ロヒンギャ問題を取材する記者2人が禁固刑となった本当の理由

カテゴリ:ワールド

  • ロヒンギャ問題を取材する記者2人が警察の罠で禁錮7年の判決
  • ミャンマー政府がロヒンギャを弾圧しているという簡単な話ではない
  • ロヒンギャ問題の解決に動いている日本人もいる

祖国を追われた“無”国籍難民『ロヒンギャ難民』。
バングラデシュ南東部の難民キャンプで暮らすロヒンギャ難民は、元々、隣国ミャンマー西部の地域に暮らすイスラム系少数民族だ。
ミャンマーは仏教徒が多くを占めることから、宗教の違いや肌の色の違いなどを理由に、差別や迫害を受け続け、2017年8月には、ミャンマー政府軍が少数民族ロヒンギャの掃討作戦を決行。1カ月で6700人が殺害、5歳未満の子供たち700人以上の命が奪われたと言われている。

このロヒンギャ問題を取材していたロイター通信のミャンマー人記者2人が、警察の極秘資料を不法に入手したとして起訴。9月3日にはミャンマーの最大都市ヤンゴンの裁判所が、2人に対し、禁固7年の判決を言い渡した。
この問題についてジャーナリストの有本香さんに聞いた。
(聞き手:ニッポン放送『飯田浩司のOK!Cozy up!』飯田浩司)

罠にかけられた記者2人に、禁固7年の判決

移送されるワ・ロン記者

飯田:
欧米のメディアなどは「民主主義の破壊である」などと、かなり激しく批判していますね。

有本:
ツイッターでもそのような声や「スーチーさんからコメントすらないのはどうしたんだ」というような声を頂いていて…。しかし、これは実際にはかなり複雑な問題です。

経緯を追ってみると、この記者2人は罠にかけられていたようです。
「資料を渡す」と言われたため警察関係者と接触したところ、その直後に逮捕されました。実際に裁判の過程で、「上司から命令されて2人を罠にかける手はずでした」と証言した警察官もいるんです。
経緯そのものがそういう感じなので、政府は彼らがミャンマーの国家機密に触れた、国家の敵・あるいはテロ組織を利するような資料が含まれていると言っていますが、でもそれがどんな情報かは当然言っていないのです。この場合、政府が内容を言ってしまうと逆にまずい、ということなんですけれども。

また、他の情報を見ると、この記者の携帯電話を押収しているようです。そこには、政府要人の異動計画の情報があったのではないか、と言われています。これはミャンマー政府にとっては大きな問題なんだろうと思います。

飯田:
治安だとかテロ対策の面で見ると、異動計画などは大きな問題だと。

有本:
通常あの種の国だと、そういった異動の計画などは公表されませんから。実際にはどこの国でも事前には公表しませんが。
彼らには、そういう情報が入っていたのではないか、あるいは、ミャンマーが反政府組織と認定している側とのコンタクトの履歴があったのではないか、とも言われています。しかしその真相がわかりづらいですよね。
一方で、世界中の人権団体と称するところからは、相当な非難の声が上がっています。

非常に複雑なロヒンギャ問題

ロヒンギャ難民が暮らすバングラデシュの難民キャンプ

有本:
しかし、そもそもロヒンギャ問題というのはかなり複雑な背景があります。
ロヒンギャという名前も、自称しているのはイスラム教徒、ベンガル系の人たちですが、政府はミャンマー国内でロヒンギャという名前すら認定していません。ベンガル族だと言っている。このベンガル族の人たちというのは、もともとバングラデシュとの国境に多く住んでいるのですが、英領時代にイギリスがミャンマー統治をする際、バングラデシュ側から連れてきた人たちの子孫であるとされています。

しかしベンガル系の人たちが全員よそから来たというわけではなく、今はミャンマー国民として、エリート層になっている人も当然いる。そういう人たちとは違う形で、今も新たに難民が発生している。ベンガル系、あるいはイスラム系のいわゆる武装勢力もいて、それに対して国軍が掃討作戦をやったりする。その中で更に難民が出る。あるいは一般人に犠牲者が出る。
こういった様々な状況が重なり、かなり混迷しています。

ミャンマーとバングラディシュの国境を流れるナフ川 手前がバングラデシュ

有本:
もう少し言うと、バングラデシュ側からロヒンギャ族だと装って、新たにミャンマーに入ってきている流入民もいるということで、事態は本当に複雑です。ミャンマー政府がロヒンギャを弾圧しているんだ、というような簡単な話ではありません。事態は相当複眼的に見ないといけない。
日本のマスコミの報道は、西側欧米諸国の人権団体等々が言っている話をそのままなぞっているな、という感じですね。

飯田:
ロヒンギャが可哀想じゃないか、という一点だけで。

有本:
もちろん可哀想ではあるのですけどね。

ロヒンギャ問題解決の道は?

発展するヤンゴン中心部

飯田:
ミャンマー国内の世論というか、一般の人々の感情としても、治安維持の面も含めて国軍の掃討作戦というのは確かに必要なんだ、ということなんでしょうか。

有本:
現地ではそういう声もありますね。
それからロヒンギャ問題という点についてミャンマー国内の人たちは、自国で大変なことが起きていて、政府や国軍を非難しようという感じにはなっていません。ですから、つい最近まで国軍と戦闘を繰り広げていた、内戦の相手だった少数武装勢力のボスたちから見ても、ロヒンギャ問題は自分たちとは違うと言っています。

実はミャンマーには、井本勝幸さんという、少数民族と国軍の橋渡しをして、ミャンマーの内戦を止める努力をしている日本人がいます。井本さんはロヒンギャ問題についても、色々な形で動いておられます。
ロヒンギャの人たちが言っている、彼らが望んでいるような形で国境地帯に定住するということは、必ずしも簡単なことではありません。だから難民の人たちを中心に、人工の島などを作って、そこに住んでもらうのがいいのではと、井本さんが独自で動かれています。

彼らの軋轢というのは非常に根が深いんです。
新たにミャンマー国内にいるイスラム教徒、かつベンガル系人の安住の地を用意する、それを国際社会が協力していく。こちらの方がむしろ建設的で、ただミャンマー政府や国軍だけを責めたてるというのは、いい結果を生まないと思います。
一方で、現場でのいきすぎた暴力については、何らかの形で国際社会の目が入る必要があるとも思います。


(FM93AM1242ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!』9月4日放送分 )
http://www.1242.com/lf/articles/program/cozy/

ニッポン放送の他の記事