首相訪中に向けて友好ムード・・・背景にはあの国との「戦争」

木村 大久
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  • 習近平政権が首相訪中を歓迎
  • 背景にはあの国との「戦争」
  • 将来の日中関係の不安材料 

習近平政権が首相訪中を歓迎 

「今年は日中飛躍発展の年です。21世紀の日本を考える時、今年は歴史的な年になるでしょう」
これは今年の元日に、私が安倍政権のある幹部にメールで年始の挨拶をした際に返ってきたものだ。メールの文面からは安倍政権が中国との本格的な関係改善に乗り出すという意欲がにじみ出ていた。

2012年、当時の民主党の野田政権が沖縄県の尖閣諸島を国有化したことを受け、日中関係は悪化。しかし、今年に入り、自民党の二階幹事長、麻生副総理、公明党の山口代表、野党からも国民民主党の前原元外相らが中国を訪れるなど、議員訪中が活発化している。北京の大使館で対応にあたった関係者は、「関係が悪い時には何も動かず暇だった。しかし今は関係改善を受けて忙しい」と言う。

日中関係の改善には、中国側の思惑が大きく影響している。今年5月には中国の李克強首相が中国首相としては7年ぶりに日本を訪問。また、今月ロシアのウラジオストクで、習近平国家主席が安倍首相と会談し、来月にも安倍首相の訪中を歓迎する意向を表明した。国際会議以外での首相訪中は、2011年12月の野田前首相以来7年ぶりとなる。

なぜ中国側は日本との関係改善に乗り出してきたのだろうか。

背景にはあの国との「戦争」

中国側が日本に歩み寄ってきた背景には、「米中貿易戦争」が指摘される。中国はアメリカと制裁関税の応酬を繰り広げ、長期化の様相も見せ始めている。習近平政権は「米中貿易戦争は望まないが恐れてはいない」と強気の姿勢を示すが、輸入総額でアメリカ側に大きく劣る中国が取れる手段には限界が見え始めており、中国にとっては深刻な問題だ。

「貿易戦争」が激化する前の今年1月、ある中国共産党の関係者は、「習近平政権は盤石に見えるがアメリカとの貿易戦争は深刻だ。扱い次第では政権基盤が揺らぐ可能性がある」と漏らしていた。今の中国側の苦しい状況を見るとそれがある程度正鵠を射た指摘だったと感じる。

日本はGDPではアメリカ、中国に次ぐ世界第3位の経済大国であり、アメリカの同盟国だ。アメリカとの「貿易戦争」を抱える中国としては、できれば日本を味方につけておきたいと考えているのは間違いない。その中国側の姿勢を象徴していたのが、先月訪中した麻生副総理と中国要人との会談だった。

中国側は、経済運営の司令塔で、貿易問題で対米交渉も担当している劉鶴副首相。その劉氏が会談の冒頭、日本語で「私は北京から来ました」と麻生氏に話しかけた。中国要人が日本側との会談の際に日本語を使う場面はあまり見られない。国務委員を兼務する王毅外相はこれまでに駐日大使もつとめ、日本語を流暢に話すことができる。しかし、その王外相もカメラで撮影している前ではなかなか日本語で話す姿を見せない。それは、日本語を話せば中国国内で日本寄りだと見られて厳しい立場に立たされるからだ。日本政府関係者は劉氏の態度について、「アメリカとの貿易問題を抱えている中、背に腹はかえられず、対日関係を重視していることを伝えたかったのだろう」と分析する。

将来の日中関係の不安材料

それでは日中関係には全く不安要素はないと言えるのか。 中国メディア関係者は、「習主席と安倍首相がウラジオストクで握手をする姿を見て感慨深かった。あれを見て多くの人が日本側と仲良くしてもよいと思っただろう」と語った。これは、中国では政府や党などの関係者が、指導者の一挙手一投足を見て自らの判断基準にしていることを表している。つまり、政権の意向次第では関係改善の流れも変わるということだ。

最近、中国外務省の会見では歴史認識などについて抑制的に発言する場面も見られるが、アメリカとの「貿易戦争」の最中に日本を敵に回したくないという考えから、今は自制しているだけだという見方をする日中関係者も多い。先月、日中高官の会談で、中国外務省が代表取材に産経新聞の記者が入ることを拒否した。これに日本の報道各社が抗議し、取材自体を取りやめる一幕があった。中国側には日本政府も抗議したが、中国外務省の華春瑩報道官は記者会見で、「道理のない抗議は受け入れられない」と強く反発し、日本政府は日本のメディアを教育する必要があると主張した。ある日本政府関係者は、「産経新聞は歴史認識や台湾問題などで中国側に批判的だ。中国外務省としてはどうしても認められないということだった」と話す。

こうした中国側の姿勢は、日本政府が歴史認識などの問題で中国を刺激するようなことがあれば、再び強硬姿勢に逆戻りしかねないということを示している。
「中国と付き合う際には、信用と警戒が必要だ」 これは長年中国側との交渉にあたってきた、日本の元外交官の言葉だ。今後も対中外交は一筋縄ではいかず、日本側としては薄氷を踏むような歩みが続きそうだ。

(執筆:フジテレビ 北京支局 木村大久)

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