みながら、自民党支持基盤や党内基盤を危険に晒さない程度の「改革」を進め、民主主義上の制約が少ない外交政策と金融政策で実績を上げるサイクルを繰り返したところにある。そこで保たれていた国際的な存在感と、改革期待のどちらかでも失われてしまえば、本当にレイムダック化が進み、自民党への期待も萎むことになりかねない。そうすれば、小池旋風の失敗で一度は静まった、新たな第三極の波が再び来る可能性もある。

ただ、おそらく順調にいけば2021年に任期が満了した際に見えてくる風景はもっと平凡なものだ。外交安保や歴史問題を中心とした「戦後レジームからの脱却」がほぼ完成しつつも、漸進主義に終始したことの「つけ」がやってくる。その時を見据えて、政権外の人間たちが戦略と力を蓄えておかねばならないのである

(執筆:国際政治学者 三浦瑠麗)

(イラスト:さいとうひさし)

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