「バカ!」「土下座しろ!」サービス業の7割が経験する“悪質クレーム”の実例と対策を聞いた

カテゴリ:暮らし

  • 悪質クレームを受けたことがあるサービス業の従業員は73.8%
  • 悪質クレームの被害で、1%が精神疾患を患った
  • 事例にみる強烈すぎる悪質クレームの数々

通行禁止の道路に入ることを断ると乗せている客から「殺したろか」と言われた…
「レアカードが出ないと言われ」23時閉店なのに深夜1時半頃まで居座られた…

こういった暴言・脅迫・誹謗中傷など、客からいわゆる「悪質クレーム」を受けたことがある従業員は73.8%いることが明らかになった。
調査を行った産業別労働組合の「UAゼンセン」は、今年2~5月にタクシーや飲食店をはじめ、ホテル・医療・レジャーなど「総合サービス部門」の加盟組合を対象にアンケート調査を行い、約3万件の回答が寄せられた結果を9月11日に公表した。

出典:悪質クレーム対策(迷惑行為) アンケート調査結果 2018年9月

悪質クレームで最も多いのは「暴言」(24.8%)で、次いで「威嚇・脅迫」(21.0%)、下位には「暴力行為」(3.6%)や「金品の要求」(3.4%)もある。
近頃は店員を土下座させた画像がネットで出回り問題化するケースもあるが、「土下座の強要」(2.1%)や「SNS・インターネットでの誹謗中傷」は0.8%と意外に少ない。

悪質クレームの被害で、1%が精神疾患に

UAゼンセンは2017年6~7月にも、今回とは違う業種、スーパーマーケットやデパート、ホームセンター、家電量販店などを含む「流通部門」で同様のアンケート調査を行い同年10月に結果を公表している。
こちらはUAゼンセン最大の部門で、約5万件の答えが寄せられたが、悪質クレームを経験した人の割合は73.9%と今回とほぼ同じ割合になっており、業種が違っても同じような状況になってることがわかる。

また、どちらの調査でも悪質クレームを受けた人の約9割がストレスを感じ、その結果約1%の人が精神疾患になったと答えている。

(※「軽いストレスを感じた」と「強いストレスを感じた」の合計値で2017年の調査では89.3%、今年の調査では90.2%。「精神疾患になったことがある」とした人は17年が1%…359件、18年が0.9%…189件)

出典:悪質クレーム対策(迷惑行為) アンケート調査結果 2018年9月

悪質クレームは近年増えている

ところで何をすれば、悪質クレームになるのかお分かりだろうか?

実は、悪質クレームの法的な定義はまだできていない
こうした状況から、UAゼンセンは、2017年に発表した「悪質クレームの定義とその対応に関するガイドライン」の中で、悪質クレームを細かなタイプに分類し、判断基準や対応を独自にまとめている。
その一部の判断基準は下のようになる。

・欠陥があった商品の代金より、高額な賠償を要求
・謝罪として土下座を求めるもの
・従業員の解雇を求める要求
・自社製品以外の要求
・不当な返品を要求(返品期限を過ぎている返品など)
・実現不可能な要求(法律を変える、子どもを泣き止ませるなど)
・発生した事実に対して、相応に対応したにもかかわらず、社長や企業トップを出せという要求

さらに別の分類はより細かく「長時間拘束型」「暴言型」「権威型」など8項目にも分けられ、それぞれに判断基準と対応が違う。
すべての従業員がこれらを覚えて正確に対応するのはなかなか難しいようにも思う。

今回の調査でわかった実態や、定義もはっきりしていない悪質クレームに今後どう対応していくのか?
UAゼンセンの担当者に聞いてみた。

――悪質クレームの調査は以前からしていたのか?

昨年、流通部門で行ったアンケート調査が初めてです。
以前から現場で問題になっている見識はありました。
そこで全体的な対策をとらなければならないという認識で去年初めて調査を行いました。

――悪質クレームは年々増えているのか?

アンケート調査は去年が初めてなんですが、「迷惑行為は、近年増えていると感じていますか?」という設問があります。
去年も今年も、減っているより増えていると感じている人のほうが多い傾向です。

出典:悪質クレーム対策(迷惑行為) アンケート調査結果 2018年9月

――近頃、「悪質クレーム」が話題になるのはなぜか?

悪質クレームが大々的に取り上げられるようになったのは、去年のアンケート調査結果を記者会見で公表したあと、11月ごろからなんですね。
アンケートにはとても生々しい事例報告があり、それが朝の情報番組などで再現ドラマとして放送されました。
タイミング的にはこういうことだと思います。
個人的な見解ですが、こういった悪質クレームの問題をしっかり調査したのは初めてだったので、実態が明らかになったインパクトが大きかったんだと思います。

もっと本質的な部分では、お客さんの行為を「悪質クレーム」だと言ってもいい風潮が生まれてきたということです。
特に流通・小売りの世界では、クレームはありがたく聞かなくてはいけないと昔から言われていました。
それが最近になって「悪質」だと言ってもいいような時代背景ができてきたことが大きいと思います。

ちょっと話がずれますが、私たちは以前から消費者庁にも話を聞いてくださいとお願いをしてきました。
でも消費者庁の立場はお客様である消費者を守るのがメインなので門前払いをされていたんです。
しかし、一方では消費者教育も消費者庁の重要な役割なので、今はそういう方向での対応をお願いをしているところです。


――法整備は進んでいるのか?

今年の3月、ハラスメントに関する有識者を集めて「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」が開かれました。
そこで、職場の上司・同僚・部下からだけではなく、取引先やお客さまからの迷惑行為も検討する必要があるという報告書を作っていただきました。
それを受けて、この9月から労働政策審議会の分科会で、悪質クレームも含めて検討をしていくという話になりました。

――どんな法律を作るのか?

もともと「労働安全衛生法」の事業者責任で悪質クレーム対策ができるかと思っていたのですが、それだけではだめなんです。
たとえば「航空法」では、飛行機内で迷惑行為を働く客を退去させたり、場合によっては飛行機を出発地に戻すことが認められているように、悪質クレームに対応することができないのか検討を重ね、労働法ではない部分も必要になるのではないか、という話し合いをしています。
マスコミの方々からは、よく「どんな法律を作る・作ってもらう予定なんですか?」と聞かれますが、今のところはまだちょっと研究中です。

法律以外でも、たとえば大臣通達や自治体の条例や、あるいは業界団体が基準を作るなど、様々な方法があります。
ただ、業界が従業員を守るためお客様に厳しいことを言えるのかは難しいと思います。
ですから、いわゆる法的なものを作ることが第一だと思っています。


――悪質クレームの定義は、もっとわかりやすくなるのか?

今のところは去年発表したガイドラインしかありません。
あれは、流通部門が1年ぐらいかけて弁護士にも相談して作ってきたガイドラインなんですが、先行的事例の一つだと考えていたほうがいいかもしれません。
どこから悪質になるのか、文字にしようとするとすごく難しいんですが、アンケートに寄せられた様々な事例を読んでいただくと「これはひどい」と思うものばかりです。

生々しい事例の数々

資料の最後には、アンケートの回答から抜粋した生々しい悪質クレームの事例が7ページにわたって載っている。
その一部を紹介しよう。

【暴言】
・レジ打ちを間違えてしまったら「デブは仕事ができない」といわれた。謝っても15分ぐらい暴言を言い続けた
・踏切がなっているにも関わらず、乗せている顧客から「行けやボケ! !」と言われた。

【何回も同じ内容を繰り返すクレーム】
・待ち伏せされて、毎回同じ内容のクレームを1ヶ月位言われた。
・決められた時間を5分過ぎたので、次回から注意していただくようお願いすると、激怒して店内の時計の秒針のズレを指摘し長時間にわたってクレームを言われた。

【権威的(説教)態度】
・「俺は●●新聞社と●●組とつながりがある。こんな店簡単につぶせる」などといわれた。
・町議会議員だという方が名乗らないので困っていたら「俺を知らないとは、ふざけるな」と暴言を吐かれた。

【威嚇・脅迫】
・商品でヤケドをおったと言い、お前もヤケドをしろと迫られた。
・家を訪ね、サービス外の要求をされたので断ると、キッチンから包丁を出して突きつけられた。奥様が慌てて止めに入ってくれたので大事にはならなかったが、命の危険を感じた。

【長時間拘束】
・靴を間違って帰られたお客様がいたため、自身の靴が無いと朝まで正座させられ説教を受け弁償した。
・サラダバーに小バエが飛んでいたという理由で6時間以上拘束された。

実は悪質クレームの調査結果にもクレームがきた

上で抜粋した事例は論外だが、その一方で、定義がはっきりしないと、客側は正当なクレームのつもりでも、言われる側に悪質クレームだと受け止められてしまうと、今度は何も言えなくなってしまうというジレンマもある。

――そのつもりがなくても悪質クレームになってしまうのでは?

その可能性はあると思います。
通常の接客なり販売の行為でも、お客様が途中から怒りだしてしまうケースは多々あります。
それは、ボタンの掛け違いもあるでしょうし、店側に落ち度がある場合も十分考えられます。

アドバイスになるようなクレームは、業務の改善にも繋がるので決して排除してはいけません。
悪質なクレームとまっとうなクレームを一緒にしてはいけない。
ここは間違えてはいけないと思っています。
そういう意味で、悪質クレームがいろんな形で話題になることで議論や話し合いが進み、何が悪質で何がそうでないか、多くの人が考えていただく機会になればいいなと思います。

実は、去年11月にアンケートの結果を発表した時、クレームの電話が何件もありました。
だいたい「消費者を何だと思ってるんだ!」とおっしゃって、自分がクレームを付けた事例について説明されるんです。
教えてやってる、指導してやった、分からないから言ってやったという内容で一人だいたい30~40分話されます。
こういう場合どうすればいいのかを考えていくわけです。


UAゼンセンは今後アンケート調査は行わず、対策実現のために行動していくという。
様々なハラスメントが話題になっているが、今回取り上げた事例は十分ハラスメントにあたる。
過剰すぎる「お客様は神様です」という精神は、変えていかなければならないのではないだろうか。