半数が60歳以上!フランスの医療改革に立ちはだかる医師の高齢化問題

カテゴリ:ワールド

  • 博士まで9年 狭き門をくぐり抜けるフランス医大生の苦悩
  • 遅々としてすすまない医療界の世代交代
  • マクロン大統領が「今後50年」医療界を支える改革を発表したが・・・

ヨーロッパでも報じられた日本の不名誉

東京医科大が、女子受験者の得点を一律に減点するなどして合格者数を抑えていた問題。
信頼第一の医師を育てるはずの大学での不祥事は、ヨーロッパでの新聞でも報じられた。日本の医大が不名誉な形で注目を浴びる中、フランスに住む筆者は、フランスの医大が抱える問題とマクロン大統領の医療改革について考えてみた。

フランス医学生の苦悩

フランスの医大入試は以下のようになっている。

まず、大学側で1年目へ入学するために書類審査を行っていて、この審査によって、生徒の能力が適しているかを見極める。去年、医大の1年生に入学した生徒は5万人を超えたが、そこからが大変だ。狭き門をくぐり抜けて入学しても、その後、5分の4が振り落とされる。毎年学年を上がっていくのには、相当な努力が必要となる仕組みだ。

最も恐れられているのが、1年目にあたる、PACES(初年度共同医療学)だ。医療の一般教育を受ける期間で、その1年を経て専門分野の試験を受ける権利が与えられ進学が決まる。
その試験の分野は、医療学部、薬剤学部、助産学部、歯科学部に分かれている。もし試験に落ちたら、何度でも受けられるわけではない。試験を受けるのは、2度までとなっている。3度目以降は、健康に問題があったか、家族に不幸があった場合に、例外的に許可されることもある。

しかし医大に進むものとして博士まで上り詰めるまでに、医学の場合は最短でも9年かかることから、2度試験に落ちると、医学の道を諦めてしまうこともある。日本と同じように、フランスでは分野によって、進学者数の上限が設けられている。2018年度、医大での2年目への進学切符(Numerus Clausus)は、13523枠だった。この数字は毎年見直されていて、増加傾向にある。
最も多い席が用意されているのは医療学部で、8205枠となった。

進まない世代交代

フランス政府は、2016年に、医大に関する資料を発表した。
2014年に、フランス全土の医大のPACES(初年度共同医療学)に進学をした大学生のうち、2年生への試験に合格したのは、わずか10人に1人だった。
試験を2年続けて受けてやっと合格した場合でも22.2%と、比較的低いことがわかる。
一方、試験を初めて受ける学生は、2年続けて受けている学生に比べて不利だという批判もあったため、両者の間に別枠を分けることにしたり、2018年には新たなPACESが登場したりした。

こうして、不公平の問題は改善されたかのように思われたが、フランスの医療界の問題はより深かった。
フランスでは、登録されている医師の数がここ35年で倍増したにも関わらず、農村や都会から離れると、医師の数が足りない問題に直面している。
一番の理由は、医大の1年生試験で振り落とされる数にある、と考えられてきた。

しかし、フランス医学委員会の2017年レポートによると、2007年から2017年の10年間で、医師の高齢化現象が起きていることがわかったのだ。
60歳以上(活動をやめた人も含め)で医学委員会に登録されている医師は、なんと全体のおよそ半数(47%)を占めている。2007年に比べると、プラス20%と、医療界で世代交代ができていない現状が明らかになった。引退しても活動を続けている医師は、2007年に比べて6%も倍増した。
このように、遅々として進まない世代交代が、根深い問題として議論されている。

男女比は?

以下のグラフは、年代による男女の医師の割合を示したものだ。
左の縦軸に年代、男性は青色、女性はピンク色で示されている。
これを見ると、60歳以上の男性医師が全体の69%を占めていることが分かる。

マクロン大統領が掲げる医療改革

上記だけで説明するのは難しいが、フランスでの医師不足の解消は、進学者数の制限を見直すなど、なんらかの措置をとらなければ難しい。そこで、フランス政府は、9月18日に新たな医療改革を発表。
夏休み明け早々、マクロン大統領は、「今後50年」医療界を支える改革と述べ、この問題に直接関わる進学枠(Numerus Clausus)を2020年までに廃止することを口にした。

マクロン大統領は、「現在、毎年2万5000人もの学生が無駄になっている」と述べ、半世紀も続いた、進学枠の存在に終止符を打つ覚悟を示した。

それに加えて、国立病院の職場改善や、2019年には医療サービスの利用に苦しむ地域に、400人の医者を給料制で派遣することなど、多くの改革を掲げた。
マクロン大統領の支持率が低迷する中、この改革が果たしてうまく進むのかが、今後の焦点になる。
現在、日本で女性医師が2割と、数が少ない状況と異なり、2017年に登録されている40歳未満の医師のうち62%が女性医師であることがグラフによって分かる。
その動きは衰えておらず、今年大学卒業後、医師の国家資格の取得者のうち、6割ほどが女性となっている。
また、これまで男性のみとされていた外科医のうち29%が女性だ。
もちろん、女性が増えてきた背景には、家族がいても仕事ができる環境が整っているという要素もある。
こうした傾向は日本も見倣いたいものだ。

救急病棟が緊急事態

フランスの医療問題においては、地域の医者から国立病院まですべての面で改革が必要だった。にもかかわらず、オランド前大統領も任期中に行った改革では個別具体的な問題に踏み込まなかった。
今年3月には、救急で3人もの患者が死亡し、そのうち1人は2時間半救急病棟で待たされた結果タンカの上で死亡したこうした事態から、フランス全土の650の救急病棟のうち100ヶ所もの救急病棟が緊急事態=「Hopital en tension」を発動した。

これは、病院が患者であふれて対処できない緊急の場合、休暇中の人材を呼び戻すことや、他の病棟の予定をキャンセルすることが許可される措置だ。しかし、こうした問題は救急だけにとどまらず、通常外来でも指摘されている。
医師が患者にかける時間はより短くなり、人のケアより数をこなすことにならざるを得なくなっている。

今後、患者に必要なものは高度な技術だけではなく、人間同士の会話と時間ではないだろうか。そのためには、十分な数の医師と看護師を確保することが、最優先課題なのだ。

(執筆:FNNパリ支局 小林善)

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