必勝戦略と誤算に「泥仕合になってしまった」 安倍陣営の総裁選“舞台裏”

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  • 安倍陣営の必勝戦略と緩みの舞台裏 
  • 「石破氏は一線を越えた」仁義なき舌戦の禍根 
  • 安倍首相は残り3年間で何を残せるのか?

1月から動き出した総裁選『必勝』の戦略

東京都内に大雪が降っていた1月22日の夜、安倍首相の出身派閥である細田派の幹部は、密かに首相公邸に集まり安倍首相と会談した。ここで、9月の総裁選で安倍首相の三選に向け一致結束する方針が確認された。まさにここから周到な安倍三選戦略が本格的に始動したと言える。

安倍陣営を支えた下村元文科相、萩生田幹事長代行、西村官房副長官

その後の動きは迅速だった。細田派幹部は、まず派内の議員を当選回数別に集めて足元の引き締めを図り、2月からは安倍首相側近で細田派事務総長の下村元文科相を中心に、岸田派を皮切りに他派閥との会合を重ね、議員票固めを本格化させた。さらに西村官房副長官を中心に、首相公邸での安倍首相と若手議員の会合も開き支持を拡大させていった。

さらに、安倍首相の信頼が厚い萩生田幹事長代行は、地方議員出身という強みを生かして全国の都道府県議会議員を集めた会合を開催、地方議員と首相の昼食会なども積極的に行い、党員票の獲得も加速化さるなど、徹底的な選挙戦を行い今回の安倍三選にこぎつけた。

選挙結果は”圧勝”なのか”善戦”なのか


安倍晋三 議員票 329票 党員票 224票  計 553票
石破 茂 議員票  73票 党員票 181票  計 254票

石破氏が党員票で約45%を獲得し、議員票も事前の予想を超えたことから「石破氏善戦」と伝えられた総裁選挙の結果だが、合計の数字だけ見れば安倍首相は石破氏にダブルスコアをつけ、圧勝での三選を果たしたことになる。

安倍首相の盟友である麻生副総理が「(石破氏が)善戦だと思ったことはない」と報道ぶりに不快感を示したことにも数字の上では一理あるのだ。

麻生氏は、議員票での圧倒的な差について、永田町で直接的に安倍首相と石破氏を見ている立場の国会議員からの評価としての意味が重いことを強調している。また、2012年には、198人だった国会議員票が安倍首相108票、石破氏89票だったのに対し、今回は国会議員が405人に増加したにもかかわらず、石破氏が73票と票を減らしていて、これで善戦と言えるのかという疑問の声も強くある。

さらに安倍陣営内には、石破氏に約45%の得票を許した党員票についても、前回の総裁選と比較すれば安倍首相は十分に伸ばしているという強気な見方もある。

2012年の総裁選では5人が出馬したにも関わらず、党員票で石破氏は約23万票、得票率47.5%と他を圧倒し、安倍首相は約14万票で得票率は約28.6%に留まった。
しかし一騎打ちとなった今回、安倍首相の得票率は約55.4%と前回のほぼ倍に伸びた一方石破氏の得票率は約44.6%と前回より低下し、地元・鳥取でも1.46ポイント減となった。

これらの結果は、安倍首相が総理を務めたこの6年間で、それだけの評価・支持を得てきたことや、現職総理として人事権を握っていることによる部分も大きいのだが、安倍陣営としては石破氏の「善戦」ではなく、安倍首相の「圧勝」と主張する際の根拠になっている。

一方で、安倍陣営としての”誤算”は確かにあった。

安倍陣営の”油断”と”誤算”

“誤算”とは何か。

「議員の支持が集まり過ぎた(安倍陣営議員)」
結果、安倍首相の三選が早くから確実視されたため、総裁選の焦点が早い段階から石破氏の『負け方』、すなわち石破氏が党員票で安倍首相に肉薄あるいは勝利し、「ポスト安倍」としての芽を残せるかどうかという点に集約されてしまったことが1つだ。

そのため、議員票で安倍陣営が優勢と伝えられるたびに「石破氏に対しての判官贔屓の雰囲気や、安倍一強に対する批判の構図ができてしまった(安倍陣営幹部)」というのだ。

また、安倍陣営幹部から「今回は党員票でも7対3で石破氏に圧勝する」との声があがるなど「勝敗ライン」を自ら高く設定してしまったのも痛手だった。

これに対し「1対1で戦う以上、そんなに差をつけられるわけがない!(陣営幹部)」と、党員票の勝敗ラインを「6割以上」や「53%」と低めに設定する声も出てきたが、後の祭りとなり、選挙戦中の勝敗ラインの『修正』とみられてしまった。

安倍陣営が一貫して、「2012年の総裁選で、安倍首相は党員票で石破さんに敗北した。今回は勝利することが目標だ」と足並みを揃えていたならば、「安倍55%・石破45%」という党員票の受け止め方は違ったものになったのではないかと思う。

さらに安倍陣営の誤算は、大多数の議員の支持を得たことで、選挙対策組織の肥大化を招いてしまった点もある。有象無象が集まった組織の足並みを揃えるのは難しく、指示を受けた議員の温度感や活動量に明確な差があった。総裁選中に「暇すぎる。やることがない(笑)」と笑っていた議員もいたほどだ。

2012年の総裁選でも私は安倍陣営を取材したが、陣営は少数ながらも「安倍氏をもう一度首相に」という目標に向けた結束力と行動力には鬼気迫るものがあった。その点、今回は議員による温度差が明確にあり、相当な取りこぼしがあったのではないかと思われる。

政策論争は深まったのか?

一方、総裁選中、「政策論争が深まっていない」との声も聞かれたが実際はどうだったか。

一部の討論会やテレビ出演などで、司会者らが森友・加計学園問題について安倍首相を集中して詰問し、石破氏との候補者同士の論戦の時間を縮めてしまったことには疑問の声も出ていたが、様々な直接討論で両者の姿勢の違いはそれなりには明確になった。

「憲法改正」については、安倍首相は9条への自衛隊明記を優先する立場を鮮明にした。対する石破氏は9条2項を維持したままの自衛隊の明記は緊急性がないとの主張を展開し、9条よりも緊急事態条項と参議院の合区解消を優先する主張を展開した。

「地方創生」をめぐって、石破氏が安倍政権の政策では大企業・大都市が中心となっていると疑義を呈したのに対し、安倍首相は政権の実績を強調し「問題点の指摘も大事だが、具体的な政策を進めていくことが大切だ」と一蹴。方法論をめぐる違いに加え、政策の具体性や実行力も論点となった。

「泥仕合になってしまった」仁義なき舌戦が生み出したものは

そして政策以上に両陣営を刺激したのが政権運営の在り方、森友学園問題・加計学園問題などから派生した、「政治の信頼」という論点だ。しかしこれは「安倍首相に行政の立て直しを託すのか、それとも責任を問うのか」、つきつめて言えば「安倍」か「反安倍」かという構図そのものだったのではないかと思う。

石破氏は当初、キャッチフレーズとして大々的に「正直、公正」を打ち出した。これは、安倍首相は「嘘つきで、不正」と言っていると同然と自民党内で捉えられ、政策論争を期待していた議員らから不興を買った。

特に、石破氏を支持した吉田参院幹事長から「個人攻撃には非常に嫌悪感を感じる」と不快感が示され一時は沈静化したものの、この安倍批判戦略は最終的には継続された。その結果、安倍陣営からは「石破さんは一線を越えたね」という厳しい批判も出るようになった。石破氏は、自民党を盛り上げるために政策論争をしたいというが、安倍首相の個人批判を展開して総理の座から引きずり下ろそうとしているだけだという受け止め方だ。

石破氏は、各地での遊説で、安倍批判を続けた

さらに、石破陣営が、「安倍首相側は選挙後の人事で石破氏を支持した議員を干そうとしている」という批判を展開しはじめると、安倍陣営も猛反発した。

 「これは権力闘争なんだ。時代が違えば、負ければ一族郎党皆殺しになる戦いだ。その覚悟が(石破陣営に)あるのか疑問に思う(安倍陣営幹部)」

安倍陣営内では、「石破氏側が、安倍首相側の高圧的なイメージを植え付けようとしているのでは」との見方が多数を占め、結果として両陣営には修復不能なほどの溝が生まれてしまったのではないかと思う。

安倍首相は石破氏との一騎打ちとなった選挙戦で、有意義な政策論争が展開されることを期待していたというが、こうした安倍vs反安倍の構図について「まれにみる泥仕合になってしまったよ」と周辺に漏らすほど落胆していた。

問われる安倍首相の次の三年間

「戦後日本外交の総決算、憲法改正。いずれも実現は容易なことではない。いばらの道だ。しかし、総裁選挙を通じて党内の大きな支持を頂くことができた。これから3年間強いリーダーシップを発揮できる。党一丸となって大改革を断行する大きな力になる」

安倍首相は三選後の記者会見でこのように決意を表明した。残り3年の任期の中では、社会保障改革や、消費税増税も含めた財政再建の道筋づくり、そして憲法改正を実現できるかが焦点となる。さらに拉致問題の解決、北方領土の返還という安倍外交の重要課題も成果が迫られている。

今回「圧勝」して手に入れた力を今後どう振るい、「善戦」を許したことをどう受け止めるかを課題としつつ、何を後世に残せるかが今後3年間の安倍首相に問われることになる。

(フジテレビ政治部 自民党担当キャップ 中西孝介)

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