貴乃花親方が「一門」に入れないワケ  “ウィンブルドン現象”が背景に?

  • 貴乃花親方の引退会見で出た「一門」とは?
  • 親方と協会の対立の根幹には『ウィンブルドン現象』 がある
  • 価値観が変わる中で大相撲は今後どうあるべきか

列島に衝撃が走った貴乃花親方の引退表明。1日行われた日本相撲協会の臨時理事会で、貴乃花親方の退職と部屋の消滅が決定した。

30日放送の報道プライムサンデーでは、引退表明の背景にいったい何があったのかに迫った。

会見で「どの一門にも属することはできない」と、引退を決意した一因を語った貴乃花親方。
「一門」の歴史について取材を進めると、「一門」に貴乃花親方が入れない理由が見えてきた。そして、スポーツライターの青島健太氏が貴乃花親方と日本相撲協会との対立の根幹にあると掲げたのが『ウィンブルドン現象』。

ここから相撲協会が進むべき道が見えてきた。

かつては「協会」より重要だった「一門」

25日の記者会見で貴乃花親方は引退を決意した理由について、「一門」をめぐる相撲協会の新たな取り決めを挙げ、次のように説明した。

「すべての親方は一門に所属しなければならず、一門に所属しない親方は部屋を持つことができないという決定が(相撲協会理事会で)なされた。一門に入るための条件として、告発の内容は事実無根な理由に基づいてなされたものであると認めるようにとの要請を受け続けておりました。私はどの一門にも属することはできません」

貴乃花親方は、貴ノ岩への傷害事件に関する相撲協会の対応などについて、 内閣府に告発した内容は事実無根であると認めるよう、 相撲協会側から圧力をかけられたと主張する。
これに対して相撲協会の芝田山広報部長は「そのような事実は一切ないということであります」と否定した。

一門とは、大相撲における相撲部屋の集団のことで現在、高砂、出羽海、二所ノ関、時津風、伊勢ヶ濱の5つの一門がある。一方で、貴乃花部屋はどの一門にも属していない。相撲取材を50年以上している東京相撲記者クラブ会友の大見信昭氏は一門の歴史をこう語る。

「その昔は、力士たちは自分たちの生活権を守る為に、地方巡業を部屋部屋でグループを組んでやっていた。そのグループが発展して“一門”という形になった」

1958(昭和33)年頃までは、本場所はまだ1年に4回で、相撲協会からの収入が少なかったため、一門ごとに地方巡業を行なって生活資金を稼いでいた。1958年以降、相撲協会のもとで多くの改革が行われ、地方巡業も相撲協会のもとで行われるようになり、給料も相撲協会から支給されるようになった。

力士たちの生活資金を稼ぐ役割は「一門」から相撲協会に移ったが、今でも「一門」は残り、連合稽古は「一門」として行われ、冠婚葬祭は「一門」内で行われることが多い。

また「一門」にはもう一つ、重要な役割がある。
かつて相撲協会で「ガバナンスの整備に関する独立委員会」の委員をつとめた慶応義塾大学商学部の中島隆信教授は、「一門というのは今も力を持っていて、それぞれの一門から1人とか2人の協会の理事を出すわけで、政治家の派閥みたいなもの」と、説明する。

相撲協会の役員である理事10人は、親方による選挙で選ばれるが、2004年から理事選挙は3回続けて、ぴったりの10人が立候補し、無投票で選出された。一門内で勢力に応じた数の候補者を選んでいるからだという。

一方、長年貴乃花親方を取材してきた『夕刊フジ』編集委員の久保武司氏は、貴乃花親方がその流れを打ち破ったと語る。

貴乃花親方が「一門」に入れないのは“相撲界の常識”

「貴乃花親方は、組織の中でも自由なことを言える環境を作りたがっていた。二所ノ関一門を今のままではいけないと言って、事実上の破門という形で一門を出たのです」と話す久保氏。

2010年、貴乃花親方は、当時所属していた二所ノ関一門を脱退。角界の改革を旗印に、理事選挙に立候補して当選。この一連の動きは「貴の乱」と呼ばれた。
その後、貴乃花親方を支持した6人の親方と共に貴乃花一門を作ったが、今年6月、貴乃花親方は貴乃花一門を返上した。この経緯を踏まえて、久保氏は「普通、相撲界の仕事に携わっていれば、貴乃花親方が今入れる一門はないですから」と指摘する。

そして相撲協会は、今年7月、親方は全員5つの一門のどこかに加入することを決めた。芝田山広報部長はその理由について、「協会のガバナンスの問題です。この間、協会の組織ガバナンスを問われておりますので、一門に組織ガバナンスの一端を担ってもらいます」と説明した。

部屋を束ねる一門の機能を見直すことを通じて、暴力問題などさまざまな問題の解決に、より一層強く取り組める体制を築くことが狙いだという。この決定を受けて、一門から出て改革を志したはずの貴乃花親方は一門に入らず、引退しようとしている。

有本香氏(ジャーナリスト)

有本香:
協会の言葉の中に、「一門にガバナンスの一端を担ってもらう」という言葉がありました。47の部屋があり、ここのところいろんな不祥事がある中で、それぞれのグループで管理をしていこうというのは分からなくもないんですよね。
政治家の派閥に似ているのかもしれないという解説がありましたが、政治家の派閥は、今は入らなければならないってことはないんです。だから部屋があって、さらに一門があるというのであれば、政治家の派閥とは違うように思います。
ただ一門が私たちにとって分かりにくいものになってしまっているのは、事実かなと思います。

「横綱の品格」を明文化できるか? 大相撲の今後は

スポーツライターの青島健太氏は、貴乃花親方と相撲協会の対立の根幹にあるものについて『ウィンブルドン現象』というキーワードを挙げる。

青島健太氏(スポーツライター)

青島健太:
私は相撲界における国際化というのが、一つの課題としてあると思うんですね。何が起こっているのかというと、こんな言葉を用意させてもらいました。『ウィンブルドン現象』という言葉です。もともとは外国の資本がいっぱい入ってきて、地元の企業や商店が駆逐されてしまうということで使われている言葉です。
ウィンブルドン(テニスの全英オープン)、男子では2013年にアンディ・マレーが勝つまでは約80年間、イギリスの選手が勝てていない。女子は約40年間、地元のイギリスが勝っていないんです。つまり自国のものでありながら自国の選手たちが活躍できない。
お相撲でいうならば今、モンゴルをはじめ外国の人たちが来ていて、物凄く活躍されていますよね。日本の力士たちに横綱になってほしいというのが、ある意味では稀勢の里さんに寄っているわけだけれども、そうやって国際化が始まると、お相撲をよく見られる方は『土俵が乱れている』とか、いろんな意味でお相撲の変化を感じてらっしゃると思う。

もともとこの一連の話の始まりは、貴乃花親方が自分の部屋の貴ノ岩さんが、戦う相手と仲良くしてはいけないということで、モンゴルの力士たちのコミュニティに入ることをやめたほうがいいといったことから始まっているんですね。
でも外国から来ている方からすると、異国で頑張っているのに、時々ご飯ぐらい食べようよっていうのは「あり」でいいような気がするんですけれども。要は協会が国際化を容認していくほうに本当に舵を切るのか、貴乃花さんのようにするのか。どちらかというと貴乃花さんは日本的なものが乱れることに苦言を呈してきた立場ですから、品格や作法を大事にされてきた方です。
お相撲は今後どこへ向かうのか。この国際化の中で、例えば『横綱の品格』といっても、日本人では感覚的に分かるところがあるけど、明文化されているわけではないし、外国の方には分かりにくいところがある。それをどうするのかという問題のような気がするんですよ。

大至:
私はこれだけグローバル化、そしてデジタル化になっている世の中ですけれども、今のこの時代に着物を着てちょんまげを付けているということが、まず相撲の象徴でもありますし、古くからの相撲の伝統を見直して、そこを正していくべきではないかと思いますね。

有本香:
難しいところで、常に議論がありますよね。
この10年間でも相撲に関して、様々な事件や事象が起きた都度、議論があると思うんですよ。何となくもやもやとして終っていますし。それに、相撲は単なるスポーツや格闘技ではない、神事としての大事な一面がある。どちらが大事かって話ではないと思うんですね。
今もいろんな問題はありながら、国技館は観客でいっぱいになっているという状況は、そこに見に行く人たちは、伝統的な神事である一面を大事にしているから見に行っているんだと思います。国際化するんであれば、ルールや何かを全部明文化する必要が出てくるんでしょう。

ただ私は、よく考えてみると、これは外国人力士でなくても、例えば若い人たちがお相撲の世界に入るときに、神事であるという一面、品格とは何なのか、これは今までよりも説明の必要が出てくると思うんですよ。昔みたいに見て覚えろとか、体で覚えていくというよりは、今はやっぱり多くのことに関して、言葉が必要になってくる時代かなと思うんですね。
そういう点で、さっき大至さんがおっしゃったように、何もかも分かりやすければいいということではないけれど、でも今の時代に合わせてもうちょっと分かりやすくしていくというところは必要だったんじゃないか。貴乃花親方のように、孤高の人っていうイメージだと、なかなか若い人も目指しにくくなるという部分があるんじゃないかと思います。

大至氏(元幕内力士)

大至:
確かに力士が入門いたしますと、相撲教習所というところに通いまして、いろいろな勉強をするんですけど、それだけではなくて、やはりもっと、それこそ協会から一門を通して親方衆への指導や、それから若い衆への指導というのがもっともっと大切になってくると思います。
例えば、着物をしっかり着ること、挨拶をしっかりすること、礼に始まり礼に終わる、そういった基本から始めて、「相撲というものは一つの競技ではなくて、神事なんだよ」ってことを改めて教えるべきだと思います。

佐々木恭子:
外国の人からみて、横綱は猫だましをしてはいけないとかって、明文化しないで分かるものなんでしょうか。

パトリック・ハーラン:
僕、相撲大好きなんですけれども、外国人のファンとしては、あいまいなルールが非常にじれったいですよ。横綱白鵬が猫だましをやった時に、僕は『ウオーッ見せてくれた!』って思っていたら、あんなに叩かれて(笑)。『えっ何で勝ったのにダメなの』って不思議に思うところがあったんですよ。

青島健太:
そこを感じ取ったり、そこを盗んだり、身に着けるというのが、ある世界に入ったところの生き方であり、醍醐味だというのは、私たち日本人の特性として大事にしてきたところではあるんです。ただ、有本さんが言われるように、今日本の若い人でもなかなか伝わらないところ、最も大事なことはしっかり謳(うた)うというような習慣ややり方というのが、求められている気はしますね。
大至さんの、お相撲さんの着物の着方も大事なんだってお話ですけれども、例えばウィンブルドンでいうならば、100年を超えて真っ白なウェアだけは、絶対に譲らずに守ってきている。その種のものが、お相撲の中でいうならば一体何なのかというのを、相撲協会も、お相撲好きな方も、関係者もしっかり考えて、そこは何が何でも明文化するなり、がっしり守るということはやらなければならないと思います。

佐々木恭子:
そこまで相撲協会は覚悟を持っていると思いますか?

大至:
そうですね。逆に持たなければならないですよね。



かつては上手くいっていたことが、時代の流れを経て、構成員が変わり、価値観が変わっていく中で、上手くいかなくなることがある。大事なものを守りつつ、考え方の違いをいかに埋めていくか、共通の言葉にしていくことは一つの解決方法となりそうだ。
貴乃花親方と日本相撲協会は話し合いもなく、対立を深めている。大相撲は今後どうあるべきか、議論すべき時が来ている。

(報道プライムサンデー 9月30日放送より)

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