菅長官流「勝利の方程式」vs野党のステルス作戦 【激戦!沖縄知事選の舞台裏】

カテゴリ:国内

  • アムロの歌声を掻き消す 異例の週末
  • 総裁選より沖縄知事選 声がかすれた官房長官
  • 野党はステルスに徹し「沖縄VS官邸」演出 

歌手の安室奈美恵さんが引退の日を迎えた9月16日、沖縄の地元紙の一面には安室さんの大きな写真に「歌姫」「ありがとう」の感謝の言葉が添えられた。各地から「アムラー」が集まった那覇の街は、至る所で安室さんの曲が流れ、沖縄が生んだ稀代の歌姫への惜別と感謝に満ちた独特な雰囲気に包まれていた。

実はこの日、その安室さんよりも大きな写真が地元紙に掲載されていた人物がいた。政界のプリンス、小泉進次郎・自民党筆頭副幹事長だった。そこには「小泉進次郎 沖縄へ!」という大きな文字が躍っていた。

この日は、安室さん引退の日であると同時に、沖縄県知事選告示後の初めての週末だった。

翁長知事の死去を受けて行われるこの選挙は、自民・公明両党などが推す佐喜真淳前宜野湾市長と、翁長氏の後継で野党が支援する玉城デニー前衆院議員の事実上の一騎打ちだ。米軍普天間基地の名護市辺野古への移設の是非や経済振興などを争点に激しい戦いが繰り広げられ、中央の与野党にとっても極めて重要な選挙となっている。

異例とも言える一面まるごと使った新聞広告は、小泉氏が与党の推す佐喜真氏の応援に駆け付けることを知らせるものだった。その効果を地元局の知事選担当記者はこう話す。

「普段は新聞を読まない県民も安室効果で紙面に目を通したとみられ、効果は大きいと思います」

総裁選より沖縄知事選 声がかすれた官房長官

さらに、その小泉氏と共に街頭に立った大物がいた。菅義偉官房長官だ。選挙では通常、大物はそれぞれが分かれて各地で遊説を行うが、この日は、人気者と大物の2人が同じ場所で街頭に立つ“異例のタッグ遊説”を行い、菅長官は街に流れる安室さんの歌声を掻き消すかのような、懸命の演説を行った。

「自民党総裁選挙を忘れるくらい沖縄県知事選挙に一生懸命になっています。それは向こう4年間の沖縄県政を占ううえで極めて大事な、大事な選挙戦であるからであります」

佐喜真淳候補の応援で、菅&進次郎が異例のそろい踏み

菅長官の動きについて政府関係者は「総裁選の最中も菅さんの頭の中の半分以上は沖縄知事選、あとの残りは携帯料金引き下げのなどの政策と総裁選ですね」と解説する。

菅長官がここまで沖縄知事選に注力する背景には、安倍政権の沖縄の基地負担軽減策の柱となる普天間基地の名護市辺野古への移設がある。

進まない米軍基地の辺野古沖移設

日米両政府が普天間基地の返還で合意した1996年以降に行われた5回の沖縄知事選のうち4回は自民党が推す候補が勝利したもの、前回の2014年は翁長氏が「辺野古新基地反対」の一点で保守系の一部と革新系を糾合して「オール沖縄勢力」を構築して勝利。その結果、北部訓練場の過半や米軍西普天間住宅地の返還が実現する一方で、辺野古移設は遅々として進まない状況となった。

それだけに、5年10カ月にわたり沖縄基地負担軽減担当大臣を務める菅長官としては、総裁選だけではなく沖縄知事選での勝利は最大のミッションなのだ。

9月2度目となる沖縄入り(16~17日)では、官房長官就任後初めて沖縄本島以外の離島(宮古島市と石垣市)でも街頭演説を行う徹底ぶりで、帰京した菅長官の声はかすれているほどだった。

9月3度目の沖縄訪問は「勝利の方程式」

そして自民党総裁選で安倍総裁の3選が決まった20日、菅長官は1時間前倒して行った午後の定例記者会見を終えると足早に官邸を後にし、安倍首相が当選を受けての会見を行っていた午後6時には沖縄行きの機中の人となっていた。9月3度目となる沖縄訪問で、危機管理を担う菅長官が月に3度も沖縄入りすること自体、超異例とも言える。

この訪問では、日本維新の会の支持者などを集めた集会に顔を出し支持を訴えた。滞在時間はわずか30分という”弾丸訪問”だった。そのために往復6時間かけてでも沖縄行きを決めた理由、それはこの会が菅長官にとっての「沖縄選挙・勝利の方程式」のパーツだからだ。

沖縄の選挙に関して菅長官の頭の中に常にあるのが今年2月に行われた、普天間基地の移設先である名護市の市長選挙だ。その選挙で、移設に理解を示す候補を勝利させたのが、自民・公明・維新の3党の結束だった。菅長官はこの沖縄での3党の結束を「勝利の方程式」と周囲に話している。そして今回の沖縄知事選でも、この方程式によって勝利を勝ち取ろうと懸命になっているのだ。

移設反対の野党は“ステルス作戦”

一方、佐喜真氏と争う玉城デニー候補は、翁長前知事の後継候補として、この選挙を翁長氏の「弔い戦」と位置付ける。そして立憲民主党など中央の野党6党派が玉城氏への「支援」を表明している。

玉城デニー候補は野党6会派の支援を受ける

玉城氏は、立候補の正式表明を先延ばししてまで、6党派の幹部と会談して支援の確約を得た。これは、玉城氏が「政治の師」と仰ぐ自由党・小沢代表の指示によるものという。しかし、度々、沖縄を訪問する菅官房長官とは対照的に、野党幹部の姿は沖縄に見られない。各党はいずれも玉城氏に推薦すら出していないのだ。いわば「ステルス作戦」だ。

これは野党側に、選挙戦で基地負担をめぐる政府への不満が根深い沖縄の県民感情や、亡くなった翁長氏の「弔い合戦」との要素を全面に押し出す狙いがあるからだ。知事選が告示された13日に、共産党の志位委員長が「戦いの構図は、安倍官邸vs“オール沖縄”」と語ったことが如実にそれを表している。

前沖縄県知事の翁長氏

野党側の描く構図は「オール沖縄vs安倍官邸」

ある野党幹部は、野党5党が推薦を出し、国対委員長が揃って街頭演説したにもかかわらず敗北した6月の新潟県知事選を引き合いに、「野党幹部が揃い踏みしたからといって、沖縄でどれだけの票になるのか」と述べている。

実際、2月の名護市長選挙では、野党幹部が現地入りを繰り返したにもかかわらず、移設反対を訴える現職が敗北した。沖縄県政の関係者は、「野党幹部が現地入りしたことが、かえって裏目に出た」と分析したうえで、「今回の知事選は安倍政権VS沖縄県民の構図を際立たせている」としている。

玉城氏を「実働部隊」として支援し、故・翁長知事の支持基盤でもあった「オール沖縄」は、基地問題を共通点に、政党(共産党・社民党など)、経済界、労働組合、市民団体などが保守・革新の枠を越えて結束した勢力だ。国政レベルの与党対野党の要素を薄め、「安倍官邸VS沖縄」という対決の構図を際立たせることで、県民感情に訴え、いわゆる保守系をも取り込み勝利を目指すという狙いだ。

国会対応では足並みの乱れも見られる野党各党も沖縄県知事選での方向性は一致していて、「他党と足並みをそろえ、オール沖縄の枠組みの中で、全力で応援する」(立憲民主党・長妻代表代行)、「推薦は行わないが、しっかりとサポートする」(国民民主党・玉木代表)と結束を強調した。

「オール沖縄」を前面に出しつつ、玉城氏の陣営に職員を派遣したり、一部の幹部が、現地で支援団体回りをしたりするなど「後方支援」に徹している状況だ。そして、菅官房長官の動きについて「片方の候補者支援のために官邸を空けて取り仕切る異常な姿」(共産・志位委員長)と批判を強め、「安倍官邸VS沖縄県民」の構図を際立たせてようとしている。

料理研究家の渡口初美氏と元会社員の兼島俊氏も立候補している、この沖縄知事選挙。
両陣営の執念がせめぎあい、戦略がぶつかり合う中。有権者の審判は9月30日に示される。

(フジテレビ政治部 千田淳一 古屋宗弥)