“永遠に噛み合わない”安倍晋三と石破茂の6年前と人事の覚悟 自民党総裁選「秘録」#2

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  • 安倍×石破 論争がかみ合わない理由 
  • 「干す、干さない」は政治家の覚悟の問題 
  • 6年前の人事に見る総裁選後の処遇は

「過去を知れば未来がわかる!? 自民党総裁選「回顧録」#1」はここから

対立軸は明確でも、かみ合わない安倍―石破論争

自民党総裁選挙の投開票が目の前に迫った。
北海道の大地震を受けて、活動期間が短縮される異例の展開になり、論戦が十分尽くされたかどうかは、投開票が終わってみなければわからないが、アベノミクスの是非や外交政策、政と官のあり方、憲法改正など、対立軸はそれなりに明確になったのだと思う。

安倍首相が強調するのは第二次安倍政権6年の実績と、それに基づく未来への責任だ。
それに対し、石破元幹事長が一貫して提唱するのは、「安倍一強」へのアンチテーゼであり、ポスト安倍候補として、安倍政治を継承せず、否定した上での未来の政治を訴えている。

ここが、討論会などを通じて対立点は明確になるものの、2人の議論が全くかみ合わない所以だ。

石破氏の支持者からは、来年の統一地方選や参院選を見据え、「首都一極集中ではなく、地方を大事にする石破氏に期待したい」との声が多く聞かれるし、安倍氏の支持者からは、「石破氏が言うことは政権批判ばかりで、やろうとすることも物語に過ぎない」とこき下ろす声も聞かれるなど、支持者の意見もすれ違う。

「干す、干さない」議論の不毛さ

そうした中、最終盤に入った議員票獲得合戦と総裁選後の人事に関し、気になっていることがある。
総裁選後の人事で「干す、干さない」の議論だ。

7月下旬、岸田政調会長が総裁選への出馬を見送ると、各派閥の動きは一気に加速した。
推薦人集めに苦戦する野田総務大臣の出馬は困難と見られていたため、岸田氏不出馬が固まったことで、態度を表明していない派閥は、安倍氏か石破氏のどちらかを選択する決断を早々に迫られる事態になった。

出馬を見送った岸田政調会長

このころから党内で出てきたのが、「人事で干す、干さない」の議論である。
結論から言うと、この議論は不毛だと考える。
自民党の歴史はいつどんな時も、権力闘争そのものだからだ。「干す」「干される」覚悟を持たない政治家が騒いでも何の意味もない。

2012年の安倍人事はどうだったか

では、2012年の総裁選で、決選投票で勝利し、再起を遂げた安倍氏の人事はどうだったのだろうか。

2012年の自民党総裁選

安倍氏を含む5人の候補が乱立した総裁選。
石原幹事長が出馬し、谷垣総裁が出馬を見送ったことで、麻生太郎氏、高村正彦氏らは安倍支持に回った。
麻生氏は副総理兼財務相に起用され、いまも政権の屋台骨を支えている。

石原陣営の選挙対策責任者を務めた茂木敏充氏は、決選投票では額賀派(当時)を安倍支持でまとめた功労者の一人だ。
総裁選後の人事では経産相に起用され、現在は経済再生相としてTPPの取りまとめなどに奔走する。

この総裁選で「再起はまだ早い」との周囲の声に悩む安倍氏を説得して出馬に導いたのは甘利明氏、菅義偉氏の2人だった。
「安倍で勝てる」という自身の信念を一貫して疑わず、第二次安倍政権誕生の最大の功労者とも言える菅氏は、官房長官として危機管理対応をはじめとする、内外諸懸案に向き合い、独自の人脈や嗅覚を生かし、安倍首相の防波堤になっている。

甘利氏は、安倍陣営の選挙責任者を務めたのち、第二次安倍政権発足に伴い、経済再生相に就任。
アメリカが離脱する前のTPP交渉でUSTRのフロマン代表と侃々諤々の交渉を続けた。
甘利氏はその後、2016年に秘書により金銭授受疑惑を受けて閣僚を辞任するが、今回の総裁選でも安倍陣営の先頭に立ち、再起を狙っている。

このように安倍首相は、政権奪還に伴い、総裁選での功労者に重要ポストをあてがい、論功行賞を明確にした。

同時に安倍首相は、総裁選の対抗馬だった石原伸晃、林芳正を閣僚として取り込んだほか、出馬を見送った谷垣総裁を法相に起用した。
また政権奪還に先立って、自らを上回る党員票を獲得し決選投票を戦った石破氏を幹事長に起用し、論功行賞と同時に挙党体制も構築したのだ。

干された小池都知事と因果応報

“干された”あとに都知事、希望の党を立ち上げ

その陰で、“干された”人もいる。その1人が今の東京都知事、小池百合子氏だ。
小池氏は当時、安倍支持と見る向きもあったものの、選挙戦の構図が明らかになるにつれ、石破氏側についた。
「干す、干さない」議論を耳にしたとき、2012年の総裁選後に、安倍陣営の幹部から聞いた話を思い出した。

「小池さんがどのポストに就きたいという話をしているが、安倍さんは『絶対に断る』と言ってたよ」

その時に私が聞いたのは、具体的な閣僚ポストの話だったが、その後の人事を見ても、安倍首相が小池氏を登用する気配はなかった。
人事は人のすること、理屈では決まらない。因果応報だ。

その後、小池氏は自民党を飛び出し、東京都知事選に出馬し当選。その後の都議選でも自民党に圧勝し、惨敗した自民党東京都連は幹部の責任問題に発展し、世代交代を余儀なくされた。
そして、2017年の衆院選では、小池氏が率いる「希望の党」が、台風の目になりかけ、一時は自民党に政権転落の危機感さえ広がった。

安倍首相のあの時の「小池氏を干した」人事が巡り巡ってこの状況を導いた、とまでは言わないが、去年の希望の党旗揚げの光景を目にしたときに、人事の「干す、干さない」は政治家の覚悟に基づくものだし、そうでなければならないと感じた。

人事をみれば、未来がわかる

では、今回の総裁選で仮に安倍首相が三選を果たせば、一体どのような人事を行うのだろうか。1つのカギは党員票だ。

石破氏が党員票で安倍氏に肉薄すれば、一定の影響力を保つことができ、かつ、ポスト安倍として今後力を蓄えることができるだろう。
その状況で安倍首相が石破氏をやはり干すのかが注目だ。
ただ石破氏自身は、次を見据えポストに就かず無役でも構わないと思っているかもしれない。
しかし、石破氏自身のみならず、派閥の仲間を閣内にどうか、と言われた場合、石破氏はどうするのか。拒否することはありえるのだろうか。

そして安倍首相は、来年の統一地方選、国政選挙を見据えて、2012年のような挙党体制を構築する可能性はあるのか。
さらに、憲法改正をどう実現させるのか、待ったなしの社会保障改革、国際情勢が不安定化する中での外交、都市と地方のあり方の改革に、どう本気で取り組むのか、それが総裁選後の人事で見えてくるだろう。関心が尽きない。

(執筆:フジテレビ 政治部 官邸キャップ 鹿嶋豪心)

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