「丁寧、正直、安倍批判」石破茂が抱えた“新たな課題”

カテゴリ:国内

  • 石破氏「善戦」の舞台裏&早期の出馬表明のワケ 
  • 安倍首相との違いを出す「選挙戦略」とは
  • 議員票は安倍首相の4分の1で敵増加…「次」への一手は 

「善戦」に感謝と安堵の石破氏

「善戦」判明直後の石破氏(9月20日)

「これで満足ということはない。日々反省、日々改善、日々前進ということじゃないか」
自民党総裁選の結果が出た直後に石破茂元幹事長が記者団に漏らした言葉だ。

結果次第では政治生命をも失いかねなかった総裁選。現職の安倍首相を相手に党員票で45%を獲得し、圧倒的不利と言われ続けた議員票でも、多くの予測を上回る73票を獲得し、各報道機関も「善戦した」と報じた。

「本当にありがたい戦いだったと思う」と、安堵と清々しさが入り混じった表情で語った石破氏。

圧倒的に不利な状況で「安倍一強」に一騎打ちを挑み、援軍が現れ、善戦と言われる結果を得るまでの舞台裏、その一方で突き付けられた課題について検証したい。

石破人気は「丁寧」「正直」な対応にあり

総裁選が白熱する前の8月初旬ごろ、事務所を訪ねると石破氏は笑顔でこう語っていた。

「ここ最近、直筆の手紙が沢山届くようになった。携帯やパソコンを使わない人たちなのかな、年齢は子供から老人まで幅広い。やはり手紙は温かくてありがたいですね」

そこには国民からの確かな風を感じている石破氏の姿があった。現在は党役員でもなければ閣僚でもない無役の石破氏。それでも石破氏が街に出ると瞬時に人だかりができ、写真や握手を求められる。石破氏の何が評価されているのか。

石破氏は随所で「丁寧」「正直」という2つの軸を強調している

石破氏は各地で握手や写真撮影を求められた(9月11日大阪)

総裁選に入ってからの過密なスケジュールの中でも、一人一人に「丁寧」に接することを忘れなかった。

大阪での街頭演説で石破氏は、似顔絵を頭の上に掲げて「石破さん頑張れ!」と叫ぶ小学生の兄妹の姿をみつけ、演説の途中だったにもかかわらず「ありがとう。後で写真撮ろうね」と笑顔で語りかけた。子供たちも大喜びだった。

北九州市では人ごみで倒れた老人のところに駆け寄り「大丈夫ですか」と心配そうにしゃがんで手を差し出す姿も見られた。その老人は道で横になったまま、「石破さんありがとう」と涙をにじませ救急隊の手当を受けた。戦略的な行動という面もあるのかもしれないが、聴衆の心をつかむには十分な「丁寧対応」だった。

また「正直」を訴える姿勢にも強くこだわった。各県ごとに演説内容を変えていた石破氏が、どの会場でも発していた共通のフレーズがある。

「政治家は勇気と真心を持って真実を語るものだ」「私は権力やどう喝など畏れない。ただひとつ、国民のみを畏れていきたい」そして「私はいつも正直でありたい」と。

それは“隠ぺい体質”や”お友達優遇”と言われる安倍政権を明らかに意識したものだ。党員票でも安倍優位が報じられる中、どの場所でも拍手が湧き「石破さん、国を変えて!」という声もあがった。

この石破氏の、安倍首相への批判的な言動に、党内からは「石破は政権批判をする野党みたいだ」「後ろから鉄砲を撃っている」との批判が噴出した。しかし石破氏は、自民党内の批判と聴衆の反応との“温度差”をとらえ、「自民党と国民がかい離してはならない」という主張を展開した。

妻・佳子夫人とともに銀座を歩いた(9月17日)

広がった支持の背景に長老たちの影

総裁選に出馬するには、20人の国会議員の推薦が必要だ。「石破派」は石破氏を除くと19人。推薦人がちゃんと集まるのかと揶揄する声さえあった。

しかし、9月7日の告示日に提出された「推薦人リスト」に記載された20人の議員のうち、石破派議員は約半数の11人にとどまり、竹下派から5人、谷垣グループから1人、無派閥から3人が名前を連ねたのだ。さらに、注目の小泉進次郎氏も投票当日に石破氏に票を入れることを明かし、73人の自民党議員が、石破氏に一票を投じた。

このように支持が一定程度広がった背景には、石破派議員の取り組みが奏功したほか、今の安倍一強体制に危機感を抱く長老3人の思惑も絡んでいた。

1人目は、竹下派の特に参院側に強い影響力を持つ青木幹雄元官房長官だ。青木氏に近い人物は「岸田政調会長の出馬断念が決まってから青木さんの動きが加速し、(参院竹下派が)石破支持に決着するまではあっという間だった。」と振り返る。
青木氏が参院竹下派を石破支持でまとめた背景には、青木氏の息子、一彦氏の選挙で石破氏が全面応援したことなどの個人的事情に加え、青木氏が抱く「安倍一強の状態で、来年の参議院選挙が戦えるのか」という危機感があった。

2人目の長老は、石原派の最高顧問・山崎拓氏だ。山崎氏は「俺は石破を応援する」と述べ、石破派の勉強会で講師を務めたり、選挙期間中に山崎氏の地元福岡で石破氏と並んで街頭演説を行ったりするなど精力的に活動した。
石原派としては最終的に安倍首相を支持したが、山崎氏は無派閥や谷垣グループのメンバーと石破派幹部の会合をセッティングするなど、一定の層を石破陣営に取り込む力となった。

青木幹雄氏と山崎拓氏
山崎拓氏(右端)も石破氏の応援にかけつけた

進次郎にバトンを渡すのは石破?

3人目は、小泉純一郎元首相だ。安倍首相の師匠ともいえる小泉元首相だが、小泉氏に近い人物は、「進次郎は父ととても仲が良く慕っている。そんな父から、石破に入れろと言われていたはずだ」と、息子、進次郎氏の判断の影に父の助言があったのではと分析する。

さらにその人物は、小泉元首相が進次郎氏に「安倍総理から今回ポストをもらっても何にもならない。安倍の次は石破だ。お前はその石破からバトンをもらわないといけない」との趣旨のアドバイスをしたはずと読んでいる。

早期の出馬表明は『西日本豪雨』にあり

石破氏は、今回の総裁選で、挑戦者として徹底した発信と攻めの姿勢を貫いた。

出馬表明会見は8月10日と安倍首相よりも2週間以上早い表明だったが、ここに秘話がある。

派内には、安倍首相の後に出馬表明する短期決戦を主張する意見もあった。しかし、石破氏が早期表明に踏み切った理由の一つは「西日本豪雨」だった。

被害拡大の背景に、自治体間の連絡ミスがあったことなどが明らかになり、いわば「人災」だった側面が浮かび上がる中、「防災省設置」の必要性など安倍政権との災害対応の違いを鮮明にする攻めの戦略をとる決断をしたのだ。

石破派の幹部は「お盆前に表明したのは正解だった。お盆に各議員は地元に帰り、支援者と接する。地方では石破人気は強く、反安倍は多い。その時に石破が既に表明していた方が『石破を応援しろ』という会話に自然となったんだ。」と党員票善戦の要因の1つになったと解説する。

ここでも「丁寧」・・・独自の政策発信術

その後、石破氏は8月10日の出馬表明会見を皮切りに、
1.「憲法」
2.「地方創生」
3.「政策全体」
4.「47都道府県向け動画」
5.「政策動画」
テーマごとに様々な会見を行ったのだ。

「丁寧」な会見で政策をアピールし、夏休みをとり別荘でゴルフなどを行う安倍首相と対比させる戦略だ。しかも会見はフリー記者にも開放し、あらゆる質問に時間制限を設けず答えるという開かれたスタイルだ。ここでも安倍首相との違いを鮮明にした。

さらに政策リーフレット『石破ビジョン』や、冊子『こんな日本にしてみたい。石破茂の夢』、短編小説『柔らかい日本、あるいはイシバ内閣にワタシ達が夢想する未来』、そして『47都道府県向けのメッセージ動画』と、あの手この手を尽くし幅広い年齢層をターゲットとしたコンテンツの発信を続けた。

ただ、政策の具体策が思うように浸透せず、短期間に政策を国民に伝えることの難しさが改めて浮き彫りになったともいえ、今後の課題と言えそうだ。

善戦でも突き付けられた「4分の1」の現実

しかし総裁選を終えて石破氏につきつけられた最大の課題は、やはり議員票だろう。50票台とみる向きが多い中で73票を獲得し善戦とされたが、安倍首相の4分の1にすぎない。

安倍首相にこれ以上の再選はなく、本当の「ポスト安倍レース」がスタートした今、石破氏はこの現実をどう見るのか。

議員同士の夜の会合は得意ではないという石破氏だが、「今後は国会議員と話す機会も増やしていきたいと思う」と議員からの支持拡大に向けて意気込む。しかし今回、厳しい安倍批判を展開したことで、党内の敵を増やしてしまった、という現実がある。73人を繋ぎとめた上で、党内の味方を増やせるかは大きな課題だ。

「次」の機会は3年後の総裁選ではなく、来年の参院選後かもしれない。自民党が大敗すれば安倍首相の退陣につながると見る向きもあるからだ。石破陣営の幹部は、選挙を終えた20日の夜、こう漏らした。

石破さんは来年までに“ポスト安倍”を確立すべく動く必要がある。ポスト安倍として石破以外の名前が挙がらないようにしないといけない。」「安倍だけでは全然ダメ、地方は石破だというのを来年の参院選に向けてさらに強めるしかない

石破氏に、次回も総理総裁を目指すかと問うと「もちろん!その時にどんな自分であるかということでしょうね」と戦う気満々だ。その気迫が実る日が来るのか、実行が伴わず空回りすることはないのか、すべては石破氏の今後の行動にかかっている。

(フジテレビ政治部 自民党担当 森本涼)

取材部の他の記事