イージス護衛艦「あたご」改修の不可思議:どうなる、日本の弾道/巡航ミサイル防衛

カテゴリ:国内

  • 「あたご」型は改修でSM-3ブロックⅡAは発射できるようになる
  • 「あたご」型改修で遠隔迎撃(Engage On Remote)は出来るようにならない
  • 改修で「あたご」型は、CEC(共同交戦能力)を搭載せず。巡航ミサイル防衛が出来るようにはならない

平成31年度概算要求「あたご」型改修の内容決定

イージス・アショア

8月31日、防衛省が過去最大の5兆2986億円となる来年度予算の概算要求を決定した。
今回の概算要求には、「イージス・アショア」2基の取得関連費2352億円、弾道ミサイル迎撃用の迎撃ミサイル、SM-3ブロックIB及びSM-3ブロックIIAの取得に、約818億円、巡航ミサイル迎撃用のSM-6迎撃ミサイルの取得に約111億円、そして、イージス艦「あたご」をSM-3ブロックIIA迎撃ミサイルを発射できるようにするための改修に約75億円、ペトリオットPAC-3システム改修に約111億円等、多くの項目を盛り込んでいる。

2018年版 防衛白書

この背景には、防衛省が8月28日に発表した「2018年版 防衛白書」の情勢評価があるのかもしれない。
防衛白書は、6月に行われた史上初の米朝首脳会談で、北朝鮮の金正恩委員長が、朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を「文書で明確に約束した意義は大きい」と評価する一方で、北朝鮮が日本列島を射程に収める数百発の準中距離弾道ミサイル「ノドン」を実戦配備していることを例にあげ、米朝首脳会談後も脅威についての基本的な認識に変化はないとしている。

従って、防衛省にとって、弾道ミサイル防衛は喫緊の課題であるのだろう。

「あたご」は"イージスBMD5.1"、"CEC"を搭載せず

イージス護衛艦「あたご」

しかし、今回の概算要求で、注目されたのが、イージス護衛艦「あたご」改修の件。
「あたご」は、日米共同開発の弾道ミサイル迎撃ミサイル、SM-3ブロックIIAを発射できるように改修する、となっている。

SM-3ブロックIIAを発射するためには、イージス艦に「イージスBMD5.1」というシステムを搭載する必要があり、米弾道ミサイル防衛局(MDA)で開発中。

イージス護衛艦「まや」

7月30日に横浜の造船所で進水したイージス護衛艦「まや」は、このイージスBMD5.1を搭載する予定だ。
しかし、あたご型はイージスBMD5.1を搭載せず、その前のシステム、イージスBMD5.0または、イージスBMD5.0CUを改修した日本版システムを搭載して、SM-3ブロックIIAを発射できるようにするという。

イージスBMD5.1では、SM-3ブロックIIAの射程の長さを生かすため、他のイージス艦が発射したSM-3迎撃ミサイルを管制するEngage On Remoteという能力が付く。

SM-3ブロックIIA

しかし、この「あたご」型用のイージスBMD5.0または5.0CU改造の日本版システムではこのEngage On Remote能力は付かないという。
さらに、巡航ミサイル防衛 NIFC-CAに決定的に重要と言われるCEC(共同交戦能力)の端末、BYG-7Bは「まや」型には搭載されるが、「あたご」型には搭載されず、巡航ミサイルから日本を防衛することができる海上自衛隊のイージス艦は「まや」型のみとなりそうだ。

「あたご」が持てない遠隔迎撃能力=Engage On Remote

Engage On Remote(遠隔迎撃)能力とは、Aというイージス艦が、他のBというイージス艦、またはイージスアショアにSM-3迎撃ミサイルを発射させて、イージス艦Aが、イージス艦B、または、イージスアショアの発射したSM-3迎撃ミサイルを管制して、弾道ミサイルの迎撃を行うという能力のこと。

Engage On Remoteイメージ(画:岡部いさく氏)

この能力を日本防衛に当てはめれば、例えば、ノドン弾道ミサイルが次々に日本に向かって連射され、日本海側のイージス艦がSM-3迎撃ミサイルを撃ち尽くした。

太平洋側のイージス艦には、SM-3迎撃ミサイルが残っているけれども、日本列島の尾根があるため、上昇するノドン弾道ミサイルが日本列島の尾根に隠れて、太平洋側のイージス艦のレーダーで捕捉するのが遅れ、その結果、SM-3迎撃ミサイルの発射のタイミングが間に合わず、迎撃が難しくなるかもしれない。

そうした場合に、ノドンの発射を捕捉していた日本海側のイージス艦が、太平洋側のイージス艦やイージスアショアに「いま、SM-3を発射しろ」と連絡して、その後、日本海側のイージス艦が迎撃ミサイルを誘導する。そうすれば、迎撃の可能性は高まることになるかもしれない。

ここからは推測だが、このEngage On Remote能力が、今後も「あたご」型にはないとすれば、緊迫時には、日本海側に数少ない「まや」型が、展開し続けることが必要になるのではないだろうか。

さらに、海面上低くコースを変えながら飛んでくる巡航ミサイルは、日本海側からのみ、日本を狙ってくるとは考えにくいだろう。
「あたご」型にCEC端末が搭載されないのであれば、巡航ミサイル防衛も当面、「まや型」のみが対応可能と言うことになる。

勿論、横須賀を拠点とする米第7艦隊のイージス艦もEngage On Remoteによる弾道ミサイル防衛や、CECを使う巡航ミサイル防衛に協力はするかもしれないが、それを確実にするためには、政治の力が必要だろう。

日本が知らなければならない米の能力

日米安保条約で、日米は「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」と規定されている。

日米ガイドラインでは、更なる詳細が決められているはずだが、例えば、米イージス艦の一部が保有している、リアルタイムで変化する脅威の評価と味方の個々のイージス艦の能力に対応して、味方のイージス艦の配置をアドバイスするMIPS(海事発達型立案システム)のような能力を日本防衛に活用するためには、そもそも日本側の政治家を含む交渉当事者が、米側の能力を熟知しておく必要があるのではないだろうか。

コブラボール(撮影:久場悟氏)

8月27日、弾道ミサイルの飛翔を監視するたった3機しか存在しない偵察機、コブラボールが、沖縄・嘉手納基地に展開していた。
米朝首脳会談後の現在も、米軍は、日本周辺での弾道ミサイルを警戒しているということかもしれない。


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