年内にソウルで南北米3首脳『終戦宣言』が視野に

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  • アメリカの「相応の措置」とは朝鮮戦争の終結宣言
  • 実務レベルの常識と首脳同士の思惑には大きなギャップが
  • 中間選挙前なら“発表”だけで大統領のアピールになる

アメリカの「相応の措置」とは朝鮮戦争の終結宣言

韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩委員長が19日に署名・発表した『ピョンヤン共同声明』が見据えているもの。それは、年内に、金委員長がソウルを訪問し、同じタイミングでトランプ大統領が訪韓してソウルないし板門店で、3首脳が朝鮮戦争の終結宣言を行うこと‥だと考えられる。

共同宣言は、アメリカが「相応の措置」をとるなら、北朝鮮はヨンビョンの核施設を「永久に廃棄するといった措置」をとる用意があるなどと表明した。主要な核施設の一つであるヨンビョンの閉鎖に見合うアメリカ側の「相応の措置」とは、シンガポールの米朝共同宣言やその後の北朝鮮のプロパガンダを踏まえれば、疑いなく「北朝鮮の安全の保障」すなわち朝鮮戦争の終結宣言のことだ。

金委員長とそのパートナー役の文大統領にとって、『終戦宣言』は今年4月の板門店宣言以降、対米アプローチの核心となるものだ。板門店宣言は「休戦協定締結65年となる今年、終戦を宣言し、(中略)平和体制を構築するため、南北米3者ないし中国を加えた4者の会談の実現を積極的に推進する」としており、両首脳は半島外交で戦略的アプローチを共有し協働することを確認した。この実現に尽くさなければ文大統領は即座に金委員長の信頼を失い、南北の融和は瓦解する。文大統領にとっては年内の南北米3首脳会談のため、正に今が踏ん張りどころと言える。

実務レベルの常識と首脳同士の思惑には大きなギャップが

アメリカ側にとって、『ピョンヤン共同声明』に書かれた北朝鮮の核施設廃棄などは、『終戦宣言』のためにはまったく不十分だ。トンチャンリのミサイル発射場の専門家立ち合いの下での「永久廃棄」も、ある意味、存在が知られ役割を終えた施設の廃棄でしかない。アメリカ側が求める「あらゆる核関連施設・兵器・物質リスト」の提出とは比べ物にならない“小出し”に過ぎない。しかし、トランプ大統領の心を揺さぶるには十分とも言える。

文大統領は19日午前に金委員長と二人きりで1時間10分にわたって会談しており、ここで話し合われたことこそが、来週ニューヨークでの文在寅・トランプ会談で伝えられる重要メッセージになる。それは『ピョンヤン共同声明』には書かれていないことであり、大統領を駆り立てるはるかに踏み込んだものになるだろうことは疑いない。

トランプ政権下での米朝関係を考察する際に留意すべきなのは、官僚や閣僚レベルでの常識と首脳同士の思惑の間には大きなギャップがあるということだ。それはトランプ大統領が一旦はキャンセルしたシンガポール会談を金委員長の書簡が届いたことで「やっぱり会う」と翻意したことに表れていた。さらに大統領は、ポンペオ国務長官の4度目の訪朝を直前にキャンセルさせたが、やはり金委員長から2度目の首脳会談を求める書簡を受けて、直ぐにその気になっている。
ことほど左様に、米朝の実務レベルでの対立や膠着状態を乗り越えるのは、金委員長からトランプ大統領への直接の働きかけだった。こういった勘所は金委員長も十分承知のことだろう。トランプ大統領の政権事情も深く綿密に研究しての行動であることは言うまでもない。

中間選挙前なら“発表”だけで大統領のアピールになる

ということで金委員長は、パートナー役の文大統領を介して、トランプ大統領に働きかける。
「大統領がアメリカ国民に対して『北朝鮮は具体的措置ももって本気で非核化に向けて進んでいる』とアピールできるだけのものを出しましょう。だから南北米の3首脳で『終戦宣言』をして歴史にドナルド・トランプの名を刻みましょう」「私は年内にソウルを訪れます。とても大きな決断です。いい機会ではないですか。大統領も来てください。『終戦宣言』するのは板門店がふさわしいかもしれない。絵になりますからね」などなど。

トランプ大統領は11月の中間選挙までに“成果”を出したい‥とする解説が主流だが、そんなことはない。中間選挙までに北朝鮮が具体的に非核化に向かっていること、南北米の3首脳会談を行うこと、そして『終戦宣言』することを“発表”できれば良いのだ。実現は選挙後でも構わない。
そもそも実務的に望ましい非核化の実現には長い歳月が必要だし、合意することすら簡単ではないのだから。

そして、南北米に中国を加えてやるかどうかは、トランプ大統領にとって対中国での交渉カードにもなる。11月のG20で習近平国家主席と会談する際に、「乗り遅れたくなければ貿易戦争で譲歩せよ!」という訳だ。
南北にとっては3者ないし4者と板門店宣言に書いてあるので、どちらでも構わないという立場をとれる。
もしかしたら習近平国家主席にとっても、米中貿易戦争を休戦に持ち込むきっかけとして利用するというウルトラCもあり得るのでは?

南北首脳の渾身の合作シナリオによって、2018年の残る4か月も北朝鮮情勢では大きな動きが見られそうだ。

(執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋)

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