“世界的な音楽家”が極上BGMで味付けした料理店

「トランプタワーのような音楽」に耐えかねて・・・

カテゴリ:話題

  • マンハッタンのあるレストランのBGMが話題に
  • 世界的音楽家・坂本龍一さんが選曲
  • ニューヨークタイムズ紙が報じて以来、多くのファンが来店

坂本龍一さん行きつけのレストランで

ニューヨーク・マンハッタンに、世界的な音楽家、坂本龍一さんが自らBGMを選曲したレストランがあります。

京都の生麩(なまふ)専門店がマンハッタンに出店した「こかげ(Kokage)」という店で、手打ち蕎麦や四季のアラカルトなどを楽しめます。店内には四季折々の壁掛け、宮大工の造ったテーブルが置かれるなど、オーナーのこだわりが感じられる落ち着いた雰囲気となっています。

マンハッタンの「こかげ」

一般的に、ニューヨークにある洗練された日本食レストランでは、BGMにジャズなどを流す店が多い中、「こかげ」はとてもユニークで、通常のレストランでは流れないような様々なアーティストの楽曲を坂本龍一さんが1曲ずつ丁寧に選んでいます。

「なるべく邪魔にならない静かな音楽を選び、その中で変化があること。あまり暗く、重たくなりすぎず、基本的に食事をするという楽しさを損なわないようにした」と、坂本さんは語ります。

そのBGMの選曲リストがこちら・・・

1 Threnody Goldmund
2 Promenade sentimentale  Vladimir Cosma
3 Light Drizzle Chihei Hatakeyama
4 TWTGA Bing & Ruth
5 The Flat Jóhann Jóhannsson
6 And Still They Move Colin Stetson, Sarah Neufeld
7 Graysmith's Theme - Piano Version David Shire
8 I Love Music Ahmad Jamal Trio
9 Four Walls: Act I, Scene 1 John Cage, Aki Takahashi, Megumi Hashiramoto
10 Some Nils Frahm
11 Love Theme From 'Spartacus' Bill Evans
12 Mistress Nicolas Jaar
13 Lament David Darling
14 When she went away Max Richter
15 Empire i Jon Hassell
16 Wrong I  h hunt
17 Gentle Threat Chilly Gonzales
18 India Song (piano) Carlos D'Alessio
19 Armellodie Chilly Gonzales
20 Claudia, Wilhelm R And Me Roberto Musci
21 Above the Treetops Pat Metheny Group
22 Tarde Wayne Shorter
23 Peace Piece Bill Evans
24 Variations on a Theme by St-Dipshit Kyle Bobby Dunn
25 Replica Oneohtrix Point Never
26 Cryo Oneohtrix Point Never
27 Nanou2 Aphex Twin
28 Avril 14th Aphex Twin
29 The Seasons: Summer John Cage, Stephen Drury
30 The Plum Blossom - Rudy Van Gelder Remaster Yusef Lateef
31 It Ain't Necessarily So Mary Lou Williams
32 Circling Nils Frahm
33 Day Two Three F.S. Blumm, Nils Frahm
34 String Quartet in Four Parts: II. Slowly Rocking - Live John Cage, JACK Quartet
35 Ate Quem Sabe Gal Costa
36 Garimpo Naná Vasconcelos
37 Is That What Everybody Wants Cliff Martinez
38 The Shade Eno Moebius Roedelius
39 Für Luise Cluster, Eno
40 Glide V Peter Davison
41 Arvo Part: Spiegel Im Spiegel (mirror In Mirror) Anne Akiko Meyers
42 The Weeping Meadow: Theme Of The Uprooting I - Live Eleni Karaindrou, Maria Bildea, Renato Ripo, Vangelis Skouras, Konstantinos Raptis, Alexandros Myrat, Camerata,Friends Of Music Orchestra
43 Signals No.1 Goldmund
44 Valsa de uma Cidade Joyce
45 I Don’t Stand A Ghost Of A Chance With You  Thelonious Monk
46 Les métronomes détraqués Christophe Rieger, Jean-Louis Marchand
47 My First Homage Gavin Bryars

「ジャンル」にとらわれず、様々なアーティストの楽曲を再度聞きなおして選曲して作られたリストには、アイスランド出身の作曲家、ヨハン・ヨハンソンや、ニューヨークを拠点に活動するワンオートリックス・ポイント・ネバー(OPN)の作品など47曲が選ばれています。

「こかげ」店内

「料理は桂離宮のように素晴らしいが、音楽はトランプタワー」

なぜレストランのBGMを坂本龍一さんが選ぶことになったのか?

去年7月、坂本さんから、当時この店のシェフをしていた大堂浩樹(おおどう・ひろき)さんにメールがありました。
「いつも美味しい食事をありがとう。1つだけ、1人の客として言わせていただきたいことがあります」という書き出しで始まった長文のメールには、「あなたの料理は桂離宮の美しさと同じぐらい素晴らしい」と賞賛する一方で、「店の音楽はトランプタワーのようです」と書かれていました。

当時、流れていたのは、ブラジルのポップミュージックと古いアメリカのフォーク音楽などが混ざり合ったBGM。これに耐えられなかった坂本さんは、イヤホンで別の音楽を聴きながら、食事することもあったといいます。

大堂さんは、坂本さんのアドバイスのもと、試行錯誤してジャズを何曲か選曲しましたが、その後坂本さんから「アイデアがある」と、選曲の申し出があったといいます。
その後、坂本さんは、店にもよく訪れるニューヨーク在住の音楽プロデューサー、高橋龍(たかはし・りゅう)さんとBGMを選曲。5~6回の変更を加えた上で、実際に店で音量や曲順などに随時調整を加えて、今の音楽リストを作成しました。

「こかげ」店内

「純粋に音楽が好きな子供のよう」

おもしろいのは、坂本さんは「レストランには常に音楽があるべきだとも考えておらず、無音あるいは静寂がふさわしいお店もある」と言い、むしろ、音楽がない方が良いと思うことも多いということです。

しかし、「こかげ」は店内の構造などにより「話し声や足音が響きやすく、その環境音を少し中和させる意味でも、音楽があることはベターだった」といいます。

また、「こかげ」のように席がゆったり配置されている店の場合、食事中に会話が途切れた時の完全な無音は重すぎるのではといったことも、選曲の最初の段階で考慮されたそうです。

当初は90分程度の楽曲リストでしたが、最終的には、長居する客のことも考え、前に聞いた音楽が繰り返されないよう、3時間以上のリストを完成させました。

選曲の過程を知るシェフの大堂さんは、坂本さんについて「公の場に出ないことはわかっていても、何度も店に足を運び、アイフォーンを聞きながら1人で蕎麦をすする姿は、プライドや名誉などを気にせず、純粋に音楽が好きな子どものようで感激し、心の底からリスペクトした」と振り返ります。

ニューヨークタイムズに掲載後、多くのファンが来店

選曲が坂本さんによるものだと知っていたのは当初、わずか数人だけでしたが、次第に口頭で広まり、7月下旬、ニューヨークタイムズが記事にしました。店によると、記事を読んでニューヨークだけでなくアメリカ西海岸やヨーロッパからも熱狂的なファンが次々と来店するようになったということです。

私自身は、これまで「こかげ」の前を何度か通りかかったことがあり、雰囲気のある店だと気になっていました。そして今回、この話を聞いて、1人でランチを食べに行ったところ、BGMが流れる店内には商談をしているサラリーマンや、和気あいあいと話している友人同士など、色んな客が食事を楽しんでいました。その姿を見て、このBGMは、どんなシーンにも寄り添ってくれそうな選曲だと感じ、食事は雰囲気やBGMも一緒に味わうものだと、改めて気付かされました。

(執筆:FNNフジテレビ ニューヨーク支局 武ゆかり)

取材部の他の記事