貿易摩擦で2つの“時間との戦い”に直面する習主席

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  • 矢継ぎ早の追加関税攻勢にぐずぐずしてはいられない
  • トランプ支持者が痛みで揺らぐのを待たねばならない
  • 中間選挙の結果次第で米中貿易交渉の筋は書き変わる

矢継ぎ早の追加関税攻勢にぐずぐずしてはいられない

米メディアによると、米中両政府は11月にもトランプ・習近平会談を第三国で開催しようと動いているという。今月22日からはおよそ3ヵ月ぶりに事務レベルの貿易協議も行われる。こうした新たな展開について、「中国側が歩み寄り」を見せているという観測が聞かれるが、それは一面的な見方だ。

「中国の歩み寄り」の根拠は、アメリカとの貿易摩擦の影響で人民元安、株安が加速しており、習主席としては取り返しがつかなくなる前に貿易摩擦を収拾する必要に迫られている‥というものだ。経済成長が鈍化すれば共産党への不満が高まり、それは党が一番恐れる事態だ。実体経済への悪影響が顕在化する前に対処しなければならない、言ってみれば“ぐずぐずしてはいられない時間との戦い”に突き動かされているという解説だ。

トランプ支持者が痛みで揺らぐのを待たねばならない

だが、あまり指摘されていないが、もう一つ習主席が直面する“時間との戦い”がある。それは、トランプ支持者が貿易摩擦の悪影響を痛感するようになるまで“時間を稼がなければならない”というものだ。トランプ支持が盤石な状況ではいくら米中協議をやっても中国が譲歩するしかないからだ。

トランプ大統領の交渉ポジションを弱めるには支持者に懸念や不満を抱かせる必要がある。だからこそ中国は、7月6日発動の報復関税の対象品目として、自動車、大豆、牛肉、豚肉などトランプ銘柄を意図的に選んだのだ。今月23日発動の第2弾には、共和党の支持母体でもある石炭、石油、化学製品、医療機器などを含めた。労働者だけでなくビジネス・サークルからも反対の声が上がることを狙っている。

ただし、例えば鉄鋼労働者や穀物農家などアメリカの現場から伝わって来るのは、「影響は出始めているが、近い将来『公正な貿易』が実現するためだから今は辛くても我慢する」といった声だ。エコノミストの分析でも、貿易摩擦のネガティブな影響がアメリカで実感されるようになるまで6ヶ月程度はかかるという。だとすれば、年内は中国にとって望ましい交渉環境にはなりそうにない。

中間選挙の結果次第で米中貿易交渉の筋は書き変わる

しかし、その間も中国経済への圧力は加わり続ける。
中国側としては、既に発動された追加関税第1弾と今月23日の第2弾はやむを得ないとしても、9月にもとされる2000億ドル規模の第3弾の発動は是が非でも避けたいところだ。恐らくそれを意識して22日からの事務レベル協議再開、そして11月にも首脳会談という可能性を見せたのだと考えられる。アメリカ側を協議の席に引き込んでおかないと一方的にやられかねないからだ。
貿易摩擦の悪影響がアメリカ側に浸透するのを待ちつつ、中国での悪影響の拡大は食い止める。正に2つの真逆の“時間との戦い”に習主席は直面している。

そもそも、今は中国にとって望ましい合意が得られるようなタイミングでは全くない。
11月6日の中間選挙まではどんな交渉をやってみても、トランプ大統領は「素晴らしい取引ができた!」と勝ち誇れるように中国側に譲歩を迫りまくるに決まっている。
中国側は協議はするが、合意を急がず、時間を稼ぎ、追加関税第3弾の発動を遅らせることが上策だ。

そして中間選挙の結果を見届けてからが本格的な交渉の始まりだろう。
共和党が上下両院とも支配を継続できるかどうか、トランプ大統領のコア支持層の投票行動はどうだったのか。それによって大統領の任期後半の政治力は大きく左右されるし、中国側の交渉戦略も全く変わってくる。

11月にも第三国で首脳会談‥であるならば、逆に言えば11月後半までは米中首脳会談はないということだ。
それまでに、中国側は国内の景気対策でやれるものはやり尽くす。
北朝鮮やロシア、日本、ヨーロッパなどとの連携・関係強化も一段と進めなければならない。
北戴河会議を乗り切った習近平国家主席だが、一息つける暇は全く見当たらないに違いない。

(執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋)