金委員長がジョークで笑いゲット!?南北首脳が大はしゃぎした白頭山ってどんなとこ?

カテゴリ:ワールド

  • 南北両首脳が「聖地」白頭山を訪問
  • 文大統領は夫婦ツーショット写真でニッコリ、金委員長はジョークも披露
  • 北朝鮮にとっては「革命の聖地」…韓国にとっては?

「聖地」白頭山に笑い轟く

白頭山全景。標高2744メートルで頂上には美しいカルデラ湖がある

雲一つない空、厳しく切り立った崖、鏡のように静謐な湖面…
息を飲むほどに美しい風景を目にし、南北の首脳は何を思ったのか…

9月20日、南北首脳会談を経て平壌共同宣言に署名した韓国の文在寅大統領は、金正恩委員長に案内され、北朝鮮の白頭山(ペクトゥサン)を訪問した。二人のファーストレディーや、首脳会談を支えた南北当局のスタッフも同行した。

白頭山頂上にあるカルデラ湖「天池(てんち)」を背景に、笑顔の文大統領が、金委員長の手を取って高々と掲げた様子は、日本でも繰り返し報じられた。
文大統領はさらに夫人とともにツーショット写真を撮影。まるでフルムーン旅行の熟年カップルのような仲睦まじさだ。

笑顔の大統領夫妻

韓国側も北朝鮮側も、皆笑顔で次々に記念写真を撮っている。
金委員長に至っては、韓国政府のスタッフに対して「みんなで写真を撮ってはどうですか?私が撮影しますよ!」とジョークを飛ばし、大きな笑いが起きた。

韓国政府スタッフと金委員長夫妻
北朝鮮のスタッフと文大統領夫妻
金委員長がおどけると笑いが起きた

白頭山はどうして「特別な山」?

同じ民族ながら、1950年に開戦した朝鮮戦争では、敵味方に分かれ悲惨な戦いを繰り広げた韓国と北朝鮮。今年に入って急速に南北友好が進んでいるとはいえ、ここまで南北の人々を笑顔にする白頭山とは、どんな場所なのか?

白頭山は、北朝鮮北東部の中国との境界線上にあり、標高は2744メートル。朝鮮半島の最高峰である。頂上にある「天池」は周囲およそ12キロ。中国側からは崖になっているため降りられないが、北朝鮮側からは、この美しいカルデラ湖のほとりまで下りていける。

実はこの白頭山は、韓国国民にとっても「特別な山」なのだ。

朝鮮半島には、「檀君神話」という建国の神話がある。概要はこうだ。
はるか太古の昔、桓雄(ファンウン)という神が白頭山に降りたち、人間の世界を治める事になった。そこに現れた熊が人間になる事を望み、桓雄の力で人間の女となり、桓雄と結ばれた結果、檀君(タングン、日本ではダンクンとも呼ばれる)が生まれた。檀君は現在の平壌に移り、古代朝鮮を建国した。

サムスングループの李在鎔(イ・ジェヨン)副会長も笑顔

「建国の神話」の舞台

もちろんこれは「神話」であり、事実とは言えない。しかし、韓国では国定教科書に掲載されている「建国の神話」であり、この神話の舞台となっている白頭山を知らない韓国人はいない。
白頭山は韓国国歌の歌詞にも登場する。
以下1番の冒頭を紹介する

東海(日本海の韓国側呼称)と白頭山が 乾いてすり減るまで
神様が加護なされ 我が国万歳
無窮花(ムクゲ)三千里 華麗な山河
大韓のひと 大韓で 永遠に守れよ

韓国人から見れば、白頭山は朝鮮民族発祥の地であり、アイデンティティの拠り所、聖なる山なのだ。
そして、その聖なる山は南北の分断によって簡単には立ち寄ることが出来ない場所になっている(中国側から登る韓国人観光客は沢山いるが)。文大統領夫妻や、韓国政府スタッフが見せた笑顔の裏には、こういう事情があるのだ。

「白頭山で生まれた」は、北のプロパガンダ

一方北朝鮮はどうか?
北朝鮮でも韓国と同様に「檀君神話」は語り継がれている。ただそこに、「金一族の革命の神話」が挿入されているのだ。
北朝鮮は、「朝鮮半島を日本が統治していた時代に、金日成主席が白頭山近郊を拠点として抗日ゲリラ活動を行った。金正日総書記は白頭山で誕生した」などと宣伝していて、金日成主席、金正日総書記、そして金正恩委員長と続く金氏一族は、「白頭(ペクトゥ)血統」と呼ばれている。金正日総書記の出生地は諸説あるが、いずれもロシア国内とされ、「白頭山で生まれた」との北朝鮮の主張は、金氏一族による世襲を正当化するための「神話」と言える。事実か否かは別として、北朝鮮での白頭山は「民族発祥の地」であり、「革命の聖地」でもあり、プロパガンダ(政治宣伝)の道具になっているのだ。
ちなみに、北朝鮮の「国歌」にも白頭山は登場する。

以下2番の冒頭を抜粋する

白頭山の気概を 全て抱いて
勤労の 精神は 宿り
真理で 一つとなった 強い志
全世界の先に立って進む

白頭山が北朝鮮のプロパガンダの道具になっている事は、朝鮮中央テレビの冒頭の映像が白頭山である事などから、日本でも比較的有名だ。

朝鮮中央テレビでは放送開始時に毎回白頭山の風景が放送される

しかし、韓国においても白頭山が「民族発祥の地」であり、特別な場所である事を、どれほどの日本人が知っていただろうか?

文大統領が、北朝鮮のプロパガンダの道具である白頭山を訪問した事に、眉をひそめる人もいたかもしれない。元々南北友好に前のめり気味の文政権という事もあり、北朝鮮の宣伝の道具に使われかねないという批判もある。実際に北朝鮮メディアは、文大統領一行の訪問を「民族の聖山白頭山が、民族史に残る激動の瞬間を迎えた」と大々的に報じ、宣伝している。至極もっともな批判だ。
しかし、上記のように、韓国にとって白頭山が特別な場所である事をきちんと理解した上で、文大統領や韓国政府スタッフたちの振る舞いについて、評価すべきだ。

映像で見た白頭山は、本当に美しい場所だった。
拉致問題が完全解決し、北朝鮮が全ての核を放棄して朝鮮半島に平和が訪れたのなら…
私たち日本人が、気軽にこの地を訪れる日が来る事を願ってやまない。

(FNNソウル支局長 渡邊康弘)

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