トランプ大統領の宿敵 捕虜からヒーローになった男ジョン・マケイン

  • 「アメリカの英雄」と呼ばれたマケイン氏が亡くなった時、国民は・・・。
  • ”王族の葬儀”のような報道ぶりと、1週間も続いた追悼イベント
  • 党派を超え国の為に尽力した氏への高評価は、分断されたアメリカの深刻さを物語るのか

「マケイン氏はヒーロー、トランプ大統領は卑怯者」

8月31日日米連邦議会議事堂前

男性の声が、ワシントンの連邦議会議事堂前の広場に響き渡った。
8月31日は、脳腫瘍で亡くなったマケイン上院議員の追悼式が議事堂で行われ一般参列が許され、多くの市民が集まっていた。

ニュージャージー州から来たレグロットさん67歳は、定年を迎え年金生活を送っているが、居てもたってもいられず、手作りのプラカードをもって駆け付けたという。「マケイン氏は英雄と呼ばれるべきだ、トランプ大統領とは違う。トランプ大統領は卑怯者以外の何者でもない。それを言いたくて来た」

ベトナム戦争で捕虜となり、生還したマケイン氏は「アメリカの英雄」と呼ばれてきた。
しかし、自らの政治姿勢を批判するマケイン氏をトランプ大統領は 「つかまって捕虜になったのだから英雄なんかじゃない」とこき下ろした。 マケイン氏ほどの大物政治家が亡くなった場合、大統領が功績などを称える長文の弔辞を発表するのが通例だが、マケイン氏死去の一報が駆け巡った25日、トランプ大統領はツイッターで短く死を悼んだだけだった。



「党派を超えて国を一つに」

連邦議会議事堂で追悼式典を行う栄誉を受けたのはジョン・F・ケネディ元大統領を含めこれまで30人だけ。マケイン氏は31人目となった。

8月31日 マケイン氏の棺に別れを告げるため並ぶ市民や軍人

午後1時から始まった一般参列は夜8時まで行われたが、議事堂周辺にできた行列は途切れることはなかった。
行列の中には、ケンタッキー州から17時間車を運転して駆け付けたという女性もいた、退役兵だが軍服を着て正装していた。 「マケイン氏は二極化するアメリカにあって、考えの違いを超えて、党派を超えて国を一つにしようと努力した立派な人だった」

”王族の葬儀”のような報道ぶり

マケイン氏が8月25日に悪性の脳腫瘍で亡くなるとアメリカのテレビ各局はマケイン報道一色になった。一連の追悼イベントが1週間続いたがその様子は中継で伝えられ、さながら王族の葬儀のような手厚い報道ぶりに驚かされた。

アリゾナ州で葬儀が行われた後、棺は空路ワシントンに運ばれたが CNNは霊柩車がアリゾナの空港まで向かう様子をヘリで追跡、空撮による中継は、棺を乗せた専用機が空のかなたに見えなくなるまで実況を交えて報じられた。途中、女性アナウンサーが感極まって言葉に詰まる場面もあった。この様なマケイン氏に対する熱狂ぶりは、党派を超えアメリカを一つにしようと尽力したマケイン氏への高い評価と、分断されたアメリカの現状がそれだけ深刻だという事の物語っているのかもしれない。

元捕虜がヒーローになるまで

捕虜となりベッドに横たわるマケイン氏

マケイン氏の“ヒーロー伝説”は1967年10月に始まる。 パイロットとしてベトナム戦争に従軍していた際に、乗っていた戦闘機が撃ち落され捕虜となった。マケイン氏の父親が当時アメリカ太平洋海軍の司令長官だったため取引材料として北ベトナムから早期解放を持ちかけられたが、マケイン氏はそれを直ぐに断ってしまう。「自分より先に捕虜となった兵士を一緒に解放するべきだ」というのが理由だった。結果として5年半の長期にわたって拘束され、壮絶な拷問が繰り返された。この時の傷が原因でマケイン氏の腕は肩より上に上がらなくなってしまう。

ベトナム戦争から生還しアメリカに戻ったマケイン氏は政界に入り、2000年と2008年の2度、大統領を目指した。いずれも大統領の座を勝ち取ることはできなかったが、08年に民主党のオバマ候補に敗れたマケイン氏の敗北宣言は今でも語り草となっている。

地元アリゾナ州で支援者を前に「オバマ氏を称える」と発言するたびに聴衆の中からブーイングが沸き起こるのを、「お願いだから待ってくれ」と手で制止しつつ、「次の大統領に全力で協力する」と約束した。その潔さは、党派を超えて愛されるマケイン氏の人柄を良く表している。

また、共和党議員でありながらトランプ大統領の政治姿勢を公然と批判した数少ない議員だった。亡くなる1か月前にも、米露首脳会談でロシア疑惑をめぐるプーチン大統領の主張を鵜呑みにする発言をしたトランプ大統領を「記憶する限り、アメリカ大統領によるもっとも恥ずべき行為」と非難し、最後まで舌鋒鋭くトランプ大統領を追及しつづけた。

党派を超えて愛されたマケイン氏 葬儀には数千人が参列

9月1日の葬儀には歴代の大統領が参列し、マケイン氏の死を悼んだ。 大統領選で共和党候補のマケイン氏と対決したオバマ前大統領は、追悼の辞を読み上げた。

「政治や演説が偏狭で意地悪なものとなり、大げさな言葉や侮辱、人為的につくられた怒りを伝えている。そうした政治が恐怖から生まれた」こう指摘したオバマ前大統領は大きく息を吸い込むと、こう語った。「それより大きく、良いものとなるよう、ジョン(マケイン氏)はわれわれに求めている」

~So much of our politics, our public life, our public discourse can seem small and mean and petty, trafficking in bombast and insult, and phoney controversies, and manufactured outrage... It's a politics that pretends to be brave and tough, but in fact is born in fear. John called on us to be bigger than that. He called on us to be better than that.~

名指しこそ避けたが、独善的な発信を続けるトランプ大統領と、分断され寛容さを失ってきている社会、そして混沌とする状況を打破する明確な回答を提示できない政治への批判のメッセージが込められていた。マケイン氏の葬儀に党派を超えて数千人が参列する中、招待されなかったトランプ大統領は終日、郊外のゴルフ場で過ごした。

大統領を2度目指した“ヒーロー”は2日、ホワイトハウスから車で1時間ほどのところにあるメリーランド州の母校、海軍兵学校に埋葬された。

(執筆:FNNワシントン支局長 藤田水美)

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