あの熱狂から2か月半…北朝鮮“非核化”はイマ?国務長官 突然の訪朝中止のなぜ?

ポンペオ国務長官は非核化協議から“抜けられるか”

カテゴリ:話題

  • ポンペオ訪朝計画の真の目的は“引継ぎ挨拶”
  • 北とのハイレベル・チャンネル維持なら抜け易い
  • トランプ大統領は“交渉の天才”の嗅覚で「待った!」
(左)北朝鮮担当特別代表 スティーブン・ビーガン氏  (右)ポンペオ国務長官

ポンペオ長官 訪朝の目的は“引き継ぎ”?

ポンペオ国務長官は8月23日、スティーブン・ビーガン氏がアメリカ政府の北朝鮮担当特別代表に就任したと発表した。同時に、26日の週に2人一緒に訪朝すると聞いた時、筆者は直観的に『ポンペオ氏は北朝鮮との非核化協議に見切りをつけ、最前線から退こうとしているんじゃないか?』と考えた。

その翌日、トランプ大統領がポンペオ氏の訪朝中止を指示したことで、案外、的外れな考えではなかったようだと意を強めた。その理由を説明しよう。

訪朝中止の理由は、トランプ大統領が「朝鮮半島の非核化で十分な進展が見込めないと感じているため」だ。
大統領のこの現状認識をポンペオ国務長官が共有していなかったとは考えにくい。

もしポンペオ国務長官が米朝協議について楽観的になれる理由があるのならトランプ大統領に、そう説明したはずだ。

例えば3回目の訪朝では金正恩委員長と会えなかったが4回目の今回は会談できる見通しがあるとか…。
しかし、会談の予定がなかったことは国務省報道官が認めた通りだ。

では、国務長官は大統領には明かさずに北朝鮮とギャンブルしようとしていた?
北朝鮮側が仕掛けてきているという情報も仄聞するが、トランプ大統領の了承なしにポンペオ氏が応じるとは思えない。

進展が見込めないのにポンペオ国務長官が訪朝しようという理由は何なのか?
筆者が考えうる合理的な説明は、北朝鮮の指導部に直接、スティーブン・ビーガン北朝鮮担当特別代表を引き合わせることだ。
ポンペオ国務長官が訪朝すれば、北朝鮮側は金英哲党副委員長が対応することになる。そこで特別代表を直に紹介し、「このビーガン氏がアメリカ側のチーム・リーダーで交渉責任者だ。私の名代としてこれまで同様の応対をしてほしい」と要請する。これが目的だから訪朝とどんぴしゃりのタイミングでの特別代表任命なのだ。

フォード副社長なんて北朝鮮にとっては“小物”

はっきり言おう。
北朝鮮にとってアメリカ政府の北朝鮮担当特別代表はCIA長官/国務長官とは比べ物にならない小物だ。それは歴代の特別代表の顔ぶれや北朝鮮側のカウンターパートがどのレベルだったかを見れば疑問の余地はない。
ビーガン特別代表は、直前までフォード・モーターの副社長だったが、ヒラの副社長32人のうちの1人にすぎず、その上には取締役の副社長らが15人いて、更に14人のボード・メンバーがいる(CEOだけは兼任)。

それに、トランプ大統領やポンペオ国務長官と特別な関係性を持った人物という訳でもなさそうだ。
であれば、金正恩委員長の右腕である金英哲氏がわざわざ対応するような相手ではない。北朝鮮は自他の肩書きや実力について極めてシビアな体制なので、ビーガン氏に対しては当然、対応者を実務レベルに落としてくるに違いない。

そんなことはアメリカの北朝鮮専門家なら百も承知だ。
にもかかわらずポンペオ国務長官が北朝鮮担当特別代表を任命し、平壌に連れて行こうとするのは、いつまでも自分が非核化交渉の先頭に立ってはいられないという事情、判断があると考えるのが自然だ。世界を相手にするアメリカの国務長官は本当に超多忙なのだ。

どうなる?北朝鮮の非核化

だが、もう一歩踏み込んでポンペオ氏の思惑を考えてみて欲しい。トランプ大統領が繰り返し発言していたように、非核化交渉が上手くいっているのであればこのまま先頭に立って自らの手柄とするのが得策だ。逆に見通しが暗いのならいつまでもかかずらわっていてるのは損というものだ。
現実には大統領がツイートで認めた通り、非核化は停滞し、大統領の不満は募っている。ポンペオ氏の非核化交渉への取り組み姿勢は微妙に揺れているように思えてならない。その証拠にビーガン氏のお披露目会見で国務長官は、北朝鮮の非核化はトランプ大統領の最重要政策で、特別代表が交渉責任者だ!と繰り返す一方、ポンペオ氏自身が今後どう関わっていくかについては一言も発しなかった。

トランプ大統領は“交渉の天才”の嗅覚で「待った!」

ポンペオ氏はCIA長官時代に大統領の評価と信頼を得た。そして金委員長との米朝首脳会談の実現を託され国務長官に就任。結果、シンガポールでの歴史的首脳会談の実現に導いた。頭も良ければ立ち回りも如才ないと考えて間違いない(前任のCIA長官のブレナン氏がロシア疑惑をめぐってトランプ大統領の怒りを買い機密情報へのアクセス権をはく奪されたのとは好対照)。訪朝にビーガン特別代表を帯同することによって、そうでなければ望めないハイレベルのコネクションを維持させる。それなら自分も退きやすいという計算はないか。

そこにトランプ大統領の突然の中止指示だ。
“交渉の天才”であるトランプ大統領は、ポンペオ国務長官の訪朝意欲に“勝ち逃げ”のにおいを感じ取ったのかもしれない。
当分の間、北朝鮮問題ではポンペオ氏に働いてもらうという意思表示をガツンとやったように受け取れる。
ポンペオ氏の訪朝は「中国との貿易摩擦が解決したあとになるだろう」と大統領ツイートは言うが、中国との「解決」のメドは全くなく、長期化は不可避と見られているのだから、ポンペオ訪朝もまたかなり先だと言っているに等しい。

トランプとポンペオ。この2人の人間関係はなかなか微妙で興味深いものがある。

(執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋)