仲介者ならぬ北の“代弁者”に……北朝鮮に取り込まれた文大統領

カテゴリ:話題

  • 非核化に実質進展なし……金正恩氏はソウル訪問約束
  • 正恩氏と一時間サシ会談……トランプ大統領の説得を依頼か
  • 経済協力に前のめり……巨額資金投入に懸念

平壌共同宣言は中味なし?

今年3度目の南北首脳会談に臨むため、韓国の文大統領が北朝鮮の首都・平壌を訪れた。

平壌の空港では金正恩委員長と李雪主夫人が二人揃って出迎えただけでなく、両首脳がオープンカーに同乗して平壌の街をパレード。沿道を埋め尽くした10万人の市民が手を振って歓迎する場面が演出された。
文氏を迎賓館にあたる「百花園」に送った金正恩氏は、「みすぼらしい宿舎ですが、最大限の誠意を尽くした」と謙遜して見せた。

4月の南北首脳会談で北朝鮮の交通について「不十分で不便だ」と嘆いたのと同様、南北格差を率直に認めることで、韓国の経済協力を促したいとの意図が伺える。
異例の厚遇で文氏を迎えた正恩氏。その狙いは明白だ。
文氏を完全に北朝鮮側に取り込み、9月下旬に予定される米韓首脳会談でアメリカを説得させる…そのためには歓迎ぶりをこれでもかと見せつける必要があった。

2日目の会談では同席者を交えず、二人きりで70分間会談。
その後に「9月平壌共同宣言」に署名した。

焦点の非核化ではどんな合意があったのか。
①  東倉里のエンジン試験場とミサイル発射台を関連国の専門家の立ち合いの下で永久的に廃棄する。
②米国が相応の措置を取れば、寧辺核施設の永久廃棄のような追加的な措置を取る用意がある
③南北は朝鮮半島の完全な非核化推進で緊密に協力していく、となっている。

非核化の検証につながる専門家の受け入れは良いが、東倉里のミサイルエンジン実験場は北朝鮮が既に解体したと主張しており、非核化の前進とは言えない。寧辺核施設の廃棄の言及には「アメリカの相応の措置」があれば、との条件が付けられている。「相応の措置」には、北朝鮮が求めている朝鮮戦争の終戦宣言が含まれる。
アメリカが求めている核兵器や施設のリストの提出や、核廃棄の行程表といった具体的な非核化措置には踏み込まず、事実上ゼロ回答に近い内容だ。アメリカを満足させるには不十分と言わざるを得ない。

「言葉だけの非核化」には何の意味もない

署名式後の記者会見で、正恩氏は「朝鮮半島を核兵器も核の脅威もない平和の領土にするため、積極的に努力していくことを確約した」と述べた。
韓国政府は、金正恩氏が肉声で「朝鮮半島の非核化」に言及したことを高く評価。平壌共同宣言が実質的な朝鮮戦争の終戦宣言にあたると強調している。しかし、「言葉だけの非核化」には何の意味もないし、アメリカ抜きの終戦宣言を北朝鮮が喜ぶとも思えない。

実は文氏は訪朝前から「北朝鮮が非核化で追加的措置を取るにはアメリカが相応の措置を取ることが必要だ」と、北朝鮮とまったく同じ主張をしていた。首脳会談の前から既に北朝鮮の“代弁者”と化していたことがわかる。

南北協力は前のめり

経済協力や南北交流の面でも北朝鮮寄りの姿勢が際立つ。

共同宣言では
・鉄道と道路連結のための着工式を年内に開催
・条件が整えば開城工団と金剛山観光事業を正常化
・2032年の夏季オリンピックの南北共同開催を誘致
・離散家族の常設面会所を設置 などを挙げた。

国連の制裁に抵触する恐れがあるため、進んでいない南北の鉄道と道路の連結を年内にも着工するとした。また、保守政権の下で中断に追い込まれた開城工業団地や、金剛山観光についても、再開に意欲を示している。
アメリカが求める制裁の維持に協力するどころか、制裁緩和を働きかけかねない勢いだ。

今回の訪朝にはサムスン、現代など韓国4大財閥の会長らが同行した。
北朝鮮で経済を担当する李竜男副首相は財閥幹部らと面談した席で、サムスン電子の李在鎔副会長に対し、「いろんな分野で有名な方です」と声をかけ笑いを誘った。

李副会長は朴槿恵前大統領らへの贈賄罪などで執行猶予付きの有罪判決を受けた。裁判が続く中での訪朝には、韓国内でも疑問の声が上がっている。
財閥に対しては批判的な立場の文政権だが、北朝鮮支援では手のひらを返したように協力を求めている。

巨額資金投入に懸念も……

南北協力には巨額の資金が投入される見通しだ。
4月の板門店宣言を受けて韓国国会に提出された批准案では、来年だけで4712億ウォン(約471億円)の事業費が必要とされる。このうち約3000億ウォンが南北の交通連結費用だ。
非核化の進展に伴い、南北の経済協力が進めば費用は上昇の一途をたどることになる。
2007年の南北首脳会談で合意された経済協力の実現には、韓国から総額111.8億ドル~158.7億ドルの投資が必要となるとの試算もあった。
2000年に金大中大統領と金正日総書記(当時)の間で初の南北首脳会談が開催されて以来、既に巨額の資金が北朝鮮につぎ込まれてきた。

服や靴を生産するための軽工業原材料、食糧、道路工事、軽水炉建設…。
これまでに韓国が借款の形で北朝鮮に提供した資金だけでも、3兆5000億ウォン(約3500億円)に上るという。しかし、北朝鮮は償還の期日を過ぎても返済に一切応じず、踏み倒しを決め込んでいる。

文政権は南北の鉄道・道路連結事業について、「北朝鮮だけのためではなく、韓国経済に必要な事業」と強調しているが、行き過ぎた北朝鮮支援は国際社会の懸念を呼ぶだけでなく、韓国内でも批判が高まりそうだ。

(執筆:フジテレビ報道センター室長兼解説委員 鴨下ひろみ)

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