「塚原判定」で27年前にもNOを突き付けられた塚原夫妻 女子体操界の“引き抜き”という闇

  • 1991年、塚原光男氏が競技委員長の大会でボイコット事件
  • 千恵子氏はある意味選手の生殺与奪を握っていたとの声
  • 昔から塚原夫妻について声が上がっていたが、全部負けていた

体操の2016年リオデジャネイロ五輪女子代表、18歳の宮川紗江選手が日本体操協会幹部からパワハラを受けたと主張した問題で大揺れの体操界。

宮川選手が告発した対象となった塚原千恵子女子強化本部長(71)と夫で協会の副会長でもある塚原光男氏(70)が反論の文書や音声を公表するなど泥沼化の様相を呈しているが、そもそもなぜこのような事態に至ったのか。
「報道プライムサンデー」が現役の指導者や体操関係者を取材したところ、日本女子体操界の「ひずみ」と「闇」が見えてきた。

「塚原判定」で前代未聞の“ボイコット騒動”

競技中にもかかわらず外される体操クラブの旗

1991年11月。山形県で行われた全日本体操個人選手権。異変は、競技中に起きた。

観客席にいる選手たちが会場を後にしていく。中には泣いている女子選手もいる。さらに競技中にもかかわらず、スタンドに掲げられた体操クラブの旗をコーチが外し始める。当時女子競技委員長だった塚原光男氏がその様子を不満そうに見つめている。そして選手とコーチたちはそのまま会場を去っていった。

競技中、会場を去る選手とコーチ達

参加した女子選手91人中55人が大会をボイコットするという前代未聞の事態となったのだ。
当時、塚原光男氏と妻の千恵子氏は朝日生命体操クラブを率いていた。実はこの大会で塚原夫妻が自身の所属するクラブの選手に有利な採点をしたのではないかと抗議のためのボイコットだった。

その時の様末を、ボイコットした元女子体操選手は「(塚原夫妻が運営するクラブの選手が)段違い平行棒の規定演技で落下をしてしまいました。でも、失敗したにも関わらず、点数が高かったんですね」と明かす。

ロス五輪金メダリストの森末慎二氏によると、当時も日本女子体操界は「塚原体制」と言っても過言ではなかったと振り返る。

「今、流行りの言葉で言うと“塚原判定”。そのときは塚原千恵子さんが、主任審判ということで審判の一番偉い方で、(塚原夫妻が運営する)朝日生命体操クラブの選手には点が出る、そうでないところには点が出ない、という形の状況を作ってしまって」

当時、ボイコットしたコーチは「半年前なら半年前に『こういう(採点方針の)方向で大会を行いますので、皆さん頑張ってください。』という言われ方をすれば、どれだけ減点されようが、それは納得した上で競技会に出てこられる。そうじゃないというところにみんな不信感を抱いている」と話し、別のコーチも「ホントに、毎日練習してきて、それを正当に評価されないという、そのことの方が、選手がかわいそうではないかと」と、FNNの取材に答えている。


一方、激しく上がった抗議の声に、塚原光男氏は当時の取材でボイコットは卑劣だと反論していた。

「本当に純粋に選手のですね、あるいは日本の強化の為にとおっしゃるのならば、甘んじてこれを受けます。ただそうでないならば、この卑劣な手段に対して、私はちょっと許せません」
そう語る塚原光男氏は、当時、女子競技委員長だった。

体操協会を震撼させた27年前のボイコット事件。
結局、塚原光男氏が女子競技委員長を辞任する形となったが、実は、不満が爆発する背景には、塚原夫妻が運営する体操クラブによる選手の“引き抜き”があったという。

有力選手を自分のクラブに“引き抜き”!?

女子体操チームリーダーだった千恵子氏(1989年)

当時のことを知る現役指導者は「こんな状況になったのは、得点が偏ったこともあるが、“引き抜き”があったのが原因だと思う」と話す。

体操クラブに日本代表チームに参加するレベルの選手がいれば多くの生徒が集まってくる。有力選手はまさに貴重な存在だ。しかしその有力選手が引き抜かれると、クラブの経営にとっては大打撃となる。

しかも、塚原千恵子氏が行う“引き抜き工作”は現役の体操指導者によると、実に巧妙だという。今回の会見で、宮川選手は塚原千恵子強化本部長付の関係者から「朝日生命体操クラブ」で練習をするよう説得されたとしたうえで、次のように証言した。

「速見コーチの過去の暴力を理由に、速見コーチを排除して、(私を)朝日生命に入れる目的なんだと確信しました」

一方で別の現役指導者が塚原千恵子氏の引き抜き方法について、「最終的には『入れてください』と言ってきたから入れたと言うのが、最大の理屈だと思うが、きっかけは(塚原千恵子氏が)作ったりはしていると思う」と分析する。

塚原千恵子氏側は「この点についても事実と異なります。私たちは宮川選手に関して、一切、勧誘を行っておりません」と否定している。

なぜここまで強い権力を持てるのか

しかしなぜ、塚原千恵子氏が女子体操の世界でここまで権力を持つといわれるまでになるのだろうか?その強権ぶりを現役の体操指導者が明かしてくれた。


現役体操クラブ指導者:
(塚原千恵子氏が)協会の女子強化本部長として、強化本部の本部員のメンバーが、ほぼ自分の関係者、教え子やそういう自分の息のかかっている人ばかりで固めている。そしてそれが、体操協会さえ何も言わないくらい権力を持っていると感じている。

ーー具体的に、どのような権力をもっているというのか?

来年度の強化方針や選考基準や選考方法を決めていく。もしくは数々ある海外遠征の選手、派遣選手を推薦する者を決定していく。

ーー選手の生殺与奪を握っていると考えていい?

ある意味そうです。

若かりし頃に、指導者としても活躍する千恵子氏

塚原光男氏は、オリンピック3大会で金メダルを獲得した実績もある日本体操界最大の功労者の一人でもある。また妻の千恵子氏もメキシコシティーオリンピックに出場し、女子団体4位入賞。指導者としても40年以上日本女子体操界をけん引してきた。

池谷幸雄氏(五輪体操メダリスト)

池谷幸雄:
副会長は現場の実際のトップなんです。副会長は3人いますけど1人は新体操の方なんですね。もう1人の副会長の具志堅先生は男子という形で女子の本当のトップが塚原光男先生。女子の現場のことをしっかり見るのが塚原千恵子先生で、これが強化本部長。

奥寺健:
しかしこの2人は自分たちで体操クラブの運営もしているという構造です。

青島健太:
普通でいえばいろんな問題が起こりかねない形ではないか。利益を誘導できる立場なので。
塚原千恵子さんは女子体操界で実績含め素晴らしい貢献もされてきているとは思いますが、こういうことがないように要職は外れて自分の育てた選手を評価してもらうようにしてもらうなどすればよかったのではないか。

佐々木恭子:
兼任禁止などにしていかないと変わらないのでは?

左:鎌田實氏(諏訪中央病院名誉院長) 右:若狭勝氏(元東京地検特捜部副部長)

若狭勝:
仰る通りだと思いますね。自分たちの支配できるような体制にどんどん強化していっているということだと思う。天動説のように自分は動かない、不動なものだと思っているから旧態依然としたものが続いてしまう。世の中が変わってきてるから、それじゃあもう持ちこたえられない。

鎌田實:
宮川選手が声を上げたことで、こんなに長く夫婦二人でいろんなことを決める権力を握り続けたのかということに今回気づきましたね。具志堅副会長が「膿を出し切りたい」って言ってましたよね。91年の“塚原判定”の時に出し切れなかったことでこういうことが続いちゃっているので、今度こそ膿を出し切ってほしいなと思いますね。

昔から声は上がっていたが全部負けた…

パトリック・ハーラン:
先輩の皆さんがこれまでもっと早く声を上げればよかったのでは?

池谷幸雄:
実は、発言してきたりとか動きはあったんですけど、全部負けちゃってるんです。いろんな方面からいろいろと押し込まれるというか押さえつけられちゃって。体操界の関係者が言ったとしても上まで届かなかった。
今回現役の選手、日本代表に選ばれている選手が選手生命をかけて赤裸々に語っていることがものすごく大きくて、今回これで伝わったのでこれだけ大きく動いていると思う。基本的には体操界の人間は声を上げたかった人たちが多いのでその方たちはやっと声が届いたか、という気持ちでいるとは思います。

青島健太氏(スポーツライター)

青島健太:
今日番組で気づいたんですけど、オリンピックで活躍された池谷さんが組織の上の人に対して「先生」という言葉遣いをされているのに違和感を覚えるんですね。上下関係を生むような形が自然に生まれてしまう。選手とコーチはもう少しフラットな関係である方が今の時代にあっているかもしれないが、それがこういうものを生んでしまう組織としての習慣のようなものを含んでいると思う。

池谷幸雄:
一応、みなさん大先輩であるのと、先輩たちもメダルを取ってという先輩でもありますし、体操界の中の立場でいう上の方というのもありますんで、やっぱり「先生」と呼ばないと。「さん」ではちょっとおかしいかなと。


日本のスポーツ界で相次ぐ問題。
少なくとも、組織の都合で選手がその力を発揮する機会を奪われることだけは許されないはずだ。

(「報道プライムサンデー」9月2日放送分)

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